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乳幼児期のピーナツの摂取とアレルギーとの関連性 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後はレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ピーナツアレルギーと乳幼児期のピーナツの摂取.jpg
先月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
乳幼児期のピーナツ成分の摂取が、
その後のピーナツアレルギーの発症に、
与える影響についての論文です。

欧米ではピーナツアレルギーが過去10年で、
倍増しているというデータがあります。
アメリカでは1997年には0.4%の有病率であったものが、
2010年には2%まで増加しているとのことです。

ピーナツアレルギーはアナフィラキシーという、
ショックを起こすような重篤なアレルギーの主な原因となっていて、
その意味でも深刻な問題とされています。

アジアでは比較するとピーナツアレルギーは少ないのですが、
それでも増加していることは間違いがないようです。

食物アレルギー診療ガイドライン2012によれば、
日本におけるピーナツアレルギーは、
2歳以降で増加し、
2から3歳の年齢層では、
原因となる食物の5.2%で第4位を占め、
4から6歳の年齢層では6.2%で第5位を占めています。

ピーナツアレルギーは、
このように乳幼児期に成立する可能性が高いと考えられるため、
1998年のイギリスの診療ガイドライン及び、
2000年のアメリカの同様のガイドラインにおいては、
アレルギーの素因が高いと考えられるお子さんでは、
乳幼児期の食事から、
ピーナツを除去することが推奨されました。

ところが、
こうした除去食でアレルギーを予防する試みは、
あまりはっきりとした成果を示していません。

そのために、
2008年にはこのアレルゲン除去の推奨は、
ガイドラインからはなくなりました。

そして、
果たして乳幼児期にどのような食事をすれば、
その後の食物アレルギーを予防出来るのか、
という問題は未解決のまま残されたのです。

2008年にびっくりするような報告が論文になりました。

同じ祖先を持つイギリスのユダヤ人と、
イスラエルのユダヤ人とを比較すると、
イギリスのユダヤ人の方が10倍もピーナツアレルギーの頻度が高く、
その原因を検索すると、
乳幼児期のピーナツの摂取の違いに至りました。

イギリスではピーナツの成分を含む食事を、
乳幼児期には殆ど摂らないのに対して、
イスラエルにおいては、
生後7ヶ月からピーナツを含む食事を、
多く摂る習慣があったのです。

ここにおいて、
ピーナツを除去するのではなく、
むしろ積極的に乳児期から摂る方が、
その後のピーナツアレルギーを予防する役に立つのではないか、
という考えが生まれました。

今回の研究はその点を介入試験として検証したものです。
イギリスの単独施設において、
アトピー性皮膚炎もしくは卵アレルギーを有している、
生後4ヶ月から11ヶ月の乳児640名を登録し、
プリックテストというアレルギーの皮膚反応の試験で、
その時点でのピーナツアレルギーの素因をチェックした上で、
くじ引きで2つの群に分け、
一方はピーナツを含む食事を除去し、
もう一方はピーナツを含む食品を定期的に摂取させて、
生後60ヶ月まで経過観察を行ない、
その間のピーナツアレルギーの発症の有無を検証しています。

ピーナツアレルギーが発症したかどうかは、
その観察期間中のピーナツ摂取による症状の有無、
もしくは経口負荷テストにより診断されます。
(二重盲検プラセボ対照負荷試験という、
厳密な方法で検証されています)

その結果…

登録時にプリックテストが陰性、
すなわちまだピーナツアレルギーを発症してないと想定される、
530名をintention-to-treat解析したところ、
生後60ヶ月において、
ピーナツアレルギーを発症したのは、
摂取群で1.9%であったのに対して、
ピーナツ除去群では13.7%で、
ピーナツ抽出物を積極的に摂取した方が、
有意に発症が予防される、
という結果でした。

登録時にプリックテストが陽性の98名の解析では、
摂取群で10.6%がアレルギーを発症したのに対して、
ピーナツ除去群では35.3%が発症していて、
素因のあるお子さんにおいて、
よりその効果は高まるという結果でした。

ピーナツアレルギーの素因のあるお子さんに、
ピーナツの積極的な摂取を行なうと、
重篤なアレルギー反応が増加するリスクが高まるように思いますが、
実際には除去群との間で、
有害事象には差は認められませんでした。

食物アレルギーに対しては、
以前には乳幼児期に原因となり易い食品を除去した方が、
アレルギーの進行が予防されるという考えがありましたが、
最近ではむしろ早期にその食品に慣れさせる方が、
より有効であると考えられるようになりました。

ただ、現状はまだ色々な考え方があり、
またお子さんの状況により、
対応が異なる場合もありますので、
この問題に関しては、必ず信頼のおける小児科の医師に、
ご相談の上対応を決めて頂くようにお願いします。

また、乳幼児期にピーナツをそのまま食べることは、
気管に詰まるリスクがあり、
絶対にお薦め出来ません。
上記文献のピーナツの摂取は、
あくまでピーナツバターやオイルなど、
ピーナツ成分を含有する食品での摂取ですので、
その点は誤解のないようにお読み下さい。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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