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ワルファリンによるコレステロール塞栓症とそのメカニズム [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ワルファリンによるpurple toe 症候群.jpg
2014年のBMJ Case Rep.誌に掲載された、
抗凝固剤であるワルファリンによる、
足の塞栓症の副作用についての症例報告です。

ワルファリンはビタミンK依存性の凝固因子の阻害剤で、
血を固めて血栓にするのに必要な凝固因子を抑えることにより、
血栓を生じ難くする薬です。

一般には「血をサラサラにして脳卒中を予防する薬」、
のように説明されます。

その主な使用目的は、
心房細動という不整脈の患者さんの、
脳塞栓の予防と、
静脈血栓症の患者さんの肺塞栓の予防です。

最近までこの目的に使用可能な飲み薬は、
ワルファリン(ワーファリン)だけだったのですが、
2011年以降、
直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(プラザキサ)、
凝固因子Ⅹa阻害剤のリバーロキサバン(イグザレルト)、
アピキサバン(エリキュース)と、
立て続けに新薬が発売され、
治療の選択肢は増えました。

ただ、明日記事にする予定ですが、
腎機能が低下している心房細動の患者さんは多いにも関わらず、
その場合に使用出来る薬剤は、
現状はワルファリンしかない上に、
その安全性には疑問符が付く、
というような事情もあり、
一概に選択肢が広がったと、
素直に喜べるような状況にはまだありません。

新薬は発売されましたが、
まだまだワルファリンが第一選択となる状況もあり、
また新薬が本当にワルファリンより、
効果や安全性の点で優れているという、
データはそれほど多くはないのです。

ワルファリンは非常に有用性の高い薬ですが、
多くの欠点も有している薬です。

良く知られているのは、
ビタミンKにその効果が依存するので、
納豆など食事の制限が必要となる点や、
多くの薬剤との相互作用がある点、
急に使用を中止すると、
脳塞栓などの血栓症が生じるリスクが数倍増加する、
という点などですが、
それ以外にあまり認知されていないのが、
ワルファリンの特に使用開始早期に多い、
末梢血管の塞栓症の合併症です。

ワルファリンは血栓予防の薬なのに、
それを開始したことによって、
塞栓症が起こるというのは、
一体どういうことなのでしょうか?

不思議に思われる方が多いかも知れません。

まず、上記症例報告に提示されている事例をご紹介します。

患者さんは高血圧や痛風の持病のある、
82歳の男性で、
新たに心房細動という不整脈になったため、
ワルファリンが開始されました。
開始用量は10ミリグラムからのようで、
日本での治療開始より、
用量的には多いと思います。

ワルファリン開始後2週間で、
患者さんは足の痛みと皮膚の変色を訴えました。
その問の画像が上にありますが、
見辛いと思いますので、
拡大して提示します。
こちらです。
紫踵症候群の画像.jpg
足の色が全体に赤黒く変色していて、
良く見るとその中により色の濃い、
紫色のシミのような部分が複数認められます。

こうした所見を、
Purple toe 症候群もしくはBlue toe 症候群と呼んでいます。

この患者さんはワルファリン開始前には、
特に足の血行不良を疑わせるような、
足の冷感や歩行時の痛みなどの症状はなく、
ワルファリンのコントロールは平常のレベルで、
血液疾患も認められませんでした。

それで担当医はワルファリンによるコレステロール塞栓症を疑い、
ワルファリンをⅩa因子阻害剤である、
アピキサバン(エリキュース)に切り替えました。
すると、症状は速やかに改善し、
足の変色も徐々に元に戻りました。

どうしてこのようなことが起こったのでしょうか?

ワルファリンの使用の開始早期に、
小さな血管の塞栓症が誘発されることは、
これまでに複数の報告が存在しています。

その一方でコレステロール塞栓症と言われる全身の塞栓症が、
心臓のカテーテル治療などの後に、
起こることが知られています。

カテーテル治療を行なう患者さんは、
ワルファリンを使用していることも多く、
両者はオーバーラップしている、
という見解が今では一般的です。

カテーテル治療後に塞栓症を起こした事例において、
皮膚の生検を行なうと、
微小な血管を塞いでいる、
炎症細胞を含むコレステロールの結晶が見付かります。

つまり、この病態は微小な血管に、
コレステロールの塊が詰まって起こるのです。

カテーテル治療後すぐにこうした病態が起こることからは、
血管壁の動脈硬化巣(プラーク)が、
カテーテルなどの刺激によって、
機械的に削り取られ、
それが詰まることが想定されます。

そして、
ワルファリンの使用下で、
そうしたことが起こり易いとすれば、
ワルファリンの抗凝固作用によって、
プラーク内の出血が遷延し、
プラークが不安定化して剥がれ易くなると共に、
遊離したコレステロール結晶が、
詰まり易くなるようなメカニズムが想定されます。

ワルファリンの使用後早期に起こる塞栓症は、
プロテインCとプロテインSの欠乏症で起こることと似ています。
この2種類の物質はビタミンK依存性で、
他のビタミンK依存性の凝固因子とは異なり、
抗凝固作用と凝固の調節に働いています。

ワルファリンはビタミンK依存性凝固因子を阻害すると共に、
プロテインCとプロテインSの働きも阻害します。
一見矛盾するようですが、
プロテインCやSの活性に問題がなければ、
実際的にはワルファリンの継続的な使用により、
トータルには抗凝固作用が前面に立つ訳です。

しかし、ワルファリンの使用量が過剰であったり、
元々体質的にプロテインCやSの欠乏傾向があると、
バランス的に血栓塞栓傾向の方が前面に立ち、
こうした現象が起り易くなると考えられるのです。

それでは、
ワルファリンの使用により、
こうした血栓塞栓傾向が生じた時にはどうすれば良いのでしょうか?

以前であればワルファリンの代用薬がないので、
対応が困難でしたが、
今後は新規の抗凝固剤への切り替えが有効な選択肢です。
それ以外にプロスタグランジンE1のような、
血管拡張薬にも一定の効果が期待出来ます。

新規抗凝固薬としては、
ダビガトラン(プラザキサ)は直接トロンビン阻害剤なので、
トロンビンでプロテインCが活性化されることを考えると、
ワルファリンと同様のことが起こるリスクを否定出来ません。
そうなると、
無関係なⅩa阻害剤のリバーロキサバン(イグザレルト)と、
アピキサバン(エリキュース)が、
選択肢としては望ましく、
今回の文献の記載によれば、
これまでにアピキサバンによる、
コレステロール塞栓症の事例はないそうです。

それでは今日のまとめです。

ワルファリンの導入初期の有害事象に、
Purple toe 症候群と呼ばれる末梢の多発塞栓症があり、
カテーテル後のコレステロール塞栓症と、
同様の病態と考えられます。

ワルファリンを処方する医療者は、
こうした事例のあることを念頭に置き、
患者さんの足などに紫斑様の変化や疼痛が出現した際には、
ワルファリンの効果不充分というように誤解することなく、
ワルファリンの変更など、
適切な処置を取る必要があります。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

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ひでほ

8年前にワルファリンと(フェロン)ペガシス、コペガスの併用はいやだ云々と地元病院の消化器主治医が申しまして、AVRで生体弁を選択しました。ワルファリンをのみながらのIFN治療がぜんぜん問題ないという先生もいらっしゃって、意見はまちまちでした。
先生はどうおもわれますでしょうか。
by ひでほ (2015-02-23 10:42) 

fujiki

ひでほさんへ
私はインターフェロンは使用していないので、
断定的には言えないのですが、
禁忌ではないと思います。
ただ、ワルファリンは相互作用が非常に多いので、
その意味で併用には消極的な先生も、
いらっしゃるのだと思います。
by fujiki (2015-02-23 13:16) 

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