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下肢蜂窩織炎の抗生物質治療の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日も事情があっていつもより早い更新になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
蜂か織炎のペニシリン治療.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
足の細菌感染症に対する、
抗生物質の持続使用の効果についての文献です。

足の特に膝より下の部分が、
浮腫んで赤く腫れ、
強い痛みを伴うことがあります。

これは皮膚にいる細菌が、
脂の出る穴などを介して、
身体の中に侵入して起こす、
細菌感染症で、
「下肢蜂窩織炎」と呼ばれています。

糖尿病があったり肥満があると、
こうした感染症を起こし易く、
また何度も再発し易いことも特徴の1つです。

この病気の治療は抗生物質の使用で、
細菌感染症をコントロールすることですが、
一旦は良くなっても再発を繰り返します。

そこで、
再発を繰り返す患者さんに限定して、
少量の抗生物質を長期間「予防的」に使用し、
この病気の再発を予防することが出来るのでは、
という考え方が生まれ、
その臨床試験の結果をまとめたのが今回の論文です。

対象となった患者さんは、
イギリスとアイルランドの医療機関で、
過去3年間に2回以上下肢の蜂窩織炎を来した274名で、
くじ引きで2つの群に分け、
患者さんにも処方する医師にも分からない形で、
一方には1回250mgのペニシリンの錠剤を1日2回、
もう1つの群では偽薬を、
どちらも1年間継続して使用して、
使用終了後も2年間の経過観察を行ないます。

要するに、
通常よりうんと少量のペニシリンを、
1年間という長期間使用するのです。
一種の「抗生物質少量持続療法」です。

その結果…

ペニシリンを使用することにより、
蜂窩織炎の再発のリスクは、
相対リスクで45%有意に低下しました。
使用した1年間の期間で、
偽薬での再発は37%の患者さんに見られたのに対して、
ペニシリンを使用している患者さんでは、
再発は22%に留まっていました。

しかし、
ペニシリンの使用を終了した後の機関においては、
再発率はどちらの群でも違いはありませんでした。

つまり、この再発予防効果は、
あくまで抗生物質を使用している期間のみ有効で、
要するに抗菌作用がその予防効果の原因である可能性が、
高い、ということになります。

患者さんの体格を示す、
BMIの平均値は35を越えていますが、
ペニシリンの再発予防効果は、
BMIが33未満でより高く、
足に浮腫みがあったり、
BMIが33以上であったり、
それまでの再発が3回を越えているケースでは、
より低い効果しか得られていません。

つまり、
再発のリスクが低い患者さんほど、
よりこの治療の効果が期待出来る、
ということになります。

抗生物質の長期使用ということになると、
その副作用や有害事象の有無が気になりますが、
上記の文献ではその記載は極めてあっさりしていて、
問題となるような有害事象は、
偽薬と有意な差はなかった、
という結果になっています。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

下肢蜂窩織炎は、
非常に再発し易い病気なので、
3年間に2回以上の再発が見られた場合には、
勿論糖尿病などの基礎疾患があれば、
そのコントロールや体重の管理を、
まずは行なうことが求められますが、
再発予防のためにペニシリンを少量持続的に使用することは、
一定の予防効果が期待出来る治療と考えられます。

ただし、
今回の文献では、
使用による耐性菌の出現などのチェックが、
なされてはいないので、
その安全な使用と治療のメリットについては、
まだ検討は不充分であり、
今後より精度の高い方法で、
再検証する必要があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ide

先日し尿器科にいってきたのですが、急性糸球体腎炎はほおって置いても直るという発言にはびっくりしました。小児科も見る先生なんですけど。
扁摘パルス療法という特殊な病気に対する特殊な治療法がありますけど、この応用で感染病巣切除なしにステロイド免疫抑制→発症→抗生剤治療→改善→ステロイド免疫抑制を繰り返したら、やっぱり無茶苦茶になりますかね?ATP阻害剤なんかより安全な気がしますけど。
http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1209_04.pdf
ここで溶連菌の歴史を知ったのですが、病理の証明の仕方とか大変面白かったです。しかしタスキギー梅毒事件のようなことは行われずペニシリンが普及したため今ひとつ病理がはっきり認識されてないみたいです。腸内、膣内では善玉菌という意見も驚きです。
by ide (2013-05-17 03:05) 

YUKA

初めてお邪魔させていただきます。
生後12週の息子を持つYUKAと申します。

個人的な質問で大変恐縮ですが(今日の話題とも関係が無く申し訳ございません)、息子のロタリックス接種の件で調べており、先生のブログを拝見させていただきました。
過去2012年5月14日の記事で、”7月からは接種者1万人例レベルの追跡調査を予定”と書かれていますが、その調査結果はもう発表されているのでしょうか。
HPVワクチンの問題もあり、大変気になっています。
職場復帰の為、息子は1歳~保育所に預ける予定ですので、ロタリックスを接種したいと思っているのですが、私の準備不足の為、初接種が13週6日になってしまい、接種すべきがどうか、毎日悩んでおります。
(先生が初接種は10週までを推奨されている記事も拝見しまた・・・)
ヒブと肺炎球菌1回目は単独で接種済み、4種混合を来週(12週)で接種予定です。
このまま単独で進めていくと、ヒブ・肺炎・4種共、2回目3回目接種が、予定通りでも49日間隔があく事になってしまい、ロタの2回目も20週6日になってしまいます。
抗体上昇に問題ないか・単独に切り替えた方が息子の為になるのか・ロタは諦めた方が良いのか等、
お忙しいところ恐縮ですが、アドバイスいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
by YUKA (2013-05-17 10:55) 

fujiki

YUKA さんへ
12週以降開始のロタウイルスワクチンについては、
個人的にはあまり積極的にはお勧めしていません。
優先度から言えば、
ヒブ、肺炎球菌、4種混合の方が高いと思いますので、
そちらを進めて頂くのが、
個人的には良いように思います。
by fujiki (2013-05-21 08:04) 

YUKA

お忙しい所、アドバイス頂きまして有難うございました。
先生のご意見を参考にさせて頂き、ロタは接種しない事に決めました。
有難うございました。
by YUKA (2013-05-22 15:15) 

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