SSブログ

福島健康調査における異所性甲状腺内胸腺腫の頻度 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
福島における甲状腺内胸腺腫の頻度.jpg
今年のThyroid誌に掲載された、
日本の小児における、
異所性甲状腺内胸腺腫の頻度を検討した論文です。

福島の原発事故後の健康調査のデータを活用したもので、
世界的にもこうしたデータは、
まとまったものは存在していないと思います。

胸腺は大人になると萎縮して消滅する、
リンパ系の腺組織で、
胸腔内にありますが、
胎生期には首の部分にあってそこから下降するので、
その一部が頚部に残存することがあり、
更にその一部は甲状腺内に残存することがあります。

これが異所性甲状腺内胸腺腫で、
大元の胸腺と同じように、
大人になると萎縮して消失すると思われます。

この甲状腺の胸腺腫は、
放っておいて問題はないものですが、
超音波の所見では甲状腺腫瘍のように誤認されることがあります。
それで甲状腺に針を刺して細胞を採取する、
穿刺吸引細胞診を行なうと、
未分化のリンパ球が採取されるので、
悪性リンパ腫や髄様癌、未分化癌などと誤診され、
手術が行われた、
と言うケースが複数報告されています。

従って、
こうした所見があることを知っておくことは、
誤診を防ぐために重要なことなのです。

この異所性甲状腺内胸腺腫は、
非常に稀な所見と考えられて来ましたが、
小児の甲状腺超音波のデータ自体が少ないので、
その正確な頻度は不明で、
意外に多いのではないか、
ということを示唆する報告もあります。

今回のデータでは、
37816名のお子さんの甲状腺超音波所見を解析し、
そのうちの0.99%に当たる375例に、
異所性甲状腺内胸腺腫を認めています。

施行された年齢層は0から18歳で、
甲状腺内胸腺腫の事例の平均年齢は7.0歳です。
明確な男女差も甲状腺内の左右差もありません。

異所性甲状腺内胸腺腫の頻度は、
年齢が上がるほど低下します。
5から9歳と、10から14歳の年齢層においては、
BMIが低いほど甲状腺内胸腺腫の頻度が多い、
という相関が有意に認められました。

このことは、
BMIが大きいほど、
つまり肥満の傾向があるほど、
甲状腺内胸腺腫は早期に退縮する、
ということを示唆していて、
この傾向は特に女児において顕著に認められ、
おそらくは思春期の性ホルモンの上昇が、
胸腺腫の退縮に大きな役割を果たすとする、
これまでの報告に合致するものと考えられます。
思春期の脂肪の増加は、
性ホルモンの上昇を示唆する所見であるからです。

今回のデータでは、
甲状腺内胸腺腫の診断は超音波所見のみで付けられています。

それで、問題はないのでしょうか?

厳密に言えば、
甲状腺腫瘍を誤診している可能性もないと言えないのですが、
今回5ミリを超える充実性のしこりは二次検査にまわり、
今回に使用された集団の範囲では、
1例の甲状腺内胸腺腫と、
12例の甲状腺乳頭癌が診断されています。

穿刺吸引細胞診による乳頭癌の診断は、
手術後も1例も覆ってはおらず、
その意味で甲状腺内胸腺腫の超音波診断は、
多くの事例で間違いはないもののようです。

最後にこれまでにも何度かご紹介していますが、
異所性甲状腺内胸腺腫の超音波画像を、
まとめてご紹介します。
おそらくこれだけ多くの画像は、
他にはあまりないと思います。

それではまず、上記文献にある典型事例です。
異所性甲状腺内胸腺腫その1横断.jpg
こちらは甲状腺を横切りにした超音波画像で、
矢印の先が胸腺腫です。

紡錘形をしていて、
辺縁はあまり綺麗ではなく、
内部のには粗い点状の高エコー部位が散在しています。

次をご覧下さい。
異所性甲状腺内胸腺腫その2縦断.jpg
これは同じ事例の甲状腺の縦切りの画像です。
矢張り同様の所見を示しています。

甲状腺癌はこのように紡錘形の形状にはならず、
内部エコーももっと低エコーになります。
腺腫はもっと辺縁がくっきりしていて、
内部にもあまり点状の高エコーの部位はありません。

従って、
この画像のみで、
ほぼ胸腺腫と判断が可能なのです。

では、今度は診療所の事例を見て頂きます。
甲状腺内胸腺腫画像診療所.jpg
これは画像が悪いですが、
診療所での事例です。
6歳くらいのお子さんの甲状腺で、
比較的典型的な甲状腺内胸腺腫を認めます。

もう1つ診療所の事例をお見せします。
異所性甲状腺内胸腺腫.jpg
これも縦切りですが、
比較的典型的な所見です。

では今度は別個の文献からの画像です。
甲状腺内胸腺腫画像1.jpg
次に同じ事例の縦切りです。
甲状腺内胸腺腫画像2.jpg
割合に大きくて辺縁が不整な感じもあります。

次はこちら。
甲状腺内胸腺腫の手術事例の画像.jpg
良く見ると中にエコーレベルの高い、
点状の部分が散在しているのですが、
全体には低エコーで判断を迷うところです。
でも、形状は紡錘形です。

後半の事例は腫瘍も疑ったので手術となり、
結果として胸腺腫であった、
という事例です。

別のものもお見せします。
甲状腺内胸腺腫画像3.jpg
これは5歳のお子さんで、
別の文献からの画像です。
比較的典型的な所見です。

このように、
思春期前の小児の甲状腺超音波所見においては、
甲状腺内胸腺腫は1パーセントは存在してもおかしくはない、
重要な所見の1つで、
その意義は今回の福島の健康調査の結果において、
初めて明確に認識されたものだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(20)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 20

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0