新規アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の慢性疼痛への効果 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年2月のLancet誌に掲載された、
帯状疱疹後の神経痛に対する、
新薬の臨床効果についての論文です。
帯状疱疹というのは、
水痘のウイルスが身体の神経節という部分に潜んでいて、
身体の免疫力の低下などをきっかけとして、
帯状の湿疹と痛みとを来す病気です。
湿疹自体は一時的なもので治癒しますが、
その後に湿疹の出現した部位の、
持続的な痛みが長期間残ることがあります。
これを帯状疱疹後神経痛と呼んでいます。
この帯状疱疹後神経痛は、
数年の経過の中では、
徐々に改善することが多いのですが、
それでも長期間身体の痛みに悩まされることは、
患者さんにとっては大きな苦しみです。
ただ、この神経痛に確実に効くという治療は、
現時点では存在していません。
現行最も多く使用されているのは、
プレガバリン(商品名リリカ)という一種の抗痙攣剤ですが、
一定の有効性はあるものの、
めまいやふらつきなどの副作用が比較的強く、
また全ての患者さんに効果がある、
という性質のものではありません。
そこでリリカに代わり得る薬剤や、
別個のメカニズムを持ち、
リリカに上乗せして使用出来るような薬剤の開発が、
期待をされているのです。
今回の文献にあるEMA401という新薬は、
そうした目的で開発された薬で、
選択的アンジオテンシンⅡタイプ2受容体拮抗薬というメカニズムの薬です。
選択的アンジオテンシンⅡタイプ2受容体拮抗薬とは、
どのようなもので、
それがどうして疼痛の治療に使用されるのでしょうか?
アンジオテンシンⅡというのは、
代表的な昇圧物質の1つで、
血管を強く収縮させる働きを持っています。
そのために高血圧の治療として、
アンジオテンシンⅡを抑制することが重要と考えられ、
まずアンジオテンシンⅡを産生する酵素の阻害剤である、
ACE阻害剤が創薬され、
それからアンジオテンシンⅡの結合する受容体の阻害剤である、
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)が創薬されました。
この時、アンジオテンシンⅡの受容体には、
1と2という2つのタイプの存在することが分かっていて、
血圧の上昇に結び付くような作用は、
専らタイプ1の受容体が担っていたため、
ARBという薬は、
タイプ1の受容体を選択的に阻害する薬として開発されました。
この時点でタイプ2の受容体の持つ生理的な役割は、
明確ではありませんでした。
それが近年注目されるようになったのは、
このタイプ2の受容体が知覚神経細胞に発現していて、
その受容体をブロックすることにより、
動物実験で鎮痛作用を持つことが報告されたからです。
そのため、難治性の神経障害性疼痛の治療薬として、
選択的なアンジオテンシンⅡタイプ2受容体拮抗薬が開発され、
そのEMA401という名称の薬剤の、
第2相臨床試験の結果をまとめたものが今回の文献になります。
対象となった患者さんは、
帯状疱疹後疼痛が少なくとも半年以上持続している、
成人183名で、
6カ国の29の専門施設からエントリーされています。
患者さんは主治医にも本人にも知らされない方法で、
治験薬と偽薬とにくじ引きで振り分けられ、
今回は4週間の治療期間において、
その効果を検証しています。
その結果、治験薬は偽薬よりも有意に、
患者さんの疼痛の症状を緩和させました。
その程度はリリカの1日300ミリグラム使用の試験と、
ほぼ同等のレベルのものです。
ただ、偽薬でもかなりのレベルまで、
疼痛の指標は改善を示していて、
疼痛の治療薬には、
心理的な効果(プラセボ効果)がかなり高いことが分かります。
これは抗うつ剤の治験とほぼ同等の傾向です。
この試験では予めリリカを使用されている患者さんでは、
そのまま上乗せで薬剤が使用されていますが、
リリカの使用の有無に関わらず同等の効果が確認されていて、
リリカとはメカニズムの違う薬剤なので、
併用による効果も期待出来ることが分かります。
副作用はそれほど特異的なものはなく、
頭痛や吐き気が目立つ程度です。
リリカがめまいやふらつきが強いことを考えると、
そうした副作用は少ないものと考えられ、
患者さんには遣い易い薬である可能性が高そうです。
現時点で注意するべきことは、
アンジオテンシンⅡタイプ2受容体は、
神経細胞などの障害時にその発現が増加していて、
組織修復に一定の役割を果たしていることが別個に確認されていることです。
そのため、逆にこのタイプ2受容体の刺激剤が、
肺線維症などの治療薬として開発の途上にあります。
2つを結び付けて考えると、
組織障害時の痛みは、
その組織の障害からの回復機転にも関わりのある可能性があり、
仮にそうなると、
その受容体の阻害剤は、
却って組織の修復を阻害する、という可能性も考えられます。
効果がリリカと同等ということで考えると、
この受容体のメカニズムが、
必ずしも完全に解明されてはいない段階で、
阻害剤を疼痛治療に用いるという考え方は、
慎重であるべきもののように、
現時点では思われます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年2月のLancet誌に掲載された、
帯状疱疹後の神経痛に対する、
新薬の臨床効果についての論文です。
帯状疱疹というのは、
水痘のウイルスが身体の神経節という部分に潜んでいて、
身体の免疫力の低下などをきっかけとして、
帯状の湿疹と痛みとを来す病気です。
湿疹自体は一時的なもので治癒しますが、
その後に湿疹の出現した部位の、
持続的な痛みが長期間残ることがあります。
これを帯状疱疹後神経痛と呼んでいます。
この帯状疱疹後神経痛は、
数年の経過の中では、
徐々に改善することが多いのですが、
それでも長期間身体の痛みに悩まされることは、
患者さんにとっては大きな苦しみです。
ただ、この神経痛に確実に効くという治療は、
現時点では存在していません。
現行最も多く使用されているのは、
プレガバリン(商品名リリカ)という一種の抗痙攣剤ですが、
一定の有効性はあるものの、
めまいやふらつきなどの副作用が比較的強く、
また全ての患者さんに効果がある、
という性質のものではありません。
そこでリリカに代わり得る薬剤や、
別個のメカニズムを持ち、
リリカに上乗せして使用出来るような薬剤の開発が、
期待をされているのです。
今回の文献にあるEMA401という新薬は、
そうした目的で開発された薬で、
選択的アンジオテンシンⅡタイプ2受容体拮抗薬というメカニズムの薬です。
選択的アンジオテンシンⅡタイプ2受容体拮抗薬とは、
どのようなもので、
それがどうして疼痛の治療に使用されるのでしょうか?
アンジオテンシンⅡというのは、
代表的な昇圧物質の1つで、
血管を強く収縮させる働きを持っています。
そのために高血圧の治療として、
アンジオテンシンⅡを抑制することが重要と考えられ、
まずアンジオテンシンⅡを産生する酵素の阻害剤である、
ACE阻害剤が創薬され、
それからアンジオテンシンⅡの結合する受容体の阻害剤である、
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)が創薬されました。
この時、アンジオテンシンⅡの受容体には、
1と2という2つのタイプの存在することが分かっていて、
血圧の上昇に結び付くような作用は、
専らタイプ1の受容体が担っていたため、
ARBという薬は、
タイプ1の受容体を選択的に阻害する薬として開発されました。
この時点でタイプ2の受容体の持つ生理的な役割は、
明確ではありませんでした。
それが近年注目されるようになったのは、
このタイプ2の受容体が知覚神経細胞に発現していて、
その受容体をブロックすることにより、
動物実験で鎮痛作用を持つことが報告されたからです。
そのため、難治性の神経障害性疼痛の治療薬として、
選択的なアンジオテンシンⅡタイプ2受容体拮抗薬が開発され、
そのEMA401という名称の薬剤の、
第2相臨床試験の結果をまとめたものが今回の文献になります。
対象となった患者さんは、
帯状疱疹後疼痛が少なくとも半年以上持続している、
成人183名で、
6カ国の29の専門施設からエントリーされています。
患者さんは主治医にも本人にも知らされない方法で、
治験薬と偽薬とにくじ引きで振り分けられ、
今回は4週間の治療期間において、
その効果を検証しています。
その結果、治験薬は偽薬よりも有意に、
患者さんの疼痛の症状を緩和させました。
その程度はリリカの1日300ミリグラム使用の試験と、
ほぼ同等のレベルのものです。
ただ、偽薬でもかなりのレベルまで、
疼痛の指標は改善を示していて、
疼痛の治療薬には、
心理的な効果(プラセボ効果)がかなり高いことが分かります。
これは抗うつ剤の治験とほぼ同等の傾向です。
この試験では予めリリカを使用されている患者さんでは、
そのまま上乗せで薬剤が使用されていますが、
リリカの使用の有無に関わらず同等の効果が確認されていて、
リリカとはメカニズムの違う薬剤なので、
併用による効果も期待出来ることが分かります。
副作用はそれほど特異的なものはなく、
頭痛や吐き気が目立つ程度です。
リリカがめまいやふらつきが強いことを考えると、
そうした副作用は少ないものと考えられ、
患者さんには遣い易い薬である可能性が高そうです。
現時点で注意するべきことは、
アンジオテンシンⅡタイプ2受容体は、
神経細胞などの障害時にその発現が増加していて、
組織修復に一定の役割を果たしていることが別個に確認されていることです。
そのため、逆にこのタイプ2受容体の刺激剤が、
肺線維症などの治療薬として開発の途上にあります。
2つを結び付けて考えると、
組織障害時の痛みは、
その組織の障害からの回復機転にも関わりのある可能性があり、
仮にそうなると、
その受容体の阻害剤は、
却って組織の修復を阻害する、という可能性も考えられます。
効果がリリカと同等ということで考えると、
この受容体のメカニズムが、
必ずしも完全に解明されてはいない段階で、
阻害剤を疼痛治療に用いるという考え方は、
慎重であるべきもののように、
現時点では思われます。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2014-03-31 08:27
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コメント(3)
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石原先生
クリニック開院に向けてお忙しいところ大変申し訳ありません。
教えてください。
2か月ほど前より足の太ももに筋肉痛の様な痛みがあり、我慢をして仕事をしておりましたが、先日歩けないほどの激痛に襲われ病院に行ったところ、椎間板が狭くなっていると言われハイペン錠ガスロンN
リリカ75mgリリカ25mgを処方されました。薬を調べたところリリカcpにはめまい、眠気、浮腫、肝炎などの副作用があると書いてありました。以前、薬の副作用で肝機能が悪くなり1年以上も体調不良になったことや、高血圧、めまいの持病があり薬を服用している上、検診で肝機能の数値が少し悪いので、リリカCPの服用をしたくないと主治医に相談したところ起こるかわからない副作用を心配するより、服用した方がいいとすすめられました。
リリカCPを服用しないで痛みをとることは不可能なのでしょうか?
教えてください。宜しくお願いします。
by shiro (2015-09-24 22:26)
shiroさんへ
所謂坐骨神経痛の症状と思いますので、
リリカの使用が必須、ということはないと思います。
特別に危険な薬、という訳ではありませんが、
めまいなどの副作用が多いことは事実なので、
ご心配でしたら、
まずはハイペンなどの、
通常の消炎鎮痛剤やビタミン剤などで、
ご様子を見て頂いて良いように思います。
by fujiki (2015-09-25 06:46)
先生お忙しい時に、早々にお返事頂きありがとうございました。
痛みが強く痛み止めはあまり効きませんが、
リリカ無しでやってみようと思います。
<(_ _)>
by shiro (2015-09-25 20:39)