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手術前後の交感神経抑制の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から紹介状など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
手術後のクロニジンの効果.jpg
昨日ご紹介した論文と同時に取られたデータで、
同じ医学誌の紙面に載ったものですが、
心臓以外の手術前後で、
交感神経の遮断剤を使用した場合の、
生命予後や心疾患の発症リスクを解析した文献です。

手術というのは患者さんにとっては大きなストレスで、
色々な面で全身に影響を与えます。

ストレスは交感神経を緊張させ、
それが予期せぬ急激な血圧の上昇や、
脈拍の増加に結び付くことがあります。
血圧の急激な上昇は、
心筋梗塞や脳卒中などの発症に結び付きますから、
手術直後の心筋梗塞や脳卒中などの発症予防のために、
交感神経をブロックするような薬剤を、
手術の直前から使用することで、
過剰な交感神経の緊張を抑え、
患者さんの予後を改善出来るのではないか、
という考え方が成り立ちます。

その推定に基づき、
2002年から2007年に掛けて行なわれた、
POISE試験と呼ばれる大規模臨床試験があります。
その結果は2008年のLancet誌に掲載されました。

交感神経の受容体には、
αとβの2種類がありますが、
これはβ作用をブロックする効果を検証しています。

それがこちらです。
手術時のβブロッカーの効果.jpg
この試験ではメトプロロール・サクシネートというβ遮断剤を、
心臓以外の手術の数時間前から術後30日間使用した場合と、
偽薬を使用した場合とを、
それぞれ4000人以上の対象者を用いて、
患者さんにも主治医にも知らせない方法で、
厳密な試験を行なっています。

その結果、
術後の心筋梗塞や脳卒中による死亡と、
死亡には至らない心筋梗塞や心停止を合算したリスクは、
βブロッカーの使用により16%有意に低下し、
心筋梗塞の発症リスクも27%有意に低下していました。

しかし、トータルな術後の早期死亡は、
βブロッカー未使用では2.3%であったのに対して、
使用群では3.1%と増加していて、
脳卒中のリスクも2.17倍、
βブロッカー使用群で多い、と言う結果になりました。

これはつまり、
βブロッカーで脈拍を下げ、
交感神経の緊張を抑制することにより、
心筋梗塞自体は減少しましたが、
脳卒中はむしろ増え、死亡する患者さんも増加した、
という相反する結果になっています。

今回の試験はPOISE-2試験と銘打たれていて、
昨日のアスピリンの効果を見ると共に、
クロニジンという中枢性のα遮断剤の、
手術直前から術後30日間の使用による効果を、
POISE試験と同様の手法で検証したものです。

患者さんの総数は10010例で、
POISE試験より大規模なものになっています。

その結果はクロニジンの使用により、
総死亡のリスクや心筋梗塞のリスクは未使用と差がなく、
低血圧や死亡には結び付かない心停止のリスクは、
クロニジン群でより高いというデータになっています。

つまり、βブロッカーは心筋梗塞の予防には結び付きましたが、
中枢性のαブロッカーは、
総死亡のリスクを上げることはなかったものの、
心筋梗塞などの予防効果は認められませんでした。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

交感神経を抑制して血圧はや脈を安定させることは、
常態的に交感神経の緊張状態が生じているような、
高血圧などの病態においては、
持続的な使用により、
将来的な心筋梗塞などの予防効果がありますが、
手術などの急性のストレス状態においては、
血圧や脈拍を緊急的に上げる身体の働きを、
抑制してしまうというリスクがあり、
そのために急性ストレス時における使用は、
むしろ総死亡を増やすような結果にも、
繋がりかねないのではないかと思います。

こうした急性状態においては、
むしろ慎重なモニタリングにより、
血圧や脈拍の急激な上昇に、
きめ細かく個別に対処する方が重要で、
持続的に交感神経を抑制するような治療は、
矢張り問題が大きいのではないかと考えられるのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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