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妊娠中の抗けいれん剤の使用と胎児への影響について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗けいれん剤の妊娠中の使用と胎児への影響について.jpg
2011年のSeizure誌に掲載された、
妊娠中の抗けいれん剤の使用と、
その胎児に与える影響についての文献です。

てんかんは若い方に多く発症する病気ですから、
てんかんの治療を受けながら、
患者さんがご妊娠をされるケースも実際には多く存在しています。

上記文献の記載では、欧米のデータですが、
妊娠をされている女性のうち、
0.3から0.7%はてんかんを持っていると推計される、
という統計が紹介されています。

ここで問題になるのは、
妊娠中のてんかんの患者さんの管理は、
どうあるべきなのか、ということです。

抗けいれん剤は胎児に少なからぬ影響を与える、
という報告もあります。
代表はバルプロ酸(商品名デパケンなど)で、
胎児への影響を示す多くの報告があります。

ただ、それではバルプロ酸を使用していて、
症状が安定してコントロールされている患者さんで、
その胎児へのリスクから、
他の薬剤へ変更するべきか、
ということになると、
それが本当にリスクの低下に結び付く、
と言う明確な根拠はなく、
却って病状が不安定になる可能性も考えられます。

そのため、現行のバルプロ酸の添付文書においても、
「原則禁忌」という玉虫色の扱いで、
完全な禁忌とはされていません。

てんかんで抗けいれん剤を継続使用されている患者さんが、
ご妊娠を希望された場合には、
幾つかの選択肢が考えられます。

妊娠初期のみでも、
抗けいれん剤を中止して妊娠を継続するか、
そのまま使用して継続するか、
それとも他の薬剤に変更するなど、
調整をして妊娠を継続するかの3通りです。

このうちのどの選択肢が母体と胎児の双方にとって、
メリットが大きくデメリットの少ないものなのか、
その選択の材料となるようなデータは、
実際には非常に限られたものです。

今回のデータはその貴重なものの1つで、
カナダのケベック州においての妊婦登録を利用して、
1998年から2003年に掛けて、
てんかんの診断を受けて妊娠した女性を、
妊娠中に抗けいれん剤の単剤を継続した場合と、
複数の抗けいれん剤を使用した場合、
そして妊娠中に抗けいれん剤を中止した場合の3群に分けて、
胎児への影響を検証しています。

トータルな事例は349例で、
そのうちの79.6%では抗けいれん剤が、
妊娠中も単剤で継続され、
5.8%では2種類以上の抗けいれん剤が、
妊娠中も併用され、
14.6%では妊娠に先立って、
抗けいれん剤は中止されています。

抗けいれん剤のうち最も多く妊娠中に使用されていたのは、
カルバマゼピン(商品名テグレトールなど)で、
29.9%に使用され、
次にバルプロ酸が19.7%で続いています。
併用された組み合わせで最も多かったのは、
カルバマゼピンとクロバザム(商品名マイスタンなど)の組み合わせでした。

カルバマゼピンは妊娠中のリスクが、
比較的少ないというデータが多くあるため、
使用されていると考えられ、
リスクの高いとされているバルプロ酸が意外に多かったのは、
最も広く使用されている抗けいれん剤であり、
患者さんも主治医も、
その変更により病状が不安定になることの方を、
重要視したということが示唆されます。

胎児の先天性の主要な異常の比率においては、
単剤の継続では9.9%であったのに対して、
併用では19.0%となり、
その一方抗けいれん剤の中止群でも、
20.0%という高率になりました。

この解釈は1つには決められませんが、
抗けいれん剤の無理な中断により、
てんかんの状態自体が悪化し、
胎児へも悪影響を与えた可能性が最も考えられます。

従って、
このデータからの推論としては、
てんかんの状態が安定していて、
無理なく薬剤を中止出来る状態であれば、
勿論中止の方針で問題はありませんが、
基本的にはてんかんの状態自体の安定を優先に考え、
単剤でなるべく必要最小用量で使用を継続するのが、
多くの場合は最善の選択肢である可能性が高い、
ということは一定の蓋然性のある結論と言えそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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