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ルビプロストンによる慢性腎障害進行抑制効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アミティーザの慢性腎障害への効果.jpg
2014年12月のJournal of the American Society of Nephrology誌に、
ウェブ掲載された、
慢性便秘症の治療薬が、
慢性腎臓病の進行を抑制することを、
ネズミの実験で検証した文献です。

東北大学大学院の阿部高明教授らのグループによる報告です。

便秘治療薬としては、
実に32年ぶりの新薬として、
ルビプロストン(商品名アミティーザ)が、
2012年に発売されました。

この薬は、
アメリカの製薬ベンチャー、
スキャンポ・ファーマシューティカルズ社の開発品で、
この会社は上野隆司先生という、
日本人により創設されたベンチャーで、
上野先生は立志伝中の人物です。

ルビプロストンは、
生理活性物質のプロスタグランジンの分解産物である、
プロストンの化合物で、
小腸の粘膜上皮にあるクロールイオンの出入りを調節する、
クロライドチャネルを活性化させる作用があります。

クロライドチャネルが開くと、
それにより生じた浸透圧差により、
水が腸管の中へと移動します。
これにより結果として大腸に流れる水分量が増え、
便がより多く水分を含むことにより、
便秘を改善する効果があると考えられます。

プロストンという名前は、
上野先生の命名で、
脳細胞の出来始めにプロスタグランジンを分解する酵素が、
急激に増えてその後「ストン」と減ることから名付けられました。
ここからプロスタグランジンの分解産物のプロストンが、
細胞の修復や再生に、
関わっていることが明らかになったのです。

この薬の便秘薬としての効果はマイルドで、
多くの大腸刺激性の下剤と比較すると、
その作用は弱いのですが、
その一方腹痛を伴うようなことが少なく、
依存性も少ないので、
より自然に近い排便を誘発する薬として、
期待され発売されました。

僕も高齢者の慢性の便秘などに対しては、
好んで使用していますが、
全ての方には有効でないものの、
半数くらいの患者さんには自然に近い排便を促すような、
好ましい作用が確認されています。
ただ、患者さんによっては、
吐き気などの副作用の経験があります。

さて、このルビプロストンは、
便秘の改善ばかりではなく、
腸内環境を改善する作用があるのではないか、
という報告がチラホラと寄せられています。

確かに小腸での分泌液が増加し、
便の停留時間が短縮することは、
腸内細菌などにも、
良い影響を与えるのではないか、
という想定は可能です。

ただ、たとえばルビプロストンが腸内の悪玉菌を減らし、
善玉菌を増やすとして、
それがどの程度のもので、
そのことにより、
身体にどのような良い影響が期待されるのでしょうか?

その辺りはまだはっきりとしていません。

一方で慢性腎臓病において、
腸内で悪玉菌により産生された毒性のある物質が、
その進行を早める可能性があるのではないか、
という仮設が最近注目されています。

その代表がインドキシル硫酸(indoxyl sulfate)です。

インドキシル硫酸は食物由来のアミノ酸である、
トリプトファンから腸内細菌により産生されがインドールが、
肝臓で硫酸抱合したもので、
正常であれば腎尿細管から排泄されるのですが、
腎機能低下と尿細管障害により、
体内に蓄積します。

そして、
蓄積したインドキシル硫酸は、
尿細管障害を進行させる因子となり、
炎症性物質の産生から、
血管内皮障害も進行させると考えられています。

こうした腎障害のために体内に蓄積した、
毒性のある物質を尿毒症物質(uremic toxin)と総称しています。

さて、
インドキシル硫酸のようなタイプの尿毒症性物質は、
腎障害で身体に蓄積すると共に、
その蓄積自体が、
更に腎障害を進行させる因子となります。

逆に、この悪循環の連鎖を断ち切ることにより、
慢性腎臓病の予後を改善することに、
結び付く可能性がある訳です。

尿毒症物質の全てがそう、ということではありませんが、
少なくともインドキシル硫酸は、
腸内の悪玉菌によって産生され、
便秘で便がや腸液が停滞すればするほど、
その吸収が高まるので蓄積も進行します。

その悪循環を逆転させるには、
従って、腸内の善玉菌を増やし、
腸管の機能を改善して、
便秘を防げば良いことになります。

今回の文献の著者らは、
これまでの知見から、
このルビプロストンに、
腸内の尿毒症性物質を減らす作用があるのでは、
という仮説の元に、
腎障害のモデル動物のネズミを使用した実験で、
その可能性を検証しています。

方法はネズミに薬剤を投与して、
腎機能障害を起こさせた上で、
コントロールとルビプロストン少量投与群、
そして通常量投与群の3群にわけ、
12日間の薬剤投与を行なった後に、
腎臓や腸管の状態、
そして血液中の尿毒症物質や、
腸内の細菌叢を比較検証しています。
各群は6から7匹ずつが使用されています。

その結果…

ルビプロストンを通常量使用したネズミでは、
そうでないネズミと比較して、
腸管の粘液量は増加し、
排便の状態は改善していました。

それに伴い、
腸内細菌叢でLactobacillaceaeやPrevotellaなどの、
善玉菌が増加し、
血液中の尿毒症性物質が低下しました。

更には腎臓の組織において、
腎臓の線維化や炎症を、
コントロールと比較して改善し、
血液の尿素窒素の数値も低下させたことが、
確認されています。

つまり、
複数の検査において、
ルビプロストンの短期間の使用により、
腸内細菌叢が正常化し、
尿毒症性物質の産生が減少して、
それに伴って腎障害自体が改善したことが、
かなりクリアに実証されているのです。

つまり、
このデータがそのまま人間にも適応可能とすれば、
腎機能が低下して、
便秘傾向のある患者さんに対して、
非常に有用な選択肢になる可能性がある、
ということになります。

ただし…

まだネズミの実験以外では、
こうした知見は殆どなく、
このような短期間で、
ルビプロストンが、
ここまでダイレクトな効果を腎臓に与えるのだろうか、
という点はやや疑問に感じます。
更にはごく短期間の使用効果しか確認されていないので、
臨床にこうした目的で使用するのには、
慎重に全身状態を観察する必要がありそうです。
用量も明確な効果のあったのは、
体重1キロ当たり500マイクログラムですから、
かなりの高用量で、
それがそのまま人間に使用可能ではありません。
(通常の便秘薬としての用量は、
1日48マイクログラムです)

ただ、
基本的にはそうリスクの高い薬ではなく、
慢性便秘症の治療薬が、
その用量設定のままで付加的な作用があるとすれば、
臨床的には結構大きな意味を持つ可能性を、
秘めているような気がします。

今後の研究の蓄積を期待しつつ、
実際に臨床でもこの薬を、
新たな目線で考えたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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Silvermac

夜一錠服用しています。効くときもあれば効かないときもあります。
by Silvermac (2015-01-26 21:09) 

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