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メトホルミンの甲状腺腫抑制効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メトホルミンの甲状腺腫予防効果.jpg
今年のEuropean Journal of Endocrinology 誌に掲載された、
糖尿病の治療薬が、
甲状腺に与える影響についての論文です。

2型糖尿病でインスリンの効きが悪い、
インスリン抵抗性のある患者さんでは、
甲状腺が刺激されて腫大する、
というデータがあります。

メトホルミン(商品名メトグルコ)は、
世界で最も広く使用されている、
2型糖尿病の治療薬で、
特に肥満を伴いインスリン抵抗性のある患者さんで、
有用性が高いとされています。

このメトホルミンは肝臓でのブドウ糖の産生を、
抑えるのが主な作用ですが、
血液の脂質や体重を減少させ、
他の糖尿病治療薬を使用した患者さんと比較して、
総死亡リスクを低下させた、
というようなデータもあります。

メトホルミンと甲状腺との関連についても、
幾つかの知見があります。

甲状腺機能低下症と糖尿病とを合併した患者さんにおいては、
メトホルミンの使用により、
甲状腺刺激ホルモンが抑制される、
というデータがあります。

また、
単独の報告ですが、
インスリン抵抗性のある女性の患者さんにおいて、
メトホルミンの使用により甲状腺の結節が縮小した、
というデータもあり、
またこれも単独の報告ですが、
111名の2型糖尿病の患者さんにおいて、
甲状腺腫とインスリン抵抗性とが相関した、
というデータも存在しています。

今回の文献では、
軽度のヨード欠乏が以前に指摘されていた、
ドイツの一地域での健康調査の結果を利用して、
甲状腺腫の発症や進展と、
糖尿病、そしてメトホルミンによる治療の効果を見ています。

甲状腺腫は甲状腺の超音波検査の計測値から、
甲状腺の体積を換算し、
その体積が女性で18ml以上、
男性で25ml以上を甲状腺腫と診断しています。

横断的な検討では2570名が対象となり、
そのうち1088名については、
縦断的な検討の対象として、
平均で5年の観察期間後に、
再度甲状腺の体積を測定しています。

その結果…

メトホルミン未使用の糖尿病の女性では、
甲状腺の体積は、
糖尿病ではない女性より有意に大きく、
甲状腺腫のリスクは1.71倍に増加していました。
男性ではそうした傾向は認められませんでした。

しかし、
メトホルミンを使用している糖尿病の患者さんでは、
そうした傾向は男女共認められませんでした。


縦断的な検討においては、
経過観察期間中の糖尿病の発症と、
甲状腺腫の発症との間には有意な相関があり、
当初から糖尿病であった場合には、
より甲状腺腫の発症リスクは増加しましたが、
メトホルミンを使用した場合には、
そのリスクは減少しました。

つまり、
2型糖尿病の患者さんでは、
特に女性で甲状腺腫が生じ易い傾向があり、
その甲状腺腫はメトホルミンの使用により、
抑制される可能性がある、
ということになります。

どうやらインスリンが上昇するタイプの糖尿病においては、
インスリンの直接作用であるかどうかは証明されていませんが、
甲状腺の細胞が刺激されて増加する可能性があり、
このため甲状腺腫が生じ易くなります。

メトホルミンには細胞の増殖シグナルを、
抑制するような作用があるので、
メトホルミンの使用により、
甲状腺腫の発症が抑制される、
という今回の推論は、
概ね理屈にも合うものだと思います。

問題は糖尿病に伴う甲状腺腫に、
健康上の問題があるのか、
という点にあり、
現時点では甲状腺の機能に大きな変化は生じないのですから、
癌の発症などがなければ、
それほどの問題ではないようにも思います。

甲状腺が慢性に刺激されれば、
何となく発癌のリスクは増えそうですが、
それを明確に示すようなデータは、
現状はあまり報告はされていないようです。

従って、
僕のような甲状腺マニア以外には、
あまりこうした知見は興味を惹かないものかも知れませんが、
糖尿病の患者さんでは、
甲状腺疾患の合併にも注意を払い、
元々甲状腺腫のあるような患者さんでは、
糖尿病の治療にメトホルミンを積極的に使用することは、
意味のあることのように思いますし、
TSHの変動にも、
時々気を配ることで、
患者さんのより良い管理に、
結び付く可能性はあるようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 5

さくら

バセドウ病→薬副作用→手術→再発(20年後)→アイソトープと経験した私にとっていつも甲状腺の内容を興味深く読ませて頂いています。原発事故後これから国内では甲状腺疾患患者が増えるかもしれないのでとても参考になります。ありがとうございます。
by さくら (2013-08-02 11:38) 

fujiki

さくらさんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
そう言って頂くと励みになります。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-08-02 20:51) 

みつ子

いつも、ブログで色々なことを学ばせて頂き、安心しています。
昨年、橋本病が見つかり現在チラーヂン75を服用しています。
先日、頭痛がひどく友人に話したら、漢方薬の甘草を勧められましたが、ホルモン剤との飲み併せは大丈夫なのでしょうか?
宜しくお願い致します。

by みつ子 (2013-08-02 22:04) 

fujiki

みつ子さんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
チラーヂンと甘草自体の飲み合わせは、
特に問題はないと思います。
ただ、芍薬甘草湯などの痛みどめの漢方は、
甘草の量が多く、
低カリウム血症にはなり易いので、
痛い時だけの屯用で使用することをお勧めします。
by fujiki (2013-08-02 22:49) 

みつ子

ご回答ありがとうございます。
早速、安心して服用致しました。
おかげさまで、今朝は、頭痛が治まっています。
これからも、貴重な情報宜しくお願い致します。
by みつ子 (2013-08-03 08:24) 

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