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新規抗ウイルス剤ファビピラビルのエボラウイルスに対する効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エボラへのファビピラビルの効果.jpg
今年のAntiviral Research誌に掲載された、
日本発の新規抗ウイルス剤ファビピラビルの、
エボラウイルス感染症に対する有効性を検討した文献です。

人間でのデータではなく、
培養細胞とネズミを用いた検証です。

ファビピラビルは、
2002年に富山化学工業株式会社が、
独自に開発した抗ウイルス剤で、
当初インフルエンザ治療薬として研究され、
2007年からはアメリカと日本で第2相の臨床試験が行われました。
それが一気に注目されたのは、
2009年の所謂「新型インフルエンザ」の時で、
その後臨床試験を終えると共に、
タミフル(オセルタミビル)とは、
全く別箇のメカニズムの薬であることから、
初期治療薬としてではなく、
一種の切り札的な使用を想定して、
日本では一般の処方薬としてではなく、
敢くまで緊急的使用薬として、
限定的な適応がされることになりました。

この薬はRNAポリメラーゼ阻害剤で、
RNAウイルスが自らを増殖させるために、
遺伝子のRNAを合成する酵素を、
直接阻害する、というタイプの薬剤です。

タミフル(オセルタミビル)は、
ノイラミニダーゼという酵素の阻害剤で、
細胞の中で増殖したウイルスが、
細胞の外へ出るのを阻害するメカニズムの薬なので、
その作用は全く別箇のものなのです。

ウイルスにはRNAウイルスとDNAウイルスとがあり、
RNAウイルスは当然RNAポリメラーゼを持っています。

RNAポリメラーゼはウイルスによって、
全く同一ではありませんが、
その基本的役割は一緒ですから、
かなりの相同性を持っています。

そう考えると、
このファビピラビルは、
インフルエンザウイルスのみならず、
他のRNAウイルスにも、
同じような効果を示す可能性がある訳です。

このため、他のRNAウイルスに対する効果も、
研究されるようになりました。

その結果、ノロウイルスなど他の多くのRNAウイルスに対して、
少なくとも培養細胞などを用いた実験においては、
この薬にウイルスの増殖を抑えるような、
抗ウイルス作用を持つことが明らかになりました。

肝心のインフルエンザウイルスに対する効果は、
通常の臨床試験においては、
明確にタミフルより有用性がある、
とはされませんでしたが、
タミフルがほぼ無効と考えられる、
発症から時間の経過した状態においても、
有用性があることと、
ある意味当然のことですが、
タミフル耐性のウイルスに対しても、
また高病原性の鳥に対しても、
有用性のあることは、
ほぼ確認がされました。

RNAポリメラーゼを阻害するという、
この薬の性質上、
人間の増殖する細胞に対する有害性も、
生殖細胞では否定は出来ず、
抗ウイルス剤としては安全性は高い薬ではありますが、
そうした点を踏まえると、
通常の季節性インフルエンザ感染症に対する、
第一選択薬とは成り得ません。

インフルエンザであれば、
高病原性の新型インフルエンザのパンデミック時など、
緊急性の高いケースでの使用が想定され、
他のRNAウイルスにおいても、
より重篤な病気を来すような感染症において、
その有効性が期待されました。

その中で浮上したのが、
エボラウイルス病のような、
出血熱関連のウイルスに対するこの薬の効果です。

エボラ以外の出血熱を来すRNAウイルスに対して、
抗ウイルス剤であるリバベリンを超える有効性が得られた、
とするネズミのデータも報告は既にあります。

今回の文献においては、
培養細胞を用いた実験と、
感染実験に用いるモデル動物のネズミを使用し、
実際に動物に感染させた実験の2種類において、
エボラウイルスに対するファビピラビルの効果を検証しています。

まず培養細胞を用いた実験では、
エボラウイルスを細胞に感染させてから、
ファビピラビルを使用したところ、
細胞の増殖は明確に阻害されました。
この時のIC90と呼ばれるウイルスの90%阻害濃度は、
インフルエンザウイルスでの実験よりも低く、
培養細胞の実験のレベルでは、
むしろインフルエンザよりエボラウイルスの方が、
この薬の効果が期待出来る、
と言う結果でした。

次にインターフェロン1型の受容体の遺伝子が、
発現しないようにしたネズミを使用して、
粘膜にエボラウイルスを感染させ、
感染後に開始の日を変えてファビピラビルを、
1日体重1キログラム当たり300ミリグラムで使用します。

インターフェロンはウイルスを退治する武器の1つですから、
この遺伝子がないネズミは、
ウイルス感染で重症化し易く、
そのモデル動物として使用されています。
エボラウイルスに感染させたこれまでの実験では、
100%未治療であれば死亡した、
というデータがあります。
今回の実験では2種類の系統の同様のネズミを使用しています。
これはネズミの種別によって、
別の結果の出る可能性を、
否定する目的です。

その結果…

1つ目の系統のネズミでは、
エボラウイルスに感染させて未治療の場合、
使用した10匹は全て10日以内に死亡しました。
一方でファビピラビルを感染後6日目から使用したケースでは、
5匹のネズミの全てが生存しました。
しかし、ウイルス量が急上昇する8日目よりの使用では、
5匹のネズミは15日目までに全て死亡しました。

つまり、
早期の使用ではファビピラビルはネズミを治癒させましたが、
タイミングが遅れると、
死亡の時期を遅らせる効果はあっても、
予後自体は改善をさせない、
という結果になっています。

ここまではほぼ納得の行く結果ですが、
もう1つの系統のネズミを使用した実験では、
同じように感染させた未治療のネズミのうち、
8割は観察期間の3週間生存しました。
治療を行なったネズミも全て生存しましたが、
本当にファビピラビルの効果であるのかは、
明確ではない結果です。

ネズミと感染させたウイルスの、
マッチングの問題なのかも知れませんが、
そんな訳で選択する動物やウイルスによっても、
これだけの違いが生じてしまうとなると、
最初の系統のネズミの結果が良いからと言って、
それで有効性が確認されたとは、
言い切れないように思います。

エボラウイルス感染症の実際の事例においても、
この薬は数例は使用が試みられたようですが、
実際の効果はまだ明確ではないようです。

今後フランスが主導でのエボラウイルス病に対する、
臨床試験も予定されているようですから、
今後のそうした結果も注視したいと思います。

日本においては、
仮にエボラウイルス病の患者さんが発症すれば、
ファビピラビルは積極的に使用される方針のようですが、
まだ理屈の上での有効性しか確認はされておらず、
動物実験における有効性も、
実験によっては結果が割れている、
という事実は、
しっかり押さえておく必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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