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85歳以上の高齢者における血圧と脈圧の影響について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

機能はソネットのメンテナンスの関係で、
更新が出来ませんでした。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PC向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高齢者の脈圧と予後.jpg
J Am Geriatr Soc誌に今年掲載された、
85歳以上の高齢者における、
血圧とその方の予後との関連性についての論文です。

高血圧があり、
薬による治療を受けられている方は、
多くいらっしゃると思います。

血圧を治療により正常化させることにより、
心筋梗塞や脳卒中の発症が減り、
その後の患者さんのトータルな死亡率においても、
良い影響があることは、
多くの疫学研究や臨床試験において、
確認をされている事項です。

ただし、
こうしたデータの多くは、
主に中年層から70代くらいまでの年齢層が、
その対象になっていて、
80歳を超えるような高齢者においても、
同じことが言えるかどうかは、
まだ議論のあるところです。

高齢者では血圧が上昇しますが、
それは身体の血管が硬くなり、
微調節が難しくなることにより、
脳に充分な血液を送るための、
代償作用の側面があるからです。

実際、脳梗塞を起こした後などでは、
血圧をそうでない方と同じように下げると、
却って脳梗塞の再発のリスクを上げる、
というようなデータもあります。

それでは、
高齢者特に80歳以上の年齢層においては、
どのくらいまで血圧を下げるのが望ましいのでしょうか?

今年の1月にそれに関する大規模な臨床試験の結果が、
British Medical Journal誌に掲載されていて、
同月にそれをご紹介する記事を書いています。

これは80歳以上の高齢者で、
上の血圧が160を超える方に限って、
上が150、下が90を目標値として、
少量の利尿剤とACE阻害剤による治療を行なうと、
その後の死亡と脳卒中の発症リスクが、
有意に低下した、
という結果になっています。

つまり、
この程度のマイルドな降圧であれば、
80歳を超える患者さんに対しても、
意味がある可能性が高い、
ということを示唆しています。

しかし、
この研究においては、
患者さんの状態は安定している方を対象にしていて、
現実にはその年齢層では、
認知症のある方や、
身体がご不自由な方も多いことを考えると、
これをもって全てのその年齢層の方で、
同じような結論が出るとは限りません。

また高齢者の予後を見る指標として、
脳卒中の再発や死亡リスクだけで、
本当に良いのか、
という問題もあります。

現実には日常の生活が1人で可能かどうか、
というような生活の自立度と、
認知症の進行などの方が、
病気などより大きな問題になるからです。

今回の研究においては、
オランダにおいて、
85歳の705名をエントリーし、
その後の90歳までの健康状況を追っています。
そのうち、
血圧とそれに付随するデータが利用出来たのは、
572名です。

この中には、
血圧や心臓などの治療をされている方もおり、
既に脳卒中や癌を罹患している方もいます。

つまり、
一般の人口組成に応じて、
その経過を血圧を切り口にして、
観察しているのです。

その結果…

上の血圧が162~215の群では、
それより低い群と比較して
(数値を3つの群に分けての比較です)、
認知症のその後の進行も、
社会生活の不自由さの進行も、
いずれも有意に遅くなる、
という結果が得られました。

下の血圧や平均血圧では、
有意な差は出ませんでしたが、
上の血圧と下の血圧の差である脈圧が、
84~131の群では、
それより低い群と比較して、
矢張り上の血圧と同様、
認知症や社会生活の不自由さの、
進行が遅い、
という結果でした。

この血圧は、
試験開始の80歳の時点で、
その方のご自宅を訪問して、
水銀血圧計で座位で測った数値です。

この時の血圧の数値が上が140、下が90の人と、
上が170、下が90の人、
上が170、下が60の人では、
170と60の人がその後10年に、
認知症の進行や生活の自由度の低下は、
一番進まない可能性が高い、
ということになります。

脈圧に関しては、
色々な意見があり、
脈圧が大きいと動脈硬化が進み易い、
というような意見を、
読まれたりテレビで目にしたような方も、
いらっしゃるのではないかと思います。

ただ、
今回の結果においては、
上の血圧が高く、
脈圧も大きい方が、
よりその方の社会生活上の予後は良い、
という結果でした。

多くの皆さんは、
脳卒中の発症リスクや死亡リスクよりも、
80歳以上の年齢層においては、
認知症の進行のリスクや、
身体の不自由さの進行のリスクを、
より重要なものに考えると思います。

その意味で、
今回の結果は非常に示唆的なものだと思いますし、
本来は高齢者においては、
こうしたターゲットの研究が、
より多く行なわれるべきだと思います。

今日は80以上の高齢者における、
血圧や脈圧と健康との関連性についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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今野祥山

67歳なので該当しませんが血圧には悩んでいます。ご教授もらえれば助かります。
30年前から160-80で検診のたびに高血圧のため降圧薬を飲むように言われ、15年前から飲むようにしていましたがせいぜい150止まりで推移していました。
去年人間ドッグで腎機能低下でレベル3との事で血圧を130以下に下げるようにしないと透析に移行すると脅かされて、仕方が無く降圧薬の追加を試みていますが量を増やしたり種類を替えたりしていますがさほど変化は有りません。
妻と同じ食事をしていて妻は100-70です。運動は毎日30分の散歩を欠かさず、酒タバコはせず、早寝早起きで、仕事も好きな仕事でストレスは何もありません。体調もすこぶる良くて、同年代の人よりはるかに活動的な生活を送っています。
私自身、血圧は加齢とともに必要性が有るから上がってくるのであるような気がしますが、透析の脅しに下げざるを得ないのかと迷う所です。極端な減塩では明らかに120台に下がることは判りましたが、とても我慢できるようなものではなく、普通の減塩程度でも変化は有りませんでした。考えられることは一通りやりましたがさっぱり効果が出ませんので思案しています。何か他に試してみることはあるでしょうか。
by 今野祥山 (2012-12-06 09:27) 

fujiki

今野祥山さんへ
降圧剤による人工的な降圧は、
矢張り限界があるように思います。
ACE阻害剤と少量の利尿剤による降圧は、
腎機能に対しても一定の効果が確認されていて、
その継続はされた方が良いように思いますが、
後はむしろ気に掛け過ぎずに、
いつも通りで生活して頂くのが、
良いように個人的には思います。
by fujiki (2012-12-08 08:13) 

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