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バセドウ病の薬剤中止のタイミングについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

最初に雑談です。

皆で挙って「ご冥福をお祈りします」
ばかり連発するのは、
個人的には非常に不快な気がします。

この言葉はもう、
そもそもの意味を離れて、
一種の免罪符として、
ある種の記号として使用されているような気がします。

個人的には僕はもう使うことは止めました。
勿論自分の知り合いや、
親族の死についての話ではありません。
そうした時には使います。
僕が言いたいのは、
ある人の悪口を言っておいて、
その人が自死すると、
手の平を返して言う時のこの言葉です。

以前いっぷくさんに教えて頂いたように、
この言葉は宗派によっても意味合いが違う訳ですし、
故人の宗派を知らずに、
そのまま使うのは正しい用法とは言えません。
まあでも、使う方の多くにとっては、
そういう字義的な意味合いではないのです。

要するにあれでしょ、
「化けて出るなよ」
というまじないの言葉でしょ。
生きている俺に迷惑を掛けるなよ、
ということでしょ。
葬式の後で塩を撒くようなもので、
自分に被害が及ばないようにという、
姑息な思いが透けて見えるのが嫌な気がします。

そもそも、何があろうとも、
自殺などしてはいけない、
というのが大原則ですよね。
それは、非常に大きな罪なのではないかしら。

この呪文が唱えられた瞬間に、
全ての人間が「良い人」になるというシステムも腹が立ちます。

つまりあれですか?
この社会では、
メディアからの攻撃を跳ね返す方法は2つしかなくて、
1つは割烹着のお化けのように、
凄腕の弁護士を付けて恫喝することで、
もう1つは自死することということになるのですか?

それはあまりに理不尽なシステムではないでしょうか?

SNSなどで増殖する無数のメディアもどきを含めて、
メディアという怪物から逃れる手だては、
そのくらいしかないのでしょうか?

自死すれば「聖人」というなら、
ヒットラーだって死んだ後は聖人の筈ですが、
そうではないですよね。

要するに人間の選別は確実に行なわれていて、
何処かのラインを超えれば、
自死しても呪文は唱えられず、
何処かで線引きが行われているのですよね。
人間とそうでないものとの…

その無意識の線引きも僕は嫌です。

日本人は割と悪人もひっくるめて、
全て死んだらちゃらにするんですよね。
ある意味理屈にあった仕組みだと思いますが、
それが非難されるのですから不思議なものです。
世界的には「悪人」は必要で、
それは未来永劫変わらない烙印のようなもののようです。
なので「悪人」を創造するために血道を挙げるのです。
そして、一旦その線引きが固定されれば、
それに逆らうと抹殺されるのです。

同じ人間のように見えても、
人間とそうでないものとを選別するべきであって、
それが誰によって行われたのかは、
触れてはいけないタブーだ、
ということなのかも知れません。

悪人はいないけれど悪は存在する、
というのが僕の立場です。

「ご冥福を祈る」の大合唱は、
悪人を聖人にするのと同時に、
結果として「悪」もちゃらにすることで、
それは絶対にしてはいけないことなのではないでしょうか?

関係する誰かが「幕引き」という言葉を使っていて、
これは口がすべったのだと思いますが、
松本清張さんが昔指摘されていたように、
関係者の「死」によって幕引きとなるような現象が、
改められることがなければ、
この社会から「自死」も「悪」も、
消えることはないような気がします。

すいません。
雑談でした。
しかられたら消します。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メルカゾールの中止の論文.jpg
2011年の日本内分泌学会誌に英文掲載された、
バセドウ病の薬剤の中止のタイミングについての文献です。

これは大阪のすみれクリニックによるもので、
日本のガイドラインには、
主な中止の指標として、
引用されているものです。

バセドウ病の治療の主力は、
日本においてはメチマゾールによる薬物治療で、
通常は初期量から徐々に減量し、
少量をある程度の期間継続した上で、
2年程度で薬剤を中止して経過を見るのが、
一般的な方法です。

しかし、治療を行なって中止した後に、
少なく見積もっても2割を超える患者さんが再発することが、
問題点として指摘されています。

欧米においては割り切った考え方があって、
一定期間で薬物治療は一旦終了し
(これは18ヵ月を越える期間の治療で、
その後の再発率には差がないというデータが元になっています)、
仮に再発すれば放射性ヨードか手術が選択されるので、
方針はある意味シンプルですが、
日本の場合は再発の事例においても、
薬物治療が選択されることが多いと思います。
再発後の治療は、
どうしても治療期間が長くなりがちです。

甲状腺専門病院で治療を受けていながら、
10年以上少量のメチマゾールを、
使用し続けている患者さんを、
僕は複数知っています。
メチマゾールを1日おきに1錠ずつとか、
週に2回とかという処方が継続され、
通院も半年に一度くらいになっています。
こういう処方を勿論律儀に続けている患者さんも、
いることはいるのですが、
それよりおそらく数倍は多くの患者さんが、
実際には自己判断で治療を中止しています。

個人的にはナンセンスの極みだと思います。
教科書やガイドラインには、
そうすべきとは一言も書いてはありませんし、
こういう事例は病院の素晴らしい治療成績からは、
どういう訳か削除されています。
しかし、現実には10年を越えるような、
抗甲状腺剤の超長期処方は、
決して稀ではないのです。

一番の問題は、治療を中止する指標となるものが、
実際には存在しない、という事実です。
現行の日本のガイドラインにおいては、
メチマゾールを1日おきに5ミリグラム使用した状態で、
甲状腺機能が正常な状態が、
半年以上持続する時に中止を考慮する、
ということになっています。

この半年以上という記載の、
1つの根拠となっているのが、
上記のすみれクリニックの文献です。

これは単独施設において、
バセドウ病に対して抗甲状腺剤による治療を受け、
少量の維持量で甲状腺機能が正常を維持する状態を、
3ヵ月以上は継続した上で、
治療を中止し、
その後2年間の観察期間において、
再発の有無と治療機関との関連性を、
検証したものです。

事例は107例と多いのですが、
最初から患者さんを登録して、
治療を振り分けて行なうような試験ではなく、
あくまでカルテを後から読んで、
治療の期間と再発率とを比較しただけのものです。

その結果治療を行なった107例のうち、
2年以内に再発は34例に認められています。
つまり2年間の再発率は31.8%です。
これはただ、一時的な甲状腺機能亢進症状を呈した18名を除いていますから、
治療後に2年間甲状腺機能が全く正常であったのは、
55名で半数に満たない、ということになります。

再発の8割以上は、
治療中止後1年以内に認められています。

さて、これを治療期間との比較で見てみると、
抗甲状腺剤の少量維持の期間が、
長ければ長いほど、
再発は起こり難くなっています。

維持量の期間が半年以内であると、
4割近い患者さんが2年以内に再発していますが、
19ヵ月以上維持されてから中止した患者さんでは、
9割を越える患者さんが再発をしていません。

上記文献の著者らは、この結果をもって、
維持量の期間が長いほど、再発率が低くなり、
特に半年以内で自己抗体が陽性であるのに中止すると、
再発率がより高くなるので、
そうするべきではない、
という結論を導いています。

ただ、そう言えるかどうかは微妙に感じます。

このデータは敢くまで治療を完遂し、
その後の経過観察も終了した患者さんのみを対象にしています。
ドロップアウトは除外しているのです。
実際にはより長期の治療となれば、
離脱する患者さんもそれだけ増える筈です。
従って、長期間経過を追うことが可能であった患者さんは、
そうしたバイアスが掛かっているのです。

前述のように10年以上真面目に薬を飲み続け、
外来に通い続けている患者さんは、
実際にはかなり特殊なカテゴリーに属しているのです。
それを短期間の治療をした患者さんと、
同じように扱い比較するのは、
基本的に誤りのように個人的には思います。

ただ、甲状腺の治療の臨床データは、
残念ながら国内外を問わずこうしたレベルのものが殆どで、
例数もそれほど多くはなく、
単独施設かそれに準じるもので、
治療のプロトコールは主治医にかなり委ねられていて、
それを後からカルテで解析したようなものが多いのです。

影響のある先生が、
「この治療が良いぞよ」というようなことを言うと、
大した裏付けもないのに、
一斉にそれになびくということがしばしば起こります。
最近では抗甲状腺剤と無機ヨードの併用という治療が、
その最たるものだと個人的には思います。

甲状腺診療というマイナーな分野の、
これが1つの特徴と言えるかも知れません。

その意味で昨日ご紹介した、
抗甲状腺剤とT4との併用療法の論文は、
例数は多くありませんが、
患者さんを前向きにエントリーして、
偽薬を使用して同じ治療を振り分けて行ない、
4.5年という長期の経過観察を行なっている、と言う点で、
この分野ではあまり類例のない、
厳密なデザインの研究なのです。
だからこそ単独施設のデータであるのに、
New England…に掲載されたのです。
それが本当に字義通り厳密に行なわれたかどうかは、
何とも言えない部分があるのですが、
この文献を批判する多くの方が、
そのデザインの厳密性については、
無視するような態度を取っているのは、
理解に苦しむところがあります。

バセドウ病の薬物治療には、
スタンダードな方法が確立されておらず、
その期間や終了の基準、
他の治療との適応を含めて、
より厳密な検証が、
是非とも必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

匿名

同感です。
先生がおっしゃってらっしゃる以上の悪口で、私は立腹しています。

そんなに話題が欲しいのでしょうか。
他に報道すべきことはたくさんある気がするのですが。
by 匿名 (2014-08-06 08:48) 

AF患者

親鸞聖人の「尚もて往生をとぐ いわんや悪人をや」で死んでしまえば仏さま、の論法で行くから物議をかわす靖国参拝となるのでしょう。BC級戦犯は国外で何千人と死刑になって遺骨もなし、けれどその無謀な戦争に駆り立てたA級戦犯(一人は文人)は丁寧に合祀されている矛盾
歳をとってペテイントになると同輩が旅立つ知らせが多い。以前は「気の毒になぁ」と言葉に出ていたのが最近は「苦しみから痛みから解放されて良かった」と不遜に思うようになった。人間の心はあさましいのかもしれない。
by AF患者 (2014-08-06 10:34) 

匿名2

こんにちは
「割烹着のお化け」さんは、「コメントは出さない」そうですね
打算でしょうが、この場では正しい対応なのかも
by 匿名2 (2014-08-06 17:00) 

北御門

こんばんは。人が無意識に行なうヒトへの線引き… 報道で知った瞬間は何故自死しなければならないのか?でした。まさに今検証の真っ最中の時期で。
チアマゾールは身近に、長期服用者が何人か居ます。中止の時期はよめませんし、どこか当人も服用してるから安心だ。と言う考えをお持ちです。
by 北御門 (2014-08-06 22:28) 

九子

先生、長い間ご無沙汰致しました。怠けていました。(^^;;
久しぶりに読ませて頂くとやはり勉強させて頂くことばかりです。
ブログにnice!を頂き、有難うございました。どこへお礼を御書きしようかと迷いましたが、やはりここへ書かせて頂きます。

笹井先生の死というこれだけ大きな代償を払ったのだから、理研という組織は是対に変わらなければいけないと思います。もちろんマスコミのあり方も・・。実際には諦めかけていますが・・。

先生、ご本を出されたんですね!是非一冊、買わせて頂きます。
( ^-^)
by 九子 (2014-08-20 01:31) 

丹治(たんじ)と言います

自分も甲状腺抗進症(バセドウ病)です 石原先生話参考になりました。 バセドウ病を発病してから一年ぐらいになります。 甲状腺のホルモンは安定してますが精神的な不安と動悸と息苦しさがあります。 先生の意見を参考に治療に頑張りたいと思います。 メアド入れておきますのでアドバイスあればよろしくお願いします。
by 丹治(たんじ)と言います (2014-10-30 07:45) 

fujiki

丹治さんへ
コメントありがとうございます。
通常2年はご治療を継続された方が、
再発は少ないように思います。
by fujiki (2014-10-30 08:24) 

nornori

参考になるお話でした。
調剤薬局に勤めていますが、先日メルカゾールとチラーヂンの処方箋を持ってこられた患者さんに、気軽に「どのくらい(期間)おのみですか?」と聞いてみたら、「12年」と答えが返ってきて驚きました。
私自身はまだのみ始めて2ヶ月ほどですが、「そんなにかかるのか・・」と暗然たる気持ちです。それでつい、ネットでいろいろ調べてしまいます。お目汚しすみません。
治療開始時には一応、「2年くらい」と一般論を聞いています。
by nornori (2016-09-14 21:46) 

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