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アスピリンの日本人高齢者への使用について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アスピリンの予防効果日本.jpg
今月のJAMA誌にウェブ掲載された、
日本人の高齢者に対する、
アスピリンの一次予防の効果を見た論文です。

筆頭著者は元慶應大学医学部血液内科教授で、
現早稲田大学教授の、
池田康夫先生です。
池田先生の旗振りの下に、
日本の1007の医療機関が参加した、
日本としては大規模な臨床研究です。

アスピリンは古典的な解熱鎮痛剤ですが、
その一方で1日100ミリグラム程度の低用量で使用した場合には、
抗血小板作用を併せ持っているので、
心筋梗塞や脳卒中などの再発予防薬として、
その有効性は確立されています。

更には腺癌というタイプの癌の予後改善効果、
特に大腸癌の転移の抑制効果があることも、
ほぼ確立した事実です。

しかし、その一方でアスピリンには、
胃潰瘍などの消化管出血や、
脳の出血などのリスクを、
上昇させる作用があり、
その予測される効果が、
予測される有害な影響を、
確実に上回る場合のみに、
アスピリンの継続的な使用が、
推奨される、ということになります。

さて、現時点で低用量アスピリンの継続的使用が、
間違いなく有用であるのは、
心筋梗塞を一度起こした方の再発予防と、
大腸癌を治療した方の、
再発や転移の予防のための使用です。

それではまだ病気の明確な症状や発作が出る前に、
アスピリンを使用することにより、
心筋梗塞や脳卒中、癌などの予防効果があるのでしょうか?

この点については、
まだ明確な結論が出ていません。

一旦病気を起こした人は、
再び病気を起こす危険性は非常に大きいので、
出血などの有害な作用があっても、
使用することのメリットが大きいのですが、
まだ起こしていない人は、
これからも起こさない可能性が高いので、
出血などによる弊害の方が、
大きくなる可能性もあります。

そこで1つの考え方は、
高血圧や糖尿病など、
病気を起こすリスクが高い人を選んで、
低用量アスピリンを使用すれば、
有効性が弊害を上回るのではないか、
という手法です。

現行アメリカでは、
多くの臨床試験の解析結果を元にして、
糖尿病の患者さんで、
一定の心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが想定される場合には、
アスピリンの予防的な使用を推奨しています。

しかし、これは敢くまで海外データで、
日本の患者さんにそのまま適応出来るかどうかは分かりません。

ほぼ確実なことは、
日本人は平均的な欧米人よりは、
消化管出血や脳出血のリスクが高く、
そのためアスピリンの使用については、
より慎重にその適応を考慮する必要がある、
ということです。

今回のデータは日本において、
60歳以上で高血圧など、
一定の心血管疾患のリスクが想定される患者さんに対して、
1日100ミリグラムのアスピリンを使用した場合と、
そうでない場合とを、
平均で5年間観察したものです。

対象となっているのは、
高血圧、脂質異常症、糖尿病のいずれかで治療を受けていて、
心筋梗塞や狭心症、脳卒中などはまだ発症していない、
60歳以上の成人トータル14464名で、
これをほぼ7000名ずつの2つのグループにくじ引きで分け、
一方はアスピリンを使用し、
もう一方は使用しないでその後の経過を観察します。

その結果…

当初はもっと長期間の試験となる予定でしたが、
開始5年の時点で、
アスピリン群の有用性が確認出来ないために、
試験は打ち切りとなっています。

これは効果判定の指標であった、
心筋梗塞や脳卒中による死亡と、
死亡には至らない心筋梗塞と脳卒中との合算のリスクに、
両群で差が付かなかったためです。、

ただ、死亡には至らなかった心筋梗塞の発症は、
アスピリン使用群で20例に対して、
未使用群では38例で、
発症リスクは有意に47%低下していて、
死亡に至らなかった一過性の脳虚血発作についても、
アスピリン使用群では19例に対して、
未使用群では34例と、
発症リスクは有意に43%低下していました。

逆に脳内出血については、
アスピリン使用群では23例に対して、
未使用群では10例、
クモ膜下出血では、
アスピリン使用群では8例に対して、
未使用群では4例と、
明確にアスピリン使用により増加していて、
脳内出血以外の入院を要するような出血の事例も、
アスピリン使用群で62例に対して、
未使用では34例と、
明確にアスピリンの使用により、
出血系の合併症は増加していました。

要するに60歳以上で、
高血圧や糖尿病などで治療している患者さんに、
上乗せでアスピリンを使用しても、
それだけの基準であれば、
トータルには患者さんの長期点なメリットに繋がる可能性は低い、
ということはまず言えそうです。

ただ、欧米のデータと同じように、
脳梗塞の発症には殆ど差がないのに対して、
心筋梗塞の発症は、
アスピリンの使用により、
一定レベルは抑制されています。

その一方で脳内出血やクモ膜下出血を含めた、
出血系の合併症は、
明確にアスピリンの使用により増加しています。

従って、
シンプルに考えると、
脳梗塞の予防のためにアスピリンを使用することは、
基本的にあまりメリットがない、
と考えた方が良く、
一方で心筋梗塞の予防という観点では、
一定の予防効果が期待出来るので、
そのリスクが高く脳内出血や消化管出血などの危険性が、
定期的な検査などでコントロール出来る場合には、
その使用には一定のメリットのある可能性が高い、
ということになります。

この臨床試験は例数は多いのですが、
プライマリケアのクリニックで、
簡単に施行出来ることを優先しているために、
偽薬を使用するような厳密な試験ではなく、
患者さんにもアスピリンを使用したのか使用しなかったのかが、
分かるようなシステムになっています。
5年の時点でアスピリン群の4分の1の患者さんは、
アスピリンの使用が中断されているなど、
脱落例が多いことも特徴です。
高血圧も糖尿病も脂質異常症も、
一緒くたになっているため、
何がリスクであったのかも明確ではありません。

その一方で、診療所で行なっているような、
日本の一般の臨床に近い形態なので、
実際の診療の効果を反映している、
ということが言えます。

ただ、こうした試験は今後は、
偽薬を使用して、
患者さんにも主治医にも、
どちらの治療が行なわれているのか、
分からないようなデザインで施行しないと、
信頼のおけるものとは見做されないように思います。

それでは、
現状で低用量のアスピリンを、
高血圧や脂質異常症、糖尿病の患者さんに対して、
どのように使用するのが適切なのでしょうか?

これはまだ正解はありませんが、
個人的には以下のように考えています。

非常に大雑把に言えば、
糖尿病は心筋梗塞と脳卒中の両方のリスクになり、
脳卒中には血圧の上昇と不安定さがより強く、
心筋梗塞にはコレステロールの上昇がより強く関わります。

従って、糖尿病と高コレステロール血症を合併していて、
血圧が治療か未治療かには関わらず、
安定している50歳以上の患者さんは、
アスピリンの良い適応と考えられます。
胃カメラの検査は毎年定期的に行ない、
治療開始時には脳のMRIは行なって、
微小な脳出血などがあれば、
その使用はより慎重に考えるようにします。

プロトンポンプ阻害剤のような胃薬を、
必ず併用するという考えもありますが、
個人的には安定している患者さんは安定しているので、
胃カメラ検査が定期的に施行可能な患者さんであれば、
必須ではないと思います。

それ以外のケースで、
アスピリンを一次予防に用いる場合には、
より慎重にその期待される効果と有害な影響とを、
天秤に掛ける必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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