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輸血によるデング熱感染リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
輸血によるデング熱感染リスク.jpg
2012年のTransfusion誌に掲載された、
デング熱の輸血を介した感染の可能性についての文献です。

東京の代々木公園周辺を中心とした、
1型のデング熱の流行が、
収束傾向にはあるものの、
未だ患者さんの報告が続いています。

このことに絡んで、
日本赤十字社は9月12日に、
代々木公園などの都内の3公園を訪れた人に、
訪問日から4週間の献血の自粛を求める声明を出しました。

これは要するに、
極低い確率ではありますが、
輸血を介してデング熱が人から人に感染する可能性が、
ゼロではないことから取られた対策と思われます。

それでは実際にどのくらいの頻度で、
人間の血液中のデングウイルスが、
輸血により感染する可能性があるのでしょうか?

これは実際には正確なデータは存在していません。

しかし、その中では上記の文献は最も新しい知見で、
多くの示唆に富む内容を含んでいると思います。

更にはデング熱とデングウイルスに関する解説が、
非常に充実しています。
いい加減な記載ではなく、
全てきちんと引用文献が付いているのです。
以下のデングウイルスに関する記載は、
その上記文献の内容を元にしています。

さて、デングウイルスはその75%は不顕性感染です。
つまり、感染して一時的なウイルス血症を呈しても、
発熱などの症状がないままに推移します。
デングウイルスには1型から4型の4種類の血清型があり、
その各々が軽症から重症まで、
幅広い病状を呈します。
そのうち概ね5%の患者さんが、
出血傾向やショックなどを来す、
デング出血熱と呼ばれる重症の症状を呈し、
これは2回目以降に別個の血清型のウイルスに感染した際に、
起こる可能性が高いとされています。
(重症型が5%というのは、
敢くまで複数の血清型が同時に存在している、
流行地域でのデータです)

1つの血清型のウイルスに感染すると、
ほぼ一生涯その血清型に対する免疫は維持されます。
つまり、同じ型のウイルスにはもう感染しません。
しかし、デングウイルスに特徴的であるのは、
同時に他の3つの型に対しても、
交差免疫が成立することで、
この他の型に対する免疫は2ヶ月以内という短期間で、
その有効性は減弱し、
それが他の型の感染時の重症化に、
影響を与えることが分かっています。
これを「抗体依存性感染増強現象」と呼びます。

デングウイルスを持つ蚊に刺されると、
体内でウイルスは増殖し、
概ね3から14日以内に、
顕性感染の場合は発熱などの症状が出現します。

症状出現の1から2日前より、
概ね7日間くらいの間に、
感染した人間が蚊に刺されると、
今度はその蚊の体内で、
ウイルスは増殖します。

血液中のウイルス量が、
ミリリットル当たり10の7乗コピー以上、という高用量であっても、
不顕性感染が存在している、
というデータがあります。

従って、
症状のない不顕性感染であっても、
蚊にウイルスを移すことは有り得ますし、
同時にその血液が輸血されれば、
輸血を受けた患者さんが、
デング熱に感染する可能性はあるのです。

それでは輸血による感染は、
どの程度の頻度で起こり得るのでしょうか?

上記文献では2007年にプエルトリコにおいて発生した、
デング熱のアウトブレイク時に献血された検体に、
どのくらいの比率でどのくらいの量のデングウイルスが、
混入していたのかを、
サンプルの血液の遺伝子検査及び、
蚊の細胞を用いた培養検査により、
同定して検証しています。

2007年のデング熱の流行時には、
10508人の症状のある患者さんが報告されています。
サーベイランスによると、
人口1000人当たり2.9例という頻度と計算がされています。

この時には1から4まで全ての血清型のデングウイルスの感染が起こり、
報告されたケースのうち半数が入院し、
2.2%がデング出血熱を呈して、
44名の死亡者が出ています。

この流行時期に献血された検体のうち、
15350検体を分析したところ、
29検体でデングウイルスの存在が同定されました。
そのウイルス遺伝子量は、
12検体において、
ミリリットル当たり、10の5乗コピー以上となっていました。

この比率は529検体当たり1例で、
0.19%ということになります。

実際にこの血液が輸血された患者さんに、
どのくらいの頻度でデング熱が発症したのでしょうか?

これは検証が可能であったのは、
29例のうち3例に留まっています。
このうちの2例はウイルス量が10の3乗コピー未満と少なく、
輸血による感染は成立していません。
そして、3例目は31歳の不顕性感染の女性からの献血で、
ウイルス量は10の8乗コピーと非常に多く、
80歳の再生不良性貧血の患者さんに輸血され、
輸血の3日後より高熱と血小板低下、
ショック症状と肺炎を呈し、
デング出血熱と診断されています。

つまり、
これはウイルス量の多い不顕性感染の患者さんからの輸血により、
デング出血熱を発症した事例です。

「不顕性感染のデング熱では、
ウイルス量が少ないので輸血による感染は起こらないのでは…」
という推測の書かれたブログ記事を読みましたが、
その見解は正確とは言えないことがこの事例から分かります。

実際にはウイルス量の多い不顕性感染は存在していて、
不運にもそうした患者さんの献血した血液が、
未検査のまま輸血されれば、
デング熱の輸血による感染は起こり得ます。

現状はたまたま献血をした患者さんの血液に、
デングウイルスが大量に混入していて、
それが輸血されるという事態は、
極めて稀と考えられるので、
全例でデング熱のウイルスの有無をチェックするのは、
あまり現実的な対応とは言えませんが、
流行が今後も継続するような事態となれば、
検査も1つの選択肢とはなるように思います。
(現状どれだけ献血検体の検査が行なわれているのかは、
調べた範囲で明確な情報がありませんでした)

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとって良い日でありますように。

石原がお送りしました。

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