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新規抗凝固剤リバロキサバン(イグザレルト)の市販直後調査結果を考える [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプトの整理などして、
それから今PCに向かっています。

10月22日に左手の手術が決まりました。
そのため22日と23日は代診になります。
なるべくその日は避けてご受診を頂くよう、
よろしくお願いします。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
イグザレルトの有害事象.jpg
新規の抗凝固剤である、
リバロキサバン(商品名イグザレルト)の使用後に、
脳出血を来して死亡に至った事例が、
今年の9月20日の時点で4例報告されており、
それを受けて、
当該の製薬会社は、
上記のような適正使用のお願いを出しました。

リバロキサバンは、
ワルファリンに代わり得る抗凝固剤として、
今年の4月に日本で発売されました。

ワルファリンに代わり得る薬剤としては、
昨年に直接トロンビン阻害剤のダビガトラン(商品名プラザキサ)が、
先行して発売され、
非常な注目を集めましたが、
その一方で特に腎機能低下のある高齢者において、
不適切な使用が行なわれ、
出血系の合併症での死亡事例が問題になりました。

それに対して、
今年発売されたリバロキサバンは、
日本人のみの臨床試験を行なっている点、
腎排泄が主体ではないので、
腎機能低下の影響を受け難い点、
その抗凝固剤としての効果が、
概ね24時間で消失し、
リバウンドや遷延などの影響が少ないこと、
などの特徴から、
より安全性の高い薬剤として、
宣伝がされました。

しかし、
臨床試験の段階でも、
0.13%は脳出血の有害事象が起こっており、
出血のリスクを充分考慮した上で、
その使用の適否を考えるべき薬剤であることは、
間違いがありません。

今回今年の9月に、
概ね4カ月間の市販直後調査の中間報告が発表され、
その中には死亡事例2例および、
死亡には至らなかった重症の出血の事例5例が含まれています。
死亡事例の1例は脳出血で、
もう1例は肺胞出血です。
その後詳細は未確認の脳出血の死亡事例が3例加わり、
死亡の事例は5例となっています。

勿論その間の推定処方数が12000人ですから、
比率的には予想の範囲内、
という言い方は可能です。

ただ、そうした事例の中に、
今後この薬をより安全に使用するための、
ヒントがあるように思い、
詳細が公開されている死亡事例2例について、
僕なりに検証してみたいと思います。

公開された事例のご紹介ですので、
やや人間味のない筆致になるかと思いますがお許し下さい。
もし当該の患者さんのご関係の方で、
ご不快に思われるような記載がありましたら、
ご指摘頂ければ削除します。
また、本記事はあくまで今後より良い診療に結び付けるための、
検討の意味合いで、
決して患者さんの主治医の先生や医療機関を、
非難するような意図はありませんので、
その点はご理解の上お読み頂ければ幸いです。

それでは始めます。

まず、脳出血で死亡された事例ですが、
これは60歳代の男性で、
発作性心房細動でその頻度が増えたために、
イグザレルトの1日15mgの使用が開始されています。
腎機能はほぼ正常です。
心房細動に対してカテーテルアブレーションという治療が、
イグザレルトを使用したまま行なわれましたが、
その時点で上の血圧が190と、
血圧コントロールが不安定なことが確認されています。

そして、
イグザレルト使用後55日後に、
両手の痺れと吐き気を自覚し、
救急搬送されるも、
広範な皮質下出血のために亡くなられています。

この事例の問題は血圧が不安定な状態で、
抗凝固剤が使用されていることで、
このことから、
最初の「適正使用のお願い」が作られています。

仮に脳の血管に脆い場所があれば、
血圧が急上昇することにより、
血管がダメージを受け易くなることは充分考えられ、
日本人には脳出血の発症が、
欧米と比較して多いことを考えると、
こうしたリスクを、
欧米より重く見積もる必要があるのではないかと思います。

そして、
血圧上昇により出血のリスクの高い患者さんに、
抗凝固剤が使用されれば、
万一出血した場合には、
より重傷になることが予想されるのです。

この事例の教訓は、
血圧コントロールが不安定で、
血圧の急上昇のエピソードが頻回な患者さんでは、
抗凝固療法前に、
血圧コントロールを優先させ、
血圧が安定した時点で投与を開始する、
ということです。

勿論緊急性のある場合には、
その余裕のないことも有り得ますが、
少なくとも今回の事例は、
そうではないと思います。

もう1例の開示されている死亡事例は、
70代の男性で、
出血性梗塞や誤嚥性肺炎の既往のある方です。
記載によれば心房細動はないようです。

ワルファリンが1日1.5mgで使用されていましたが、
コントロールが安定しないため、
一旦中止の上、リバロキサバン1日15mgへの切り替えが行われています。

経口摂取は困難のため、
すりつぶして胃管という管から薬剤を注入しています。

開始当日より発熱し、
誤嚥性肺炎を疑われて治療開始。
結果として肺の中の出血が検査により見付かり、
その後状態は急変して呼吸不全のため亡くなられています。

この事例は出血と死亡との因果関係は明確ではありませんが、
リバロキサバンの使用自体については、
多くの疑問が残る事例です。

まず、
基本的な現時点での適応は、
心房細動という不整脈による脳卒中の予防のみにも関わらず、
心房細動のない脳梗塞の事例に使用されています。

次に抗凝固剤は出血のリスクが高く、
この方は出血を伴う脳梗塞の既往があり、
誤嚥性肺炎のため経管栄養を行なっているなど、
状態からより出血リスクの高い患者さんであるにも関わらず、
敢えてリバロキサバンが、
それも常用量で開始されています。

更にはこの薬はつぶしての処方は不安定のため、
認められていないにも関わらず、
経管での投与が継続されています。

抗血小板剤に比較して、
抗凝固剤は効果も高い代わり、
間違いなく有害事象としての出血のリスクも高いのです。

その使用に当たっては、
その患者さんに対して、
本当にその薬剤を選択することが予後を改善し、
患者さんの利益になるかについての、
慎重な分析と判断とが必要な筈です。

慢性心房細動に場合には、
その血栓症発症リスクは非常に高く、
その発作予防としてのワルファリンの有用性は確立されていて、
ワルファリンと比較した際の、
ダビガトランとリバロキサバンの非劣性も確認されています。

しかし、
それ以外のケースにおいては、
より慎重な判断が必要です。

この患者さんには心房細動はなく、
出血を伴う脳梗塞の既往があり、
寝たきりで経管栄養を行なっていて、
嚥下性肺炎も繰り返しています。

その状況でワルファリンをリバロキサバンに切り替えることは、
リスクが高く、つぶしでの使用も、
その効果は不安定になるのですから、
到底適応とは考えられないと思います。

勿論保険上の適応というのは、
多くの制限の中で決められていて、
その全てを守ることが、
患者さんのためになるとは限りません。

適応の変更には多大な労力と金銭が掛かるので、
変更するべきと分かっている事項でも、
変更されずにそのまま、
ということもよくあります。

しかし、
こうしたリスクのある新薬の場合には、
矢張り当初は厳密にその適応を守ることが、
優先されるべきではないかと思います。

市販後調査の内容を見ると、
心房細動のない患者さんに、
クロピドグレルとアスピリンという2剤の抗血小板剤に加えて、
このリバロキサバンを追加して使用し、
すぐに眼底出血と喀血を来たすなど、
どう考えても適応を無視した事例が多く紹介されていて、
非常に切ない気分に囚われます。

僕はこうしたことが常にあるので、
新薬は原則として、
発売後半年の市販後調査の結果は確認した上で、
その使用を検討するようにしています。

今日はリバロキサバンの、
市販直後調査中間報告結果を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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うさぎおやじ

正に今この薬に関してもやもやしておりました。
長文の質問をお許し下さい。

婆さんは不整脈による血栓により脳塞栓を発症しました。
退院後から2年前までの6年間ワルファリンを飲んでいましたが、バイアスピリン、プラビックスへ薬が変更となりました。その時の変更の理由はあざが出来やすくなるからでした。

何の疑問も無く2年間過ごして来ましたが、本年6/15の胃ろう造設をきっかけに一包化や粉砕化などの事で薬剤師さんと話す機会があり、心原因性の血栓予防には今処方されている薬はあまり効果が無い、今は新薬も出てるので、新薬のリスクやワーファリンまで含めた今後の服薬を相談してみたら?との意見を頂きました。

在宅医に相談した所、「処方に意見して家族を混乱させかき回し頭に来る!誰がそんな事を言った!」とお怒りのようで、イグザレルトの資料と、バイアスピリンとプラビックスは経口服薬にも関わらず、経管投与の死亡例の資料を持って来られ、今の薬でも十分効果は有るとの話でした。

ではなぜ抗凝結と抗血小板の2つ薬があるのか、6年間のワーファリン服薬はなんだったのかとお聞きした所、本来抗凝結は手術用で、大事を取ってワーファリンを飲ませてた。管理も面倒。もう94才だから何で死んでも寿命との回答でした。
全く納得出来ませんでしたが、これ以上逆らっても何のメリットも無いので、もやもやしたまま現在の薬を服薬しております。

先生に質問です

①抗凝結と抗血小板の薬の認識は在宅医の言うような使われ方が一般的な使われ方なのでしょうか。
また、今の薬は本当に心原因性の血栓予防に効果的なのでしょうか。

②94才、6年間ワーファリン服薬実績、経口服薬の条件で先生なら新薬(イグザレルト)の処方はどのようにお考えでしょうか。

③ちょっと主旨と外れる質問ですが、「平均寿命以上生きているから」
「もう90代だからなんでもいいんじゃない?」など医者、医療関係者の口から良く聞きます。

60代の子宮がん手術、術中心停止2回で蘇生。ガンは完治
80代で脳塞栓。
在宅介護。胃ろう造設。

過去の大小様々な医療の連続性の上に94才があると自分は思っていますし、感謝もしております。

今回の胃ろう造設も医者の強い勧めがあったのも決断した理由の一つです。
しかし、栄養管理や服薬に関しては勝手に終末医療的な思想を持ち出されてしまいます。
婆さんに合わせた範囲で胃ろうのメリット(低栄養化防止、容易な栄養管理、体力回復による味わいの復活)を最大に活かし、デメリット(栄養剤の逆流、埋没や肉腫、ずさんな栄養管理による疾病、いい加減な粉砕一包化による薬効の減少)を最少に抑え、穏やかな死を迎える
これが無くては胃ろうした意味は無いと自分は思います。

自分達(医療関係者)で寿命を延ばし、平均寿命以上、90代にもなると「なんか色々ともういいんじゃない?」的な物言いは釈然としませんし、なんて勝手な連中だ!とも思います

医療関係者のこのような漠然とした命の線引きは当たり前なのでしょうか?
なんか普段の不満も八つ当たり的に発散してしまってますが(笑)

先生の忌憚のない意見をお聞きしたい次第です。


by うさぎおやじ (2013-07-25 10:40) 

fujiki

うさぎおやじさんへ
心臓由来の塞栓症の予防には、
ワルファリンやプラザキサ、イグザレルト、エリキュースが、第一選択になります。
抗血小板剤が完全に無効ということはありませんが、
その効果は限定的で、
弱いにせよ明確な効果が確認されているのは、
アスピリンのみです。

ただ、
抗血小板剤と比較すると、
ワルファリンのような抗凝固剤では、
出血の合併症のリスクは、
概ね2倍以上には上昇します。

従って、
脳梗塞の発症予防という観点から考えると、
ワルファリンやイグザレルトの使用が、
薬剤師の方が言われるように正しいのですが、
94歳というご年齢で考えると、
合併症のリスクや、
内臓機能の低下によるリスクも、
それだけ増加していると考えられるので、
天秤に掛けた時にどちらが重いか、
というと非常に微妙な判断になります。

個人的には特に継続の使用の場合、
90歳を超えていても、
年齢に関わりなく、
ワルファリンは使用することがありますが、
新規の抗凝固剤については、
臨床試験も高齢の方には殆ど行なわれていない、
という点を考えると、
リスクが高いと考え、
新規の使用はしていません。

抗血小板剤の2剤の併用は、
個人的にはあまり相乗効果がなく、
出血のリスクは高まるので、
心筋梗塞後など特定の事例を除いては、
行なわない方針としています。

本来ワルファリンを変更時に、
もっとその理由について、
しっかりしたご説明が、
あるべきだったと思いますし、
継続するのも1つの選択肢であったと思いますが、
現時点では抗凝固剤への変更はリスクが高いように思いますので、
現状のままもしくはアスピリン単独で、
経過を見て頂くのが良いように、
個人的には思います。

ご年齢についてはご指摘の通りで、
ガイドラインはすべて、
その時の年齢で治療を始める場合のみが書かれていて、
時間を継続してその患者さんを縦に見る視点がないので、
こうした問題が生じるのだと思います。

75歳以上は慎重投与、
という記載や、
80歳以上では効果よりリスクの方が高まる、
というような記載があるのですが、
それでは74歳の方がその治療を開始したら、
75歳になった瞬間に中止するのか、
というような問題が生じます。
そうした疑問に対する答えは、
何処にも書かれてはいません。

この点については、
またブログ記事でも取り上げたいと思います。
by fujiki (2013-07-26 08:38) 

うさぎおやじ

丁寧で非常に分かりやすい回答をありがとうございます。
先生に診て貰える患者さんがとても羨ましく思えます。
分からない事、疑問を持ったままの介護は非常にストレスになります。
これですっきりして前に進めます。

ありがとうございました。

by うさぎおやじ (2013-07-26 12:52) 

おばちゃんねーさん

母が心原性の脳幹梗塞になり植物状態となり2年になります。
倒れる前はワーファリンを飲んでいましたが鼻血がでるなどすると量を減らすようかかりつけ医に言われてました。
倒れた後の急性期の病院ではプラザキサを鼻から経管で先生の指示で入れてましたが、転院先の病院では何故鼻から入れたのか経管で入れるものではないのに!と
家族の私が叱られました。
その病院の先生は、又脳梗塞は再発するかもしれないし再発してもどうせ寝たきりにかわりないので薬は要らない!と仰いましたが、結局ワーファリンを出すと言われ、
そして次の次の転院先からはイグザレルトとなり、その後の病院からはワーファリンに戻りました。
病院によっては新薬が用意がないなど色々ですが、素人ながらもその時その時の転院前や現在の母の腎臓や肝臓の検査結果など転院先の先生に伝えながら先生の説明がある都度
薬の事を色々見てみたり…
私も先生に聞いてみたいです。
84歳、脳幹梗塞により遷延性意識障害、心房細動あり、慢性心不全、腎機能障害、腎機能障害、低アルブミン血症、貧血
以前肺炎、尿路感染もあります
これだけでは判断できないと思いますが、ざっと見た感じ先生ならどんなお薬使いますか?
宜しくお願いします。


by おばちゃんねーさん (2015-03-05 02:06) 

fujiki

おばちゃんねーさんさんへ
もし現在何も抗凝固剤を使用されていないのであれば、
そのまま未使用で良いように個人的には思います。
抗凝固剤を使用する目的は、
脳塞栓の再発の予防ですが、
お母様が植物状態であるとすれば、
再発によって脳の機能が更に低下するリスクより、
抗凝固剤の使用によって、
胃や脳などの出血が遷延するようなリスクの方が、
より重要に思えるからです。
腎機能低下があると、
どの薬を使用するにしても、
出血のリスクはより高くなります。
薬を1つ選択するとすれば、
エリキュースの低用量で、
これは鼻胃管からの注入も可だと思います。
ただ、80歳以上の安全性は確認されていません。
また一定レベル以上腎機能が低下している場合には、
使用は出来ません。
ワーファリンを現在使用されているとすると、
そのまま量は調節しながら、
効き過ぎないようにして、
継続する方が良いように思います。
その理由はワーファリンの中断時に、
血栓塞栓症の起こるリスクが、
非常に高まるからです。
by fujiki (2015-03-05 08:33) 

おばちゃんねーさん

先生ありがとうがざいます。今はワーファリン1㎎です。
転院先によって又変わるかもですけど。
倒れた時に良くて植物状態と言われてショック極まり無かったですが、テレビや映画などで見る自分が想像していた植物状態とは違って少し驚いたのを覚えています。
急性期にいる間も意識ないので解ってないし動くのは反射?ですよ
と言われてましたが、何故体が動きづらいのか目も開かないのか一体どうなっているのか、倒れてからの経緯などずっと母に耳元で説明しとにかくしっかり息を続けるよう話てたのですが、後に転院前どこの病院にいるかと倒れた事話解る聞こえていたと頷き、倒れた際の事は記憶が無いと記憶が無いと首を振り、リハビリをお願いして、
又一緒に教わり母とリハビリを続け2年経ちましたが
目は開かないですが字を書いてみたり(字を忘れてるので字を覚える練習からしてます)
ジャンケン、手遊び、日常の動作(ブラッシングや箸使い、体にてんかふんを塗ったり)起きてる時はします。
これからも一緒に頑張っていきます。
ボチボチゆっくりでも母と居れるのが幸せです。
又ブログで質問あれば宜しくお願いします。
本当にありがとうございました。
先生みたいな先生大好きです! 笑
by おばちゃんねーさん (2015-03-05 16:04) 

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