SSブログ

高濃度乳腺にどう対処するのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高濃度乳腺.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
解説記事ですが、
マンモグラフィによる乳癌検診の落とし穴と、
その対応についての内容です。

マンモグラフィというのは、
現状では唯一その死亡リスクの低下が確認されている、
乳癌検診の方法で、
乳房を押し潰すようにして、
レントゲンを照射する方法です。
日本でも現在乳癌検診のスタンダードとして、
施行されています。
ただ、この方法は1回少なくとも1.5mSv程度の、
乳腺への被爆を伴います。
(実効線量では0.05から0.15mSv程度)
また、高齢者のように乳腺が減少して、
脂肪に置き換わったような状態では、
診断能が高いのですが、
若い方のように乳腺が発達していてその密度が高いと、
病変を見つけ難い、という欠点があります。
デジタル化された最新のマンモグラフィの機器では、
その欠点がある程度改善されていますが、
今度はコストが高くて、
全てにそれを導入すると、
医療機関が赤字で検診を行なう事態になる、
というような意見もあります。

多くの大規模な臨床試験などの解析によると、
マンモグラフィによる乳癌検診が、
最も有効で受診者の死亡リスクを低下させるのは、
60歳代での検診で、
この場合受診により死亡のリスクは3割以上低下します。

その次に有用性が高いのは、
50歳代と40歳代で、
いずれも15%程度死亡のリスクを低下させています。
75歳以上では、
検診自体の有用性が確認されていません。

しかし、40代においては、
アメリカではその癌の発症率は50代より低く、
その検査の偽陽性、すなわち、
異常所見がマンモグラフィで検出されたけれど、
実際には癌ではなかった、
という事例の多さが問題となります。

従って、40代では全員に洩れなく施行するような検診ではなく、
むしろ個々の方の乳癌の発症のリスクに応じて、
検診のプランを建てるのが妥当ではないか、
という方針に、
アメリカでは転換が図られています。

マンモグラフィの検診で40代の有効性が落ちるのは、
アメリカにおいてはその頻度が少ない、
ということもありますが、
乳腺の密度が濃い、
所謂高濃度乳腺の方が多い、
という点にもあります。

高濃度乳腺というのは、
マンモグラフィの画像上で、
全体の50%以上の部分が、
白く映る乳腺組織(fibroglandular tissue)で占められているもので、
要するに乳腺組織の密度が濃い状態です。
乳腺組織は加齢と共に脂肪に置き換わるので、
高齢者のマンモグラフィではそうした問題は少ないのですが、
若年者に検査を行なうと、
高濃度乳腺が40から50%に見付かります。
(上記文献中にあるアメリカのデータです)

問題となるのはこの高濃度乳腺では、
蜜な乳腺組織の影に癌が隠れてしまい、
その検出率が低下してしまう、という点にあります。

その一方でこれも海外データですが、
高濃度乳腺ではそうでない場合より、
1.2から2.1倍乳癌のリスクが上昇する、
と言われているので、
この見落としは癌検診全体の、
信頼性に関わる問題なのです。

アメリカにおいては、
マンモグラフィ単独による乳癌検診が行われて来ましたが、
毎年コネチカット州でこの検診を受けていた、
ナンシー・キャペロ(Nancy Cappello)という医師が、
検診は異常なしの結果でありながら、
2004年にステージ3の進行乳癌と診断されました。

彼女は高濃度乳腺でしたが、
そのことを検診結果では告げられていませんでした。

それが大きな社会問題となり、
2009年10月1日にコネチカット州では、
マンモグラフィ検診の受診者には、
必ず高濃度乳腺の有無を告知し、
高濃度乳腺が認められた場合には、
超音波検査を検診に追加することが可能となるような、
州法が成立しました。

その後同じような法律制定の動きは全米に広がり、
2015年初めの時点で、
21の州で同様の法律が制定されています。

ただ、その内容は、
単に告知の義務のみを決めているものから、
超音波検査などの施行も含むものまで様々です。

日本においても、
明確な法律的な規定はありませんが、
多くの自治体の乳癌検診において、
マンモグラフィの高濃度乳腺は、
「異常所見」として捉えられ、
明確な異常はなくても、
二次検査が推奨されるような流れにはなっています。

その場合の二次検査は、
超音波検査かデジタル化された最新鋭のマンモグラフィによる再検、
もしくはその両者の併用です。
MRI検査が行われることもあります。

ただ、ここで問題となるのは、
超音波検査の併用により、
確かに癌の検出率が増加することは間違いがありませんが、
マンモグラフィと比較して、
遥かに偽陽性が多いので、
過剰診断や過剰治療に結び付き、
コストだけが嵩んで、
本当に意味でより有効性の高い検診にはならないのではないか、
という危惧です。

日本は一般の方も専門家も、
検査大好きのお国柄ですから、
予算の問題さえクリアされるなら、
二次検査の施行自体には抵抗が少ないように思います。
ただ、上記文献の海外データによれば、
超音波検査で異常が見付かって細胞診を行なった事例のうち、
癌であったのは6%に過ぎなかった、
と報告されていて、
マンモグラフィにおけるその比率が、
25から30%であることを考えると、
全ての高濃度乳腺の方に、
超音波検査を行なうことは、
検診をトータルで考えた時に、
あまり良い方向性とは思えません。

現状生命予後が明確に改善したという、
信頼性のあるデータが存在するのは、
マンモグラフィ以外にはない、
という点にはもう一度目を向ける必要がありますし、
そもそも高濃度乳腺というのは、
画像を人間が目で見て判断する主観的な基準であって、
必ずしも客観的なものではない点にも注意が必要です。

アメリカにおいては、
高濃度乳腺を持つ人のうち、
乳癌リスクがある程度高い対象者を絞って、
二次検査を行なうことの妥当性が現在検証されているので、
その推移を見守りたいと思います。
勿論癌が早く見付かることに越したことはないのですが、
闇雲に検査を重ねても、
過剰診断や過剰治療などの、
多くの問題が生じ、
医療費の増加にも歯止めが掛からなくなる結果に至ることは、
心に留めておくべきだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2014/05/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





nice!(23)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 23

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0