ローマ歌劇場日本公演「シモン・ボッカネグラ」 [オペラ]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
イタリアの老舗歌劇場の1つ、
ローマ歌劇場の来日公演が、
今東京で上演中です。
ローマ歌劇場は老舗の名門とは言っても、
プッチーニの「トスカ」を初演したような過去の栄光は遠く、
スカラ座やボローニャ歌劇場などより、
1ランク下という評価が長くありました。
前回の来日は2006年で、
演目は初演した「トスカ」と「リゴレット」でしたが、
慣れない呼び屋が担当したためか、
チケット代ばかりが法外で、
主役級のキャストの降板も相次ぎ、
何より合唱やエキストラなど殆ど日本人で、
オケも明らかに寄せ集めの2線級という、
酷い公演でした。
それが、スカラ座を追われた、
ヴェルディのエキスパートのカリスマ指揮者ムーティが、
2011年に終身名誉指揮者で実質的な音楽監督となり、
「ムーティの劇場」として目覚ましい復活を遂げつつあります。
そんな中での日本公演であり、
今回は2演目ともヴェルディで、
勿論ムーティが指揮ということで、
いやが上にも期待は高まりました。
演目は「シモン・ボッカネグラ」と「ナブッコ」で、
「ナブッコ」はヴェルディの出世作、
「シモン・ボッカネグラ」は中期の名作ですが、
いずれも「椿姫」や「アイーダ」などと比較すれば、
やや地味で上演の機会もそう多くはありません。
それをわざわざ持って来る辺りが、
さすがムーティという感じで、
また期待が高まるのです。
今回はそのうち「シモン・ボッカネグラ」に足を運びました。
ただ、「シモン・ボッカネグラ」の当初の予定キャストのうち、
ザネッラートは早々と降板し、
一番の集客力のあるスター、ソプラノのフリットリは、
体調不良で来日前の練習に参加出来なかったから、
という理由で急遽降板となってしまいました。
フリットリは前回トリノ歌劇場の「トスカ」も降板していて、
最近はなかなか日本ではオペラを歌ってくれません。
ただ、今回はオリジナルキャストでもある、
若手のエレオノーラ・ブラットへの交代ですから、
ムーティとしてはアンサンブルはその方が望ましかったと推測され、
何となく最初から織り込み済みの交代であったような匂いがします。
最初からザネッラートとフリットリがいないキャストでしたら、
多分チケットの売れ行きはもっとずっと悪かった筈で、
ちょっとした騙しのテクニックが、
駆使された可能性がある訳です。
それで作品の出来が芳しくないのであれば、
怒って良いところなのですが、
今回の上演は掛け値なしに素晴らしく、
日本のヴェルディ上演史に残る名演と言って、
過言ではないものだったように思います。
「シモン・ボッカネグラ」はヴェルディ円熟期の代表作の1つですが、
知名度はそれほど高くはありません。
しかし、間違いなく傑作で、
その明晰な構造と思想性、
ラストの身の毛のよだつような感動は、
ヴェルディのオペラ全体の中でも、
随一と言って言い過ぎではないものです。
タイトルロールのシモン・ボッカネグラは、
海賊上がりの平民の代表で、
初代ジェノヴァ総督です。
それに対立するのがフィエスコというジェノヴァの貴族で、
ボッカネグラとフィエスコの20年以上に渡る対立と憎しみが、
ラスト、ボッカネグラの死の寸前に、
和解に至るというのが物語の経糸です。
そこにボッカネグラの娘でフィエスコの孫のロマンスが、
横糸として彩りを添えます。
ヴェルディと言えば、
矢張りバスとバリトンという男声の低音の重唱が、
その真骨頂ですが、
今回は対立する男2人をバリトンとバスに振り当て、
友情から対決、和解に至る大きな振幅を歌い継ぎ、
そこにテノールとソプラノの情熱的なやり取りが、
清涼剤のように加わります。
今回の上演は完全にムーティが隅々まで目を光らせた、
敢くまでムーティのヴェルディで、
そこにオーケストラから演出、
全ての歌手が一丸となって、
ムーティの藝術に奉仕しています。
歌手陣はスター2人が抜け、
テノールのフランチェスコ・メーリ以外は、
日本ではあまり馴染みのないメンバーなのですが、
全体にやや力不足の感はあるものの、
それだけにムーティに奉仕した、
実力のおそらく120%くらいの熱演で、
繊細なパートは繊細に、
情熱的なパートは情熱的に、
オケと一体となって情感を目まぐるしく紡ぐ様は、
これぞオペラ、これぞヴェルディという、
血沸き肉踊る音の連なりで、
最初から最後まで緩むことなく駆け抜ける、
豪華な音の絵巻物的な世界が展開されました。
オケがまた自在に感情を表現しつつ、
歌手の声に鮮やかに共鳴し、
複雑な音の織物のような世界を、
精緻に立ちあがらせていました。
これまで何度かスカラ座でムーティのヴェルディを聴きましたが、
これほど全てが精緻なバランスで組み立てられ、
感動と興奮とを味わったのは今回が初めてでした。
「シモン・ボッカネグラ」という作品の、
人生の最後における争いの涯の許しと和解、
というテーマ自体が、
今の時代とも響き合い、
ムーティ自身の思いとも響き合って、
より感動的な舞台を実現したのかも知れません。
本日が最後だと思いますが、
これはオペラファンには絶対のお薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ブログから生まれた本が発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
イタリアの老舗歌劇場の1つ、
ローマ歌劇場の来日公演が、
今東京で上演中です。
ローマ歌劇場は老舗の名門とは言っても、
プッチーニの「トスカ」を初演したような過去の栄光は遠く、
スカラ座やボローニャ歌劇場などより、
1ランク下という評価が長くありました。
前回の来日は2006年で、
演目は初演した「トスカ」と「リゴレット」でしたが、
慣れない呼び屋が担当したためか、
チケット代ばかりが法外で、
主役級のキャストの降板も相次ぎ、
何より合唱やエキストラなど殆ど日本人で、
オケも明らかに寄せ集めの2線級という、
酷い公演でした。
それが、スカラ座を追われた、
ヴェルディのエキスパートのカリスマ指揮者ムーティが、
2011年に終身名誉指揮者で実質的な音楽監督となり、
「ムーティの劇場」として目覚ましい復活を遂げつつあります。
そんな中での日本公演であり、
今回は2演目ともヴェルディで、
勿論ムーティが指揮ということで、
いやが上にも期待は高まりました。
演目は「シモン・ボッカネグラ」と「ナブッコ」で、
「ナブッコ」はヴェルディの出世作、
「シモン・ボッカネグラ」は中期の名作ですが、
いずれも「椿姫」や「アイーダ」などと比較すれば、
やや地味で上演の機会もそう多くはありません。
それをわざわざ持って来る辺りが、
さすがムーティという感じで、
また期待が高まるのです。
今回はそのうち「シモン・ボッカネグラ」に足を運びました。
ただ、「シモン・ボッカネグラ」の当初の予定キャストのうち、
ザネッラートは早々と降板し、
一番の集客力のあるスター、ソプラノのフリットリは、
体調不良で来日前の練習に参加出来なかったから、
という理由で急遽降板となってしまいました。
フリットリは前回トリノ歌劇場の「トスカ」も降板していて、
最近はなかなか日本ではオペラを歌ってくれません。
ただ、今回はオリジナルキャストでもある、
若手のエレオノーラ・ブラットへの交代ですから、
ムーティとしてはアンサンブルはその方が望ましかったと推測され、
何となく最初から織り込み済みの交代であったような匂いがします。
最初からザネッラートとフリットリがいないキャストでしたら、
多分チケットの売れ行きはもっとずっと悪かった筈で、
ちょっとした騙しのテクニックが、
駆使された可能性がある訳です。
それで作品の出来が芳しくないのであれば、
怒って良いところなのですが、
今回の上演は掛け値なしに素晴らしく、
日本のヴェルディ上演史に残る名演と言って、
過言ではないものだったように思います。
「シモン・ボッカネグラ」はヴェルディ円熟期の代表作の1つですが、
知名度はそれほど高くはありません。
しかし、間違いなく傑作で、
その明晰な構造と思想性、
ラストの身の毛のよだつような感動は、
ヴェルディのオペラ全体の中でも、
随一と言って言い過ぎではないものです。
タイトルロールのシモン・ボッカネグラは、
海賊上がりの平民の代表で、
初代ジェノヴァ総督です。
それに対立するのがフィエスコというジェノヴァの貴族で、
ボッカネグラとフィエスコの20年以上に渡る対立と憎しみが、
ラスト、ボッカネグラの死の寸前に、
和解に至るというのが物語の経糸です。
そこにボッカネグラの娘でフィエスコの孫のロマンスが、
横糸として彩りを添えます。
ヴェルディと言えば、
矢張りバスとバリトンという男声の低音の重唱が、
その真骨頂ですが、
今回は対立する男2人をバリトンとバスに振り当て、
友情から対決、和解に至る大きな振幅を歌い継ぎ、
そこにテノールとソプラノの情熱的なやり取りが、
清涼剤のように加わります。
今回の上演は完全にムーティが隅々まで目を光らせた、
敢くまでムーティのヴェルディで、
そこにオーケストラから演出、
全ての歌手が一丸となって、
ムーティの藝術に奉仕しています。
歌手陣はスター2人が抜け、
テノールのフランチェスコ・メーリ以外は、
日本ではあまり馴染みのないメンバーなのですが、
全体にやや力不足の感はあるものの、
それだけにムーティに奉仕した、
実力のおそらく120%くらいの熱演で、
繊細なパートは繊細に、
情熱的なパートは情熱的に、
オケと一体となって情感を目まぐるしく紡ぐ様は、
これぞオペラ、これぞヴェルディという、
血沸き肉踊る音の連なりで、
最初から最後まで緩むことなく駆け抜ける、
豪華な音の絵巻物的な世界が展開されました。
オケがまた自在に感情を表現しつつ、
歌手の声に鮮やかに共鳴し、
複雑な音の織物のような世界を、
精緻に立ちあがらせていました。
これまで何度かスカラ座でムーティのヴェルディを聴きましたが、
これほど全てが精緻なバランスで組み立てられ、
感動と興奮とを味わったのは今回が初めてでした。
「シモン・ボッカネグラ」という作品の、
人生の最後における争いの涯の許しと和解、
というテーマ自体が、
今の時代とも響き合い、
ムーティ自身の思いとも響き合って、
より感動的な舞台を実現したのかも知れません。
本日が最後だと思いますが、
これはオペラファンには絶対のお薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
ブログから生まれた本が発売中です。
よろしくお願いします。
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- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
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- メディア: 単行本(ソフトカバー)
2014-05-31 08:05
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サンフランシスコ歌劇場の「シモン・ボッカネグラ」にはフリットリが出演しました...
http://archive.sfopera.com/reports/rptOpera-id1840.pdf
by サンフランシスコ人 (2015-11-08 06:46)
ムーティ....シカゴ響.......キャンセル....
http://chicago.suntimes.com/entertainment/post/riccardo-muti-miss-february-cso-concerts-hip-operation/
by サンフランシスコ人 (2016-02-05 07:39)