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ココア・フラバノールによる認知機能改善効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の面談があったり、
レセプト作業をしたりの予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ココアフラボノイドの認知症への効果.jpg
先月のNature Neuroscience誌にウェブ掲載された、
ココアの含まれるフラボノイドの、
認知機能改善効果を検証した文献です。

カカオ由来のココアやチョコレートに、
認知症の予防効果がある、という話は、
最近しばしば耳にします。

ココアやチョコレートには、
カテキンなど多くの植物由来成分(フラボノイド)が含まれていて、
それがどうも、トータルに健康に良いのだ、
という考えは、
欧米においては、
1つの伝統的な考えと言って良いのかも知れません。

疫学データはこれまでにも複数の報告があります。

それは概ね、
ブラックチョコレートを1枚の4分の1程度、
ココアを1日3杯以上程度摂る習慣のある人は、
認知症の発症率が低かった、
というようなものです。

それから、以前にご紹介して、
本にも載せたものですが、
2013年のHypertension誌に掲載された、
イタリアでの臨床研究では、
軽度の認知機能低下の人に2ヶ月間、
ココア由来のフラボノイドを飲み続けてもらったところ、
飲まなかった場合と比較して、
認知機能の検査値の一部が、
有意に改善した、という結果が報告されています。

長期間使用した場合の予防効果ばかりではなく、
数ヶ月という短期間でも、
ココア・フラボノイドの使用により、
認知機能が改善した、
という急性の効果もある、というのが、
この研究の大きなポイントです。

ただし、
その機能の改善というのは、
試験の結果が若干…という程度のものですし、
そのメカニズムも明確ではありません。

今回のデータは、
核になる試験データは、
矢張りココア由来のフラボノイドを数ヶ月使用して、
その前後で認知機能を比較した、
と言う点では同じなのですが、
機能性MRIという検査機器を駆使して、
まず年齢による自然な記憶に関わる機能の低下
(所謂物忘れの程度のもの)の主因が、
脳の海馬体の一部である歯状回の血流低下であることを同定し、
その部位の機能を最も推測し得る、
認知機能検査を抽出して行ない、
その結果がココア由来のフラボノイドの摂取前後で、
変化するかどうかを確認し、
更に血流の改善が見られるかどうかも同時に検証しています。

この辺りの執拗な実証性が、
Natureクオリティということになるのだと思います。

実験自体は50から69歳の健常者に、
1日900ミリグラム相当のココア由来のフラボノイドを、
3ヵ月摂取してもらうか、
殆ど摂取しないでもらうかを割り付け、
更に運動をするしないでも割り付けています。
4つの群に分け、
各群はほぼ10例ずつでの検討です。

その結果、3ヵ月という短期間において、
フラボノイドを多く摂取した群は、
そうでない群に比較して、
歯状回の血流が増加し、
それを反映する部分の認知機能も改善しました。

全ての事例ではありませんが、
数例においては、
年齢相応の記憶機能が、
概ね30代くらいのそれへと改善していました。

かなり画期的な効果であることが、
お分かり頂けるかと思います。

例数は少ないのですが、
現象は明確なので、
こうしたことが全ての人においてではなくても、
起こり得るものであることは、
ほぼ間違いがなさそうです。

つまり、
年齢と共に海馬体、特に歯状回の機能は低下し、
細胞数は減少し、その血流も低下することにより、
所謂物忘れが生じるようになります。
しかし、高用量のココア由来のフラボノイドを、
3ヵ月程度摂取し続けることにより、
この機能低下は改善し、
少なくとも一時的には元の状態に戻るのです。

しかし、現時点でこれが認知症の予防に繋がるのか、
と言う点に関しては、
まだ不明な点が多過ぎます。

これは敢くまで急性の効果を見たもので、
フラボノイドの使用を中止すれば、
すぐに元に戻ってしまうかも知れませんし、
より長期間の使用が、
身体にとって本当に良いことなにかどうかも不明です。

一種の「覚醒剤」のような効果である可能性もあり、
その時は良くても、
長期間の使用では却って神経細胞の疲弊に繋がるかも知れません。

また、これは認知症そのものを見たものではなく、
むしろ正常の加齢現象を見たものなので、
これをもって認知症の予防や治療に繋がる、
というようなことも言えません。

更には今回の使用されているフラボノイドの量は、
1日900ミリグラムで、
これは2013年のイタリアの臨床試験と同等なのですが、
通常のココアに換算すると6から7杯分くらいになり、
ブラックチョコレートでも2分の1枚くらいにはなります。

これをそのまま摂るとすれば、
非常に高カロリーで、
そのことの弊害が、
トータルにはメリットを打ち消す可能性もあります。

フラボノイドを使用した臨床試験は、
漢方薬を使用した試験と似ていて、
伝統医療に科学的なお墨付きを与えよう、
というようなニュアンスが強いので、
その中身は雑多なもので、
どの成分がどのように効いたのか、
と言った分析は殆ど行なわれていません。

個人的にはこうした研究は、
どうも科学的ではない部分を残しているように思えます。

それでも、
ココアフラボノイドの効果がより厳密に検証され、
早期の海馬の機能の可逆性も確認されたという意義は大きく、
認知症の治療への道は遠くても、
記憶力の減退を回復させること自体は、
比較的近い将来実現しそうな気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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Silvermac

ブラックチョコレート、ココアは好物です。
by Silvermac (2014-11-06 05:54) 

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