SSブログ

ゾルピデム(マイスリー)服用翌日の運転の可否について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
マイスリーと運転の可否.jpg
睡眠薬のゾルピデムの使用と、
その翌日の自動車運転の可否についての、
今月のthe New England Journal of Medicine誌の巻頭の解説記事です。

運転中の眠気や居眠り運転が、
交通事故の原因の多くに関わっていることは、
洋の東西を問わない事実です。

それでは、
睡眠薬の使用と自動車の運転の安全性との、
関係をどう考えれば良いのでしょうか?

不眠症の方が眠れない状態で一夜を過ごし、
次の日に自動車の運転をするとすれば、
居眠り運転の原因となることは、
理の当然のように思われます。

そうした方が適切な睡眠導入剤の使用により、
睡眠を確保し、
翌日の運転に向かうとすれば、
居眠り運転のリスクは減りますから、
こうした睡眠導入剤の使用は、
むしろ交通事故を予防するために役立つ、
という言い方も可能です。

しかし、
その一方で睡眠導入剤の影響が、
翌日まで残ってしまうようなことが起これば、
そのぼんやりとした状態での運転が、
事故の原因となり易いことも、
また推測が可能なことです。

この場合は、
睡眠導入剤の使用が、
却って翌日の自動車運転のリスクになる、
ということになります。

ゾルピデム(商品名マイスリーなど)は、
世界的に最も広く使用されている、
睡眠導入剤です。

この薬は広い意味では、
ベンゾジアゼピンという薬剤の一種ですが、
筋弛緩作用などの副作用が少ないように改良され、
従来のベンゾジアゼピンと比較すると、
安全性が高く依存性が少ない薬剤と考えられています。
そのため、非ベンゾジアゼピンとして、
この薬を評価する立場もあります。

世界的に見るとベンゾジアゼピンは、
その依存性の高さと離脱症状の問題から、
次第に常用するべき薬剤ではない、
という考え方が広がり、
その使用は限定される流れになっています。

そうなると、
睡眠導入剤の現行の第一選択はゾルピデムということになり、
その安全性が重要な問題となります。

ゾルピデムの世界的な発売は1992年です。
最初の製剤は短期作用型の薬で、
成人の通常用量は1日1回10mg、
高齢者や肝障害の患者さんなどでは、
薬が遷延する可能性があるため、
5mgへの減量が指示されています。
(日本ではなく海外の記載です)

自動車の運転に関しては、
7~8時間の睡眠後であっても、
最大限の注意を要する、
という記載になっていました。
(日本ではなく海外の記載です)

日本においては、
このタイプの製剤以外は販売されていませんが、
海外においては、
12.5mgのCR錠というタイプのものが、
2005年に発売され、
2011年には舌下錠として、
3.5mgと1.75mgという、
より低用量の剤型も発売されています。

CR錠はより持続が長いので、
中途覚醒のような事例にも使用が可能で、
舌下錠は中途覚醒してしまったケースで、
追加で使用することを想定した剤型です。

つまり、
この3種類のゾルピデムを使い分けることにより、
睡眠障害の殆どの事例に、
使用が可能となった訳です。

しかし、
こうした剤型が登場することによって、
ゾルピデムの新たな問題点が、
近年浮き彫りになって来ています。

舌下錠は概ねその後の睡眠時間が、
4時間は確保出来るケースでのみ、
使用が想定されていますが、
その使用後3時間でのゾルピデムの血中濃度と、
運転の注意度の低下とを検証したところ、
ゾルピデムの濃度が50ng/mLを越えると、
安全運転にリスクが生じる、
という結果が得られました。

つまり、
ゾルピデムを飲んだ翌朝の血液の濃度が、
50ng/mLを越えていると、
自動車の運転にリスクがある、
という1つの指標が明らかになったのです。

その後色々な状況下でゾルピデムの血中濃度を測定したところ、
明確な性差のあることが明らかになりました。

男性より女性の方が、
ゾルピデムの代謝に時間が掛かり、
翌朝の血液濃度が高くなることが、
明確に示されたのです。

通常のゾルピデム10mgを使用し、
その後8時間で血中濃度を測定したところ、
女性の15%と男性の3%は、
その濃度が50ng/mLを越えていました。
これがCR錠になると、
女性の33%、男性の25%、という高率になりました。

アメリカでは、こうした結果を受けて、
ゾルピデムの用量は、
通常の錠剤で女性においては10mgから5mgに減量され、
CR錠は12.5mgから6.25mgに減量されました。

ゾルピデムの通常の剤型と比較して、
ゆっくりと効果を示すCR錠は、
より翌日の注意力の低下を招きかねない、
という判断から、
アメリカのFDAは今年の5月に、
CR錠を使用する際には、
翌日の運転は避けるように指示を出しました。

上記の記事においては、
性差や血中濃度のデータをより科学的に運用し、
翌日の運転のリスクについても、
個々の患者さんに即した対応が、
必要なのではないか、
という内容になっています。

日本においては、
ゾルピデムは通常の剤型のみが発売されていて、
その男女差についての警告も、
現時点ではなされてはいません。
運転は避けることという、
全てのこうした薬剤の添付文書に記載されている、
同じ警告文は書かれていますが、
製薬会社の責任回避の側面が強く、
あまり具体性を感じません。

ゾルピデムが、
他の薬と比較して安全とは言い切れませんが、
世界的に最も安全性に関する検証が、
多く行なわれている薬剤であることは間違いがなく、
こうしたデータの積み重ねにより、
不眠症の患者さんの、
翌日の安全な運転という難しい問題に、
より科学的な進捗が見られることを、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(37)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 37

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0