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エクオールは万能サプリメントなのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
エクオールのサプリメントの効果.jpg
今年のClinical Endocrinology誌に掲載された、
エクオールというサプリメントを、
肥満の患者さんに使用した時の、
効果を検証した文献です。

エクオールというのは、
最近あちこちで良く聞く言葉です。

元々は学術的な意味のある物質ですが、
そのサプリメントや美容目的の使用可能性に、
大手の美容メーカーや食品メーカーなどが興味を示しているので、
盛んにメディアで取り上げられているのです。

つまりは前宣伝的な意味合いです。

エクオールとはどのような物質で、
どのようなことがこれまでに分かっていて、
どのような可能性があり、
またどのような危険性があるのでしょうか?

大豆食品が健康に良い、
というのは以前から良く聞く言葉です。

大豆は豆腐や納豆、煮豆などとして、
日本やアジアの幾つかの地域では多く取られていますが、
欧米では一般にその摂取量は少ないという地域差があります。

この大豆は「畑の肉」と呼ばれるように、
良質な蛋白質を含めて、
レシチンやサポニン、各種ビタミン、イソフラボンなど、
多くの栄養素をバランス良く含む食品で、
そのため健康上の多くのメリットが期待されています。

その中であまり他の食品にはない成分として、
注目されているのが大豆イソフラボンです。

イソフラボンというのは植物由来の成分の1つで、
その中にも多くの種類がありますが、
ゲニシステインとダイゼインという物質はその代表で、
いずれも大豆に多く含有されています。

イソフラボンには女性ホルモン様の作用があることが知られています。

そのため、特に閉経後の女性においては、
ホルモン補充療法に近い効果があるのでは、
と期待がされています。

女性ホルモンを単独で使用すると、
乳癌や子宮癌のリスクが、
若干増加することが知られています。

しかし、イソフラボンは女性ホルモンそのものではないので、
同じように癌のリスクを上昇させる、
という見解がある一方で、
むしろ乳腺などにおけるホルモン作用と拮抗して、
癌のリスクを下げるのではないか、
というような見解もあります。

ブログでも何度もご紹介している、
厚生労働省研究班の「多目的コホート研究(JPHC研究)」の解析によると、
大豆製品の摂取量が多い方が、
乳癌の発症率が低下する、
と言う結果を2003年に報告しています。
ただ、味噌汁の摂取ではその傾向は明らかだけれど、
大豆製品や納豆など全体で解析すると、
その傾向ははっきりしないなど、
あまりクリアな結果ではありません。

一方で乳癌のリスクが、
若干ながらイソフラボンの摂取で増加することを示唆するデータも、
少数ですが存在しています。
また、大豆イソフラボンの摂取により、
閉経後の女性で子宮内膜の増殖性の変化が見られた、
とする報告もあります。

更に、同じJPHC研究では、
大豆イソフラボンの摂取が多いと、
肝臓癌の危険性が増加する、
という報告もあり、
女性ホルモンが肝臓癌には予防的に働く、という知見はあるので、
理屈はそれなりに一貫しているのですが、
ある癌は予防するけれど他の癌は増やす、
などと言われれば、
じゃあ一体どうすればいいの?
と混乱に拍車が掛かる思いがします。

このように発癌に対するイソフラボンの効果は、
まだ明確な結論が出ていませんが、
イソフラボンから体内で産生される物質として、
最近注目を集めているのがエクオールです。

注目を集めている、とは書きましたが、
実はエクオール関連の最近の文献を検索してみると、
その殆どは日本の研究者と中国の研究者によるもので、
それも殆ど同じグループで、
しかもサプリメントの企業が絡んでいます。

この辺りは慎重に吟味する必要があります。

エクオール(equol)は、
大豆由来のイソフラボンであるダイゼインが、
体内で特殊な腸内細菌の作用により、
代謝されて生じる物質です。

産生されたエクオールは、
ダイゼインより強い女性ホルモン様活性を持っています。

しかし、エクオール産生作用のある腸内細菌は、
全ての人間の腸に生息している、という訳ではありません。

これまでの報告によると、
概ねアジア人人種の50~55%、
欧米人の20~35%が、
このエクオール産生菌を持っている、
と報告されています。

つまり、日本人は欧米人より、
エクオール産生菌を多く持っています。
従って、同じ量の大豆イソフラボンを摂取しても、
より強い女性ホルモン様作用を得る力がある、
ということが想定されます。

これは全くの仮説ですが、
日本人の女性で心筋梗塞や乳癌の発症率が低いのは、
日本人は大豆の摂取が多く、
かつエクオール産生菌を多く持っているので、
病気の予防効果がより高いためだ、
という考えを主張される専門家もいます。

さて、近年簡単な検査で、
おしっこのエクオールを測定することにより、
このエクオール産生菌を持っているかどうかが、
簡単に診断出来るようになりました。

健康保険の適応はありませんが、
ある検査会社が一手に受注し、
ネットなどでも盛んに宣伝をしています。

大豆イソフラボンの効果を高めることで、
癌を含めた多くの病気の危険性を下げることが出来るなら、
それは福音と言っても過言ではありません。

現時点で考えられているのは、
エクオール産生能のない人に、
エクオールのサプリメントを摂ってもらう、
と言う方法と、
エクオール産生菌自体を、
乳酸菌製剤のように摂ってもらおう、
という方法の2つで、
美容目的で外用剤として、
美肌効果を期待してエクオールを使用する、
という試みも検討されています。

このうち、エクオール産生菌は同定はされましたが、
その摂取によって本当にエクオールが増加するかなどの、
具体的な点は明らかではありません。

今回ご紹介する論文では、
過体重やメタボリックシンドローム、肥満のある患者さんに対して、
12週間エクオールのサプリメントを使用し、
その前後で動脈硬化に関わる幾つかの検査数値の変化を検証しています。

エクオールのサプリメントは1日10mgが使用されています。

対象者はBMIが25以上の54名で、
平均年齢はほぼ60歳で3分の2は女性です。

事前のおしっこのエクオールの測定では、
67.9%がエクオール産生菌を持っていませんでした。

12週間のサプリメントの使用により、
糖尿病の指標であるHBA1cの数値と、
悪玉コレステロールの数値、
CAVI検査と呼ばれる簡易の動脈硬化の検査結果は、
いずれも有意に改善が認められました。
その間体重は殆ど変動はしていません。
この数値の改善は、
エクオール産生菌を持たない女性で、
より大きい傾向がありました。

これは単独施設の研究ですが、
二重盲検という手法を用いているので、
厳密性はそれなりにあるものです。
例数が少ない割にクリアな結果が出ているのが、
ちょっと引っかかります。
言ってみれば、ちょっと多めに大豆製品を摂るのと、
それほど変わらない筈なのですから、
それでここまでなあ、という気がするのです。
今後もう少し多数例で、
他の研究グループでの追試を期待したいのですが、
毎回概ね同じ人達による検討になるのは、
同じ企業のバックアップの元に行なわれているので、
ほぼ間違いのないことで、
批判的な追試が行なわれる可能性は、
低いように思います。
研究費は国からの補助が使用されています。

第一著者の臼井健先生はこの分野の第一人者です。
優れた論文を多く発表されています。
ですから、尊敬こそすれ、
先生を批判するようなつもりは毛頭ないのですが、
この論文に限っては、
サプリメントの実用化に、
都合の良い結果を出すことが、
優先されたように正直思えてなりません。

これまでの文献を検索したところ、
別個に1日10mgのエクオールと30mgのエクオールを比較して、
閉経後の女性の目じりのしわを改善した、
というデータが、矢張り日本の研究者から報告されています。

別のグループからの報告ですが、
同じ製薬会社のサプリメントが使用され、
著者は頻繁に女性誌のサプリメント特集などで、
その有用性をアピールする活動に精を出しています。

現状どのようなことが、
エクオールについて分かっているのでしょうか?

その産生菌の有無により、
体内のイソフラボンの活性に違いがある、
ということは間違いがありません。

比較的少数例の3ヵ月程度の検討において、
動脈硬化関連の数値が改善したり、
お肌の状態が改善したり、といった効果が報告されていますが、
エクオールのサプリメントが発売間近のタイミングで、
それに関わりのある研究者により行なわれた、
バイアスの否定出来ない内容と考えられます。
対象者の選定は非常に大雑把にも関わらず、
かなり明確な効果が短期間で出ている、
という点に特徴のある文献です。

それ以外のエクオールの効果は、
大豆製品の摂取で検証されたものを、
流用している結果に過ぎません。

そのリスクについては現時点では何とも言えません。

皮膚科的な改善を報告した研究者は、
某女性誌において、
「安全性はきちんと確認が取れている」と発言したと書かれています。

ただ、それは3ヵ月という短期間の安全性に過ぎず、
101名の閉経後の女性で検討した結果に過ぎません。

問題になるのは乳癌などの発症が増加しないかどうか、
と言う点にありますから、
これはより長期間の経過を、
より広い年齢層で検証しないと断定出来るような事項ではありません。

仮にこうした発言をしたのが事実とすれば、
ちょっとその神経を疑わざるを得ません。

すぐに大々的にこのサプリメントは発売されると思います。

ただ、少なくともブログを読まれた皆さんは、
その使用には当面は慎重でいて頂きたいと思います。

アンチエイジングの万能サプリメントなど、
個人的には夢物語だという気がするからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 9

臼井 健

偶然見つけて拝読いたしました。我々の論文を紹介いただきありがとうございます。データは製薬に取って都合の良いデータであるのは事実ですし先生のご批判は私が逆の立場なら抱く正しいご批判です。
少しこの研究の裏話をしますとこの研究で我々の期待していた結果は「体重が減ること」でしたがそうとまで行かなくても「レプチン等のアディポサイトカイン、あるいは高感度CRPくらいが有意に動いてくれるのでは?」と考えておりました。本研究は厳格な二重盲検で行われておりもちろん我々もキーオープンまでデータはみておりません。実はデータがオープンになって一番驚いたのは私自身でまさかCAVIなんというパラメーターがこんな短時間に改善するとは思ってもいませんでした(CAVIを測定項目にいれたのも実は思いつきに近かったような感じでした)。LDL-CやHBA1cにも変化を認めたのも意外でした。生データに関しては共同研究者の製薬会社側に(こちらが不愉快になるくらい??)厳格に確認されました。
昨今のデータの改ざん等の案件もあり疑いの目でみられるのも(別に先生のことを指しているわけではありませんので念のため)いたしかたないのかもしれませんが、改ざんするのならもっと巧妙に「レプチン、アディポネクチンが改善しました」みたいにすると思います。
というのが裏話です。先生のご指摘の通り種々の追試がなされるのを期待しております。今年の肥満学会のシンポジウムで腸内細菌のパートをオーガナイズさせていただくことになってます。ご興味があればご参加ください。
長々と失礼いたしました。
by 臼井 健 (2014-03-04 11:04) 

fujiki

臼井健先生
コメントを頂き恐縮しております。
先生の論文は幾つか読ませて頂き、
その緻密な内容に感銘を受けておりました。
失礼の段お許し下さい。
エクオールに関しては、
女性誌の記事などでかなり扇情的な取り上げ方がされていて、
その疑問からこの記事になりました。
イソフラボン関連の話題は混乱もありますが、
非常に興味深く、
この点については、
日本発の研究成果を今後も期待したいと思います。
先生のますますのご活躍をお祈りします。
by fujiki (2014-03-05 08:15) 

熟年女性

たまたま、このページを読ませていただきました。
エクオールの事を他で最近知って、サプリメントを買う寸前でした。
新聞に堂々と産婦人科医がエクオールを取るべきだと書いてあったのです。

購入には少し慎重に考えたいと思います。

ありがとうございました。
by 熟年女性 (2015-02-09 12:51) 

fujiki

熟年女性さんへ
コメントありがとうございます。
何が正解と言い切れるものではないので、
慎重にご検討頂くのが良いと思います。
by fujiki (2015-02-10 08:18) 

渡邊

たった今、NHK放送の『腸内フローラ』観終りました。
エクエールの美肌効果に誘惑され、早速サプリの検索。
大手製薬会社製造エクエールに決定。
でも一応副作用も検索。
先生のページに出会い読ませて頂きました。 

食べ物から摂ることに決めました。

分かりやすい解説でとても参考になりました。

ありがとうございました。
by 渡邊 (2015-02-22 22:29) 

fujiki

渡邊さんへ
コメントありがとうございます。
決してエクオールが悪いということはないのですが、
夢のサプリ、というのはまだ言い過ぎだと思います。
by fujiki (2015-02-22 22:49) 

はる

35歳でホルモン依存性の卵巣がんで、全摘したものです。若くして女性ホルモンがなくなり、ホルモン療法も再発が怖くてできなくて、更年期症状に苦戦していました。主治医よりエクオールを勧められ、飲み始めてました。
若返らなくていいからせめて、歳相応な骨密度、皮膚でいたい・・。
全摘して1年半、脂質異常も指摘されてきてたので、エクオールが良いほうへいってほしいと願うばかりです。
癌の再発に影響ないかが一番心配で、会社はその研究の結果など消費者がわかるようにしていただきたいですね。
by はる (2015-03-07 22:12) 

fujiki

はるさんへ
コメントありがというございます。
くれぐれも過剰なご不安を、
本記事からお感じにはならないようにお願いします。
イソフラボンの癌への影響というのは、
記事にも書きましたように、
まだ相反する報告もあり、
おそらくその摂取量や摂取形態にもよるのですが、
完全には明らかにされていない事項だと思います。
ですから癌に対する影響は、
おそらくは問題はないと思いますが、
まだ未知数であるという理解で、
使用して頂くのが良いと思います。
by fujiki (2015-03-08 18:57) 

そら

乳がんでのアナストロゾール服用中の55歳です。
関節痛、ホットフラッシュ、骨密度低下などなど の対策として
エクオールを考えています。前記のはるさんは その後も飲まれているのでしょうか?
はるさん、fujiki先生、エクオール体験された方 なにか教えていただけることがありましたら、どうぞお願いいたします。
by そら (2016-08-08 13:56) 

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