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帯状疱疹後の脳卒中発症リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプト作業などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
帯状疱疹後の脳卒中リスク.jpg
今月のClinical Infectious Diseases誌に掲載された、
帯状疱疹後の脳卒中の発症リスクについての論文です。

帯状疱疹は皆さんご存じのように、
水疱瘡のウイルスに一旦感染した後、
そのウイルスが神経節という部分に潜んでいて、
身体の抵抗力が低下した時などに、
神経の走行に沿って湿疹と共に神経痛を来す病気です。

通常帯状疱疹は一時的な症状で、
湿疹が治癒した後も、
神経痛が持続することがあることを除けば、
大きな心配はない病気と考えられています。

ところが…

この帯状疱疹の受傷後に、
脳梗塞を来したり、動脈の解離を起こしたり、
脳動脈瘤を発症したりする事例が、
これまでに複数報告されています。
こうした症状は水疱瘡の感染時にも当然あるのですが、
そのウイルスの再活性化である、
帯状疱疹にも伴って生じることもあるのです。

こちらをご覧下さい。
帯状疱疹後血管炎総説.jpg
これは2009年のLancet Neurology誌の総説記事ですが、
帯状疱疹後に脳梗塞を始めとする、
様々な血管炎が生じることが示されています。
その原因は幾つか想定されています。
1つはウイルス感染に伴う免疫の活性化状態が、
全身の血管の炎症を誘発するのでは、
というもので、
もう1つは現実に神経節から外に移動したウイルスが、
実際に脳の血管で増殖して炎症を起こす、
というものです。

実際に脳梗塞を起こした部位に、
ウイルスの増殖が証明された事例も報告されています。

帯状疱疹は全身に起こる病気ですが、
顔面の三叉神経、特に眼神経と呼ばれるその第一枝に起こると、
目の角膜の炎症や頭痛が起こり、
症状も強いのですが、
脳神経の領域で脳に近いため、
脳のウイルスによる炎症も起こり易く、
脳梗塞の事例も多いと考えられています。

2009年と2010年に、
台湾における疫学研究が発表されていて、
それによると全ての部位の帯状疱疹後1年以内の、
脳卒中の発症リスクは1.3倍に、
眼神経の帯状疱疹に限ると、
4.5倍に増加していた、
という結果になっています。

しかし、この報告は心房細動や体格など、
脳卒中の一般的なリスクが配慮されていないなど、
問題点も指摘されています。

そこで今回の研究においては、
イギリスのプライマリケアのデータベースを活用して、
自己対照ケースシリーズ研究という手法を用いて、
帯状疱疹後の脳卒中の発症リスクを多数例で検証しています。

自己対照ケースシリーズ研究というのは、
同じ対象者で観察期間以外の時期を、
コントロールとして使用する、
という疫学手法で、
この場合は帯状疱疹の発症から1年以内の時期を観察期間として、
それをそれ以外の時期と比較して、
どちらが脳梗塞などのリスクと関連しているかを検証する、
ということになります。

対象となっているのは、
帯状疱疹から1年以内に脳卒中を来した18歳以上の6584名で、
それをその観察期間以外の発症リスクと比較しています。

帯状疱疹も脳卒中も、
初回の発作以外は除外され、
脳動脈瘤が元にあったり、
クモ膜下出血の事例も除外されています。
脳卒中後1年以内に脳炎を来した事例も、
その関連性が否定出来ないので除外されています。

患者さんの脳卒中を来した平均年齢は77歳で、
性差はありません。

その結果…

帯状疱疹後1から4週に脳卒中を発症するリスクは、
対照の1.63倍に、
5から12週では1.42倍に、
13から26週では1.23倍に、
それぞれ有意に増加していました。
これは全ての部位の帯状疱疹を合計したものですが、
眼神経領域の病変に限ると、
1から4週で1.82倍、5から12週で3.23倍、
13から26週で1.41倍と、
より脳卒中のリスクは増加していました。
全ての三叉神経領域の帯状疱疹に広げても、
5から12週で3.23倍と、
ほぼ同等のリスクの増加を示していました。

帯状疱疹の治療に抗ウイルス剤を使用した患者さんでは、
使用しなかった患者さんと比較して、
脳卒中の発症リスクは低下していました。
全ての帯状疱疹のリスクでは、
受傷後1から4週のリスクが、
抗ウイルス剤未使用では2.14倍であったのに対して、
薬の使用により1.23倍まで低下していました。

つまり、
帯状疱疹後の半年、
特に3ヵ月以内の時期において、
明確な脳卒中の増加が起こります。
このリスクの増加は全ての部位で認められますが、
顔面の三叉神経、特にその第一枝領域でより大きく、
これは直接的なウイルスの血管炎への波及を示唆する所見です。
抗ウイルス剤はウイルスの増殖を抑える働きがあり、
その使用により炎症が一定レベル抑制される可能性があります。

従って、
帯状疱疹、特に顔面の帯状疱疹は、
その後の脳卒中のリスクを高める可能性が高いことを念頭に置き、
とりわけ脳卒中自体のリスクが高まる中高年層では、
抗ウイルス剤の適切な使用と共に、
その後の慎重な経過観察が重要だと考えられます。
高齢者への予防のためのワクチンの接種も、
1つの選択肢ではあると思いますが、
海外で使用されている帯状疱疹予防用のワクチンは、
現行日本では認可されておらず、
水痘のワクチンを代用する方法は、
その効果がまだ明確ではない、
という点には注意が必要です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 9

bpd1teikichi_satoh

Dr.Ishihara興味深い記事ありがとうございます!
かなり前ですが、爺も左腕に帯状疱疹が出来て皮膚科を受診した
事があります。左脇のリンパ節が腫れ、ウイルスが神経
を伝って中枢神経に移行しようとしているのがわかりました。
抗ウイルス薬で症状は治まりましたが、ウイルスを根絶させた
訳ではないので、又発症するかも知れませんし、脳卒中のリスクを
上げるとなると問題ですね。
by bpd1teikichi_satoh (2014-04-07 08:58) 

ねね

石原先生、こんにちは。
最近高血圧の薬を検索してこちらにたどりつき、読ませていただいています。
今回のブログでうちの86歳の母がまさにそれかもと思いました。
帯状疱疹に2011年の秋にかかり、投薬が早かったので(発疹が出た日に皮膚科へ)、後遺症もなく完治しました。
その後認知症の検査でMRIをとったところ、プチ脳梗塞のあとがいくつかあると言われ、日記を調べてみると、2012年の春ごろ思い当ることが書いてありました。朝、母がなかなか起きてこない日があり、言葉ももごもごとはっきりしないことが2日くらい。
それ以来立ちくらみというか頭がふらつくことが多くなりました。
MRIの結果でも、平衡感覚を司るあたり?に梗塞のあとがあるということで、ふらつきを訴える人が多いと言われました。
2012年の春以外には言葉がもごもごというようなことはありません。
人間の体はあちこちがつながっているので色々なことが怒るのですね。なぜ、あの時だけ?という疑問が解けたような気がします。
by ねね (2014-04-07 12:02) 

fujiki

bpd1teikichi_satohさんへ
コメントありがとうございます。
ヘルペス感染は多くの病気との関連が指摘されていて、
まだ不明のものも多く、
興味深い分野だと思います。
by fujiki (2014-04-08 08:17) 

fujiki

ねねさんへ
コメントありがとうございます。
時間的には微妙かも知れませんが、
関連のある可能性もあるように思います。
でも大事にならなくてよかったですね。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2014-04-08 08:18) 

Kay

親友の症状が心配になり、こちらのサイトにたどり着きました。興味深く拝読させて頂きました。

親友は50代半ばの女性。半年前に突然意識を失いました。直ぐに意識は戻ったものの、翌日医師から10数個の脳梗塞の痕跡があると伝えられたとのことです。

ところが、数日前より耐え難い頭痛に悩まされるようになりました。病院での診察結果は、帯状疱疹とのことでした。現在、症状は治まりつつあるようですが、脳梗塞を発症し易い状態であるのかと心配しています。

by Kay (2014-06-30 10:58) 

fujiki

Kayさんへ
お友達ご心配なことと思います。
帯状疱疹後1か月は、
やや脳梗塞の発症の増えることは記事の通りですので、
勿論起こさない方の方がずっと多いので、
心配をし過ぎる必要はありませんが、
症状が出ないかどうかは、
気を付けてご様子を見る必要があると思います。
また、1か月はなるべく無理はされない方が良いと思います。
by fujiki (2014-07-01 08:17) 

Kay

石原先生

暖かいお返事ありがとうございます。
早速、友人にその旨伝えました。
これからも、先生のブログにおじゃまさせて頂こうと思っています。

ありがとうございました。

無理せず養生するように伝えました。
by Kay (2014-07-01 13:30) 

ありがとうございます

>眼神経領域の病変に限ると、
>1から4週で1.82倍、5から12週で3.23倍、
>13から26週で1.41倍と、
>より脳卒中のリスクは増加していました。

1~4wkの急~亜急性期よりも、5~12wkの亜急~慢性期に脳卒中のリスクが増大する件に関しまして、該当文献を参照しましたが理由の記載がありませんでした。

これは、原因がZVZの血管への直接感染に起因する内皮機能障害とアテローマと凝固系亢進だと考えると、まだ血管内の創がやわらかい状態の急性期よりも、亜急性~慢性にかけて創がscarになっていくときに脳卒中になりやすいという病態を考えましたが、どうなのでしょうか?
先生はこの亜急性~慢性期のほうがより、脳卒中のリスクが高い件についてどのようにお考えですか?
by ありがとうございます (2016-07-05 17:08) 

fujiki

ありがとうございます…さんへ
これはもう推測にしかならないのですが、
感染からすぐに血管の閉塞に至るのではなく、
内皮障害から血栓形成などが起こって、
閉塞に至るまでに、
ある程度の時間が掛かるという推測で、
妥当なのではないかと考えます。
by fujiki (2016-07-09 15:47) 

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