フェニーチェ歌劇場「オテロ」 [オペラ]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
イタリアのフェニーチェ歌劇場の来日公演が、
先日まで行なわれました。
フェニーチェ歌劇場は、
イタリアでも歴史のある、
ヴェネチアのオペラハウスですが、
現在のレベルはボチボチの部類です。
何度か来日公演を行なっていて、
特に前回のものは、
オペラハウスのリニューアル、
ということもあったのでしょうが、
上演されることの珍しい演目も含めた、
3演目オペラ上演という意欲的なもので、
レベルも高かったと思います。
それと比較すると今回は、
オペラは1演目のみで、
後はガラコンサートという、
ちょっと寂しい内容になっています。
まあ、色々と冴えない事情があるのでしょう。
オペラハウスの引越し公演は、
かつての定評のある演目を再現するような場合と、
そのシーズンに初演されたプロダクションを、
そのまま持ち込む場合の2通りがあり、
今回は昨年秋に初演された演出を、
そのまま持ち込んだもののようです。
演目はヴェルディの「オテロ」です。
ヴェルディの「オテロ」は、
「マクベス」、「フォルスタッフ」と並んで、
ヴェルディがシェイクスピアをオペラ化したものの1つで、
この3作品の中では、
最も原作に忠実です。
「オテロ」というのは原作の「オセロ」を、
イタリア語読みにしているのです。
「オテロ」はロッシーニも、
ヴェルディより先にオペラ化していて、
ペーザロのロッシーニフェスティバルの、
2008年の来日公演で、
日本でも聴くことが出来ました。
これもなかなかロッシーニらしい、
聴き所満載の面白い作品ですが、
矢張りドラマとしての完成度は、
ヴェルディ版に軍配が上がります。
ただ、大きな問題は、
オテロ役が並の歌手では役不足な難役なことで、
特に名テノールのドミンゴが、
長くこの役を得意にしていたので、
どうしてもドミンゴの歌唱やその姿と、
比較してしまい、
納得のいかないことが多いのです。
僕は2002年のワシントン・オペラの来日公演で、
一度だけドミンゴの「オテロ」を生で聴きました。
もうその声に最盛期の輝きはない頃でしたが、
それでも最初の登場の第一声から、
間違いなくイメージするオテロそのもので、
その風格のある押し出しと、
歴戦の勇者の貫禄は、
これこそ本物、
という印象を強く感じました。
シェイクスピアの原作は、
徹底した会話劇で、
予め定められた悲劇の結末へ、
グイグイと進んでゆくスピード感がその魅力です。
それをオペラの形式に嵌め込み、
オペラ的な歌の見せ場に変換するのは、
そうた易いことではなく、
はっきり言えばちょっと無理があるのです。
従って、
凡百のテノールがオテロを演じると、
その綻びばかりが目立って、
顔を黒く塗ったオジサンが、
オロオロ叫んでいるだけ、
といった感じになりがちです。
この作品は日本でも結構上演頻度が高く、
新国立劇場でも複数の演出で上演されていますし、
東京オペラの森でも、
スカラ座や東欧やロシアの歌劇場の来日公演でも、
しばしば取り上げられていますが、
オテロ役でドミンゴ以外に満足したことは、
これまでに一度もありません。
作品自体の出来では、
2003年のスカラ座来日で、
ムーティの指揮にアンドレア・ロストのデスデーモナ、
レオ・ヌッチのイアーゴと揃った舞台が、
実際に聴いた中では一番でしたが、
オテロ役のクリストン・フォービスには、
満足は出来ませんでした。
今回の上演は正直、
これまで聴いた「オテロ」の中でも、
そうした残念度はかなり高いもので、
オテロ役のグレゴリー・クンデは、
かつてロッシーニ版のオテロを演じて好印象でしたから、
期待したのですが、
声に迫力はあって押し出しは良いのですが、
ただ叫んでいるだけで、
繊細さは欠片もなく、
演出も最近の新国立などに良くありがちな、
お金のないのがありありの貧相な感じの癖に、
観易い場面をわざわざ観難くしたり、
室内の場面をわざわざ外でやったり、
死んだデスデーモナをもう一度出してみたりと、
頭でっかちの苛々するようなものだったので、
正直聴き続けるのは苦痛でした。
ガンガン鳴らし続けるだけのオケも、
どうしちゃったの、
という感じでしたが、
別日のガラコンサートでは、
如何にもイタリアの田舎の歌劇場、
という雰囲気で、
そう悪くはなかったので、
新しいオテロを作ろう、
というような、
変な意気込みが空回りした結果なのかな、
というようにも思いました。
個人的にはこの作品は、
シンプルで原作通りの演出で、
繊細に演劇的に上演するのが、
一番ではないかと思いますが、
オテロ役に新たなスターが出現しないと、
方向性の定まった上演は、
簡単には実現はしないように思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
イタリアのフェニーチェ歌劇場の来日公演が、
先日まで行なわれました。
フェニーチェ歌劇場は、
イタリアでも歴史のある、
ヴェネチアのオペラハウスですが、
現在のレベルはボチボチの部類です。
何度か来日公演を行なっていて、
特に前回のものは、
オペラハウスのリニューアル、
ということもあったのでしょうが、
上演されることの珍しい演目も含めた、
3演目オペラ上演という意欲的なもので、
レベルも高かったと思います。
それと比較すると今回は、
オペラは1演目のみで、
後はガラコンサートという、
ちょっと寂しい内容になっています。
まあ、色々と冴えない事情があるのでしょう。
オペラハウスの引越し公演は、
かつての定評のある演目を再現するような場合と、
そのシーズンに初演されたプロダクションを、
そのまま持ち込む場合の2通りがあり、
今回は昨年秋に初演された演出を、
そのまま持ち込んだもののようです。
演目はヴェルディの「オテロ」です。
ヴェルディの「オテロ」は、
「マクベス」、「フォルスタッフ」と並んで、
ヴェルディがシェイクスピアをオペラ化したものの1つで、
この3作品の中では、
最も原作に忠実です。
「オテロ」というのは原作の「オセロ」を、
イタリア語読みにしているのです。
「オテロ」はロッシーニも、
ヴェルディより先にオペラ化していて、
ペーザロのロッシーニフェスティバルの、
2008年の来日公演で、
日本でも聴くことが出来ました。
これもなかなかロッシーニらしい、
聴き所満載の面白い作品ですが、
矢張りドラマとしての完成度は、
ヴェルディ版に軍配が上がります。
ただ、大きな問題は、
オテロ役が並の歌手では役不足な難役なことで、
特に名テノールのドミンゴが、
長くこの役を得意にしていたので、
どうしてもドミンゴの歌唱やその姿と、
比較してしまい、
納得のいかないことが多いのです。
僕は2002年のワシントン・オペラの来日公演で、
一度だけドミンゴの「オテロ」を生で聴きました。
もうその声に最盛期の輝きはない頃でしたが、
それでも最初の登場の第一声から、
間違いなくイメージするオテロそのもので、
その風格のある押し出しと、
歴戦の勇者の貫禄は、
これこそ本物、
という印象を強く感じました。
シェイクスピアの原作は、
徹底した会話劇で、
予め定められた悲劇の結末へ、
グイグイと進んでゆくスピード感がその魅力です。
それをオペラの形式に嵌め込み、
オペラ的な歌の見せ場に変換するのは、
そうた易いことではなく、
はっきり言えばちょっと無理があるのです。
従って、
凡百のテノールがオテロを演じると、
その綻びばかりが目立って、
顔を黒く塗ったオジサンが、
オロオロ叫んでいるだけ、
といった感じになりがちです。
この作品は日本でも結構上演頻度が高く、
新国立劇場でも複数の演出で上演されていますし、
東京オペラの森でも、
スカラ座や東欧やロシアの歌劇場の来日公演でも、
しばしば取り上げられていますが、
オテロ役でドミンゴ以外に満足したことは、
これまでに一度もありません。
作品自体の出来では、
2003年のスカラ座来日で、
ムーティの指揮にアンドレア・ロストのデスデーモナ、
レオ・ヌッチのイアーゴと揃った舞台が、
実際に聴いた中では一番でしたが、
オテロ役のクリストン・フォービスには、
満足は出来ませんでした。
今回の上演は正直、
これまで聴いた「オテロ」の中でも、
そうした残念度はかなり高いもので、
オテロ役のグレゴリー・クンデは、
かつてロッシーニ版のオテロを演じて好印象でしたから、
期待したのですが、
声に迫力はあって押し出しは良いのですが、
ただ叫んでいるだけで、
繊細さは欠片もなく、
演出も最近の新国立などに良くありがちな、
お金のないのがありありの貧相な感じの癖に、
観易い場面をわざわざ観難くしたり、
室内の場面をわざわざ外でやったり、
死んだデスデーモナをもう一度出してみたりと、
頭でっかちの苛々するようなものだったので、
正直聴き続けるのは苦痛でした。
ガンガン鳴らし続けるだけのオケも、
どうしちゃったの、
という感じでしたが、
別日のガラコンサートでは、
如何にもイタリアの田舎の歌劇場、
という雰囲気で、
そう悪くはなかったので、
新しいオテロを作ろう、
というような、
変な意気込みが空回りした結果なのかな、
というようにも思いました。
個人的にはこの作品は、
シンプルで原作通りの演出で、
繊細に演劇的に上演するのが、
一番ではないかと思いますが、
オテロ役に新たなスターが出現しないと、
方向性の定まった上演は、
簡単には実現はしないように思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-04-21 07:29
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