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胸痛の患者さんにはすぐ冠動脈CTを撮るべきなのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
冠動脈疾患の検査法の比較.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
心臓病の疑われる患者さんへの、
診断のための検査法についての論文です。

心筋梗塞は心臓を栄養する冠動脈という血管が、
何らかの原因で詰まることにより、
心臓の筋肉に酸素が供給されなくなる病気です。

そのまま血管の閉塞が続けば、
酸素が供給されない心臓の筋肉は壊死し、
その範囲が大きければ、
命に直結する事態となります。

心筋梗塞の主な原因は動脈硬化です。
冠動脈に動脈硬化の変化が起こり、
血管が硬く狭くなり、
一時的に血流が遮断される狭心症を繰り返して、
最終的には動脈硬化巣が出血したり、
血栓が詰まったりして、
心筋梗塞に至ります。

通常は心筋梗塞になる前に、
狭心痛と呼ばれる胸の痛みが繰り返されるので、
その時期に適切に冠動脈疾患を診断し、
薬物治療やカテーテルによるインターベンション、
バイパス手術などの適応を決定することが、
臨床医にとって重要な仕事になります。

さて、冠動脈の狭窄などを診断するために、
必要な検査はどのようなものでしょうか?

胸痛などの症状から狭心症や心筋梗塞が疑われれば、
まず通常の心電図検査と血液検査が行われます。
実際に心筋梗塞が進行していれば、
それだけで診断がほぼ付くので、
原則専門施設に速やかに搬送の上、
即日入院で治療が行われます。

そこまでの状態ではないものの、
症状経過から狭心症が疑われる場合には、
運動をしてもらって心電図の変化を見る、負荷心電図検査や、
運動や薬で心臓に負荷を掛け、
微量の放射性物質を使用して、
その心臓の筋肉への集積を見る、心筋シンチ検査、
心臓の動きに問題がないかや、
弁膜症、心筋症などの異常がないかを見る、心臓超音波検査
(負荷を掛けて行なうこともあります)、
24時間の心電図の変化を記録解析する、
1日心電図検査などを適宜組み合わせて行なって、
診断を絞り込むことになります。

こうした検査で異常の存在が疑われれば、
心臓カテーテル検査が考慮されることになります。

これは実際に血管に管を入れて造影検査を行ない、
どの血管が細くなっているかを確認するものなので、
確定診断と言ってよいのですが、
その一方で身体に負担が掛かり、
放射線も多く掛かる上に、
血管の解離や出血などの合併症も少なからずある、
リスクのある検査でもあります。

僕が循環器のトレーニングを受けた20年以上前には、
少しでも検査で狭心症を疑う所見があれば、
すぐに心臓カテーテル検査が行われるのが通例でした。
また、心臓に負担の予想される大きな手術の前には、
あまり疑いがなくても、カテーテル検査が行われていました。

それは、
心臓の血管の太さを直接見るような方法が、
心臓カテーテル検査以外には、
存在していなかったことが大きな理由でした。

しかし、近年心臓の造影CT検査が長足の進歩を遂げ、
通常の造影CTと同じように、
腕の静脈から造影剤を入れて写真を撮るだけで、
心臓カテーテル検査に遜色のない、
冠動脈の画像が得られるようになりました。

この検査は日本以上にアメリカで広く行われていて、
心臓カテーテル検査の施行事例は激減、
その一方で心臓CT検査の件数はうなぎ上りに増加しています。

そのために健康保険組合では、
この造影CT検査を適応とすることに、
その負担の急増から躊躇するところも多いようです。
(これはアメリカの話です)

心臓カテーテル検査は、
患者さんに負担の掛かる検査ですから、
それが減ることは良いことなのですが、
その一方で心臓CTはコストも掛かり、
放射線の被爆も多い検査ですから、
本当に必要な患者さんにのみ、
この検査が行われているのか、
それとも、
取り敢えずCTをやっておけ、とばかりに、
医師が思考停止に陥って、
過剰な検査が行われているのではないか、
という点が問題となります。

今回の研究では、
症状があって冠動脈疾患が疑われた患者さんを、
くじ引きで2つの群に分け、
一方は最初から造影冠動脈CT検査を行ない、
もう一方では、
まず、運動負荷心電図検査、負荷心筋シンチ検査、
負荷心臓超音波検査のいずれかを行ない、
その後は検査の結果によって、
担当医の判断により、
追加検査や診療の方針が決定されます。
そして、平均観察期間25ヶ月において、
両者の予後を比較検証しています。
最低でも1年の観察期間が取られているのが条件です。

診断のための検査の優先順位を予めくじ引きで決め、
その予後を比較するという臨床試験は、
冠動脈疾患のような緊急性のある分野では、
あまり行われていないものだと思います。

こうした試験はその意味で貴重なのです。

対象は北アメリカの複数施設で、
外来を受診した患者さんの中で、
主治医が心血管疾患を疑うような症状があり、
緊急性があったり、
すぐに心臓カテーテル検査が必要という判断のない、
トータル10003名の男女で、
それをくじ引きで2つの群に分けます。

ただ、登録後に最初の判断が変更されるケースもあるため、
冠動脈造影CTに振り分けられた4996名中、
実際に最初にCTが施行されたのは、
全体の93.8%に当たる4686名でした。
CT以外の負荷検査優先群では、
3分の2以上の患者さんで、
心筋シンチの検査が選択されていました。

その結果…

平均観察期間25ヶ月の間に、
死亡、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、
治療や検査による重篤な合併症を来たしたのは、
CT検査優先群では3.3%に当たる164例で、
負荷検査優先群では3.0%に当たる151例でした。
要するに全く予後に違いはありませんでした。

細かく見ると、
検査後に必要と判断されて行われた心臓カテーテル検査で、
有意な狭窄のなかった比率は、
負荷検査優先群では4.3%であったのに対して、
CT検査優先群では3.4%で、
これは有意差がありました。

つまり、偽陽性はCT検査の方が、
それ以外の機能検査よりも少ない、
ということが示唆されます。

しかし、登録後90日以内に、
緊急の心臓カテーテル検査が必要となった比率は、
負荷検査優先群では8.1%出会ったのに対して、
CT検査優先群では12.1%と、
こちらはCT検査優先群の方が、
有意に高い結果でした。

このことは、
実際に急性の心筋梗塞に結びつき易い不安定な病変を、
CT検査では見落とす可能性がより高い、
ということを示唆しています。

検査の被ばく量については、
累積の被ばく量の患者さん1人当たりの中央値は、
CT検査優先群が10.0ミリシーベルト出会ったのに対して、
負荷検査優先群では11.3ミリシーベルトで、
CT検査の方より負荷検査の方が高い、
という結果になりました。
これは、負荷検査の3分の2以上が、
心筋シンチで施行されていて、
その被ばく量が低線量CTより高いためです。

ただ、シンチ以外の検査は放射線の被ばくはないので、
全被ばく量の平均は、
負荷検査優先群では10.1ミリシーベルトに対して、
CT検査優先群では11.3ミリシーベルトと、
CT検査がより高い、という結果になりました。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

まず、トータルにはどちらの検査を先に行なっても、
2年くらいの期間の患者さんの予後に、
明確な差は付いていません。

今回負荷検査の主体となっている心筋シンチは、
負荷を掛けて心臓の筋肉への放射性物質の取り込みを見るもので、
より虚血の程度を判断することが可能です。
一方で心臓CTは血管の狭窄の有無を、
心臓のカテーテル検査と、
それほど違いのない精度で検出することが可能です。

従って、心筋シンチは偽陰性が少なく、
心臓CTは偽陽性が少ない検査である、
ということが言えます。

ただ、その違いは冠動脈疾患の場合には、
それほど大きなものではないので、
症状経過とどちらかの検査を行なって、
そこから心臓カテーテル検査の適応を決定する、
という方針で両者に大きな差は生じないようです。

放射線被ばく量としては、
CTよりもシンチの方が被爆量は大きく、
この2つの検査の比較ということのみで言えば、
CTの方がむしろ被爆量は少ないのです。
ただ、シンチを行なわずに、
負荷心エコーや負荷心電図のみの検査で、
心臓カテーテル検査の適応を決めるとすれば、
その場合は最も被ばくを少なくすることが出来ます。

従って、今回のようにシンチとCTの比較ではなく、
負荷心電図や負荷心エコー、24時間心電図などとの組み合わせと、
最初からCTという比較の方が、
被ばくの対比という観点では良かったようにも思います。

どういう病変が症状から疑われるかによっても、
どの検査を優先して行なうかは違いがあると思うので、
必ずしも冠動脈疾患で一括りにして、
第一選択の検査を決めるというのは、
あまり適切なことではないと思いますが、
冠動脈CTの意味付けが、
かなり大きくなっていることは事実で、
今後はその必要性と、
医療費の適正化との兼ね合いの方が、
国内外を問わず問題になるのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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ひでほ

fujiki先生、こんばんは
冠動脈CTって、ひょっとしてコロナリーCTのことでしょうか。
AVRの入院前に一応調べておきましょうと受けたことがあります。
受ける前に薬を飲んだような記憶があり、造影剤が普段よりも熱く感じられたような気がしました。
またまた、ためになる情報のUPありがとうございました。
by ひでほ (2015-04-10 21:43) 

fujiki

ひでほさんへ
そうです。コロナリーCTのことです。
by fujiki (2015-04-10 22:15) 

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