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睡眠導入剤の使用とそのリスクについて考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今週の木曜日(4日)は、
石原が整形外科受診のため、
午後の診察は4時にて終了になります。
ご迷惑をお掛けしますが、
ご了承下さい。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
眠剤の副作用論文.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
睡眠導入剤のリスクについての文献です。

睡眠薬の乱用ということが、
メディアでも報道されることがあります。

睡眠導入剤はアメリカにおいても、
2010年の時点で成人の6~10%が使用していると言われ、
ヨーロッパの一部ではよりその比率が高いことが想定されると、
上記の文献のイントロでは書かれているくらいですから、
この「乱用」という表現は、
決して日本に限った現象ではない、
ということが分かります。

不眠というのは、
人間にとって古くから大きな問題であり、
確実に効果のある睡眠導入剤の開発は、
多くの患者さんにとって福音でした。
ただ、以前の睡眠剤は量を間違えると呼吸が抑制されるという、
大きな危険のある薬で、
そのため現在では主に麻酔薬としてしか、
使用がされていません。

それに代わって、
現在主に使用されているのが、
ベンゾジアゼピン系と呼ばれるタイプの、
睡眠導入剤です。

このタイプの薬は、
その安全域が広く、
以前の薬に比べて、
呼吸抑制などの副作用が、
格段に少ないのが特徴です。

問題となるのは依存症です。
この薬を長期間継続して使用すると、
次第に効果が減弱することがあり、
そのためにその量が増加し易くなります。
また、急に使用を中断すると、
却って不眠が強くなるような、
離脱症状が出現し、
中止が困難となることがあります。

そのため、
こうした睡眠導入剤の使用は、
最低限の期間に留めることと、
依存を形成し難い、
長期作用型の薬を、
離脱の際には用いて徐々に減量を図る、
などの対策が取られています。

しかし、
それ以外の問題として、
睡眠導入剤を使用している患者さんでは、
そうでない方に比較して、
生命予後が良くないのではないか、
ということを示唆するデータや、
癌が多いのではないか、
ということを示唆するデータが、
複数存在しています。

ただ、
非常に難しい問題は、
睡眠剤を長期間、
特に用量も多く使用している患者さんは、
過度のストレスに晒されていたり、
他に身体疾患を持っていたり、
精神疾患を併発していたりするケースが、
多く存在している可能性が高い、
ということです。

つまり、
仮に睡眠剤を使用している患者さんの方が、
そうでない患者さんより死亡リスクが高い、
という統計結果が出たとしても、
それが睡眠剤自体による悪影響であるのか、
患者さんのそれ以外の背景因子によるものであるのかを、
明確に分けることは、
実際には困難と考えられるのです。

不眠症の患者さんはうつ病を併発することが多い、
とされています。

この点についても、
色々な見解があり、
うつ病自体が不眠の原因になる一方、
睡眠剤の使用が、
うつ状態を惹起するのでは、
というような見解もあります。
また不眠自体がストレスですから、
その持続によりうつ症状が生じても、
これもおかしくはありません。

いずれにしても、
国内外を問わず、
睡眠導入剤は非常に広く処方されていて、
そうした患者さんの中には、
精神的に不安定なケースも多いので、
安易に「睡眠剤が死亡リスクを高める」のような発言は、
その根拠が余程確実でない限り、
使用するべきではないように、
僕は思います。

それでは、
今回のデータは、
その検証に耐えるものでしょうか?

今回の研究はアメリカの有名な医療グループである、
Geisinger Health Systemの患者記録
(この医療グループは先進のIT活用で知られています)
を活用して、
2002年から2006年に掛けて1回でも睡眠剤の処方を行なった、
トータル12529名の患者さんの予後を解析し、
睡眠剤の使用とその後の生命予後と癌の発症との関連性を、
同じ医療記録上の睡眠剤未使用の患者さん、
23676名と比較して、
検証しています。

アメリカにおいては、
短期作用型の睡眠導入剤が、
より安全性の高いものとして使用されていて、
睡眠剤全体のシェアでは、
1位がゾルピデム(商品名マイスリー)で、
2位は日本未発売のテマゼパムです。

今回のデータはこの2種の薬剤の使用者が、
患者さんの多数を占めています。
その結果として、
使用した薬剤の量に伴う形で、
トータルな死亡リスクと、
癌の発症リスクは増加していました。

ちょっと驚くべきことに、
統計的な有意差は、
年間18錠未満しか、
薬剤を使用しなかった患者さんでも見られています。

このデータをそのまま鵜呑みにすれば、
1年間に10数回の使用であっても、
睡眠導入剤はその後の患者さんの死亡リスクに影響を与える、
という結果になります。

しかし、
そんなことが果たして有り得るでしょうか?

僕は正直疑問に思います。

この研究の一番の問題点は、
Geisinger Health Systemの本拠地であるペンシルヴァニアでは、
うつ病などの気分障碍の情報が、
人権保護のため、
州法によって開示されないことになっているので、
そうした情報は全く反映されていない、
ということにあります。

うつ病の患者さんが、
うつの治療をおろそかにして、
睡眠剤に頼った生活を送っているとすれば、
その患者さんの予後が、
悪いものになっても不思議はありません。

つまり、
睡眠剤の有害事象を検証するのであれば、
こうした精神的な背景の情報は不可欠で、
それなしでのこうした検討は、
あまり意味のないようなものに思われるのです。

従って、
この問題に関しては、
更なる検証が必要だと思いますし、
現在睡眠導入剤を使用されている患者さんは、
勿論その使用は必要最小限にとどめるべきですが、
急な中止は却って体調に悪い影響を与えることも多く、
主治医の先生とよくご相談の上、
将来的な中止のタイミングを見据えながら、
現実的に対応して頂くのが最良のように、
僕は考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 6

さそり君

えっ!そうなんですか?
僕は寝つきが悪いときにレンドルミン0.25mgとかマイスリー5mgとか良くのんでますよ。
ウツでは無いと思うんですがストレスが溜まってるのは確かですね。
なるべく飲まないようにしよう。
by さそり君 (2012-10-02 18:59) 

☆ acco ☆

先週の今日退院して来ました!

入院中は眠りが浅く、
2時間おきに頓服を
飲んでいましたが、
今は良く休める様になったので、
そろそろお薬を減らしても良いか
主治医に相談してみます。

因みに、
今飲んでいる寝る前のお薬は
デパケンR200㎎×1錠
セロクエル25㎎×3錠
ベンザリン5㎎×1錠
マイスリー5㎎×2錠
ロヒプノール1㎎×1錠 です。

書き出してみると多いですね・・・

末筆ですが、先生もお大事に☆

by ☆ acco ☆ (2012-10-02 19:39) 

shiharu

睡眠薬でガンのリスクが増えるというのは初めて聞きました。
どのような作用機序が推測されるのでしょうか?もう20年以上飲み続けているのでさすがに不安になりました。
by shiharu (2012-10-02 23:57) 

fujiki

さそり君さんへ
コメントありがとうございます。
このデータは確定したものではないので、
あまり気にされないようにお願いします。
お薬は無理なく減量出来れば、
良いと思います。
by fujiki (2012-10-03 08:30) 

fujiki

acco さんへ
ご退院良かったですね。
先生とよくご相談の上、
無理のない減量をお願いします。
あせらずに良くしていって下さい。
気温もまだ変動が多いので、
体調にはくれぐれもご注意下さいね。
by fujiki (2012-10-03 08:33) 

fujiki

shiharu さんへ
コメントありがとうございます。
メカニズムについては明確な説明はありません。
上記の論文には、
マイスリーは胃食道逆流症を惹起し易いので、
それによる発癌が起こり易いのでは、
と書かれていますが、
個別の癌の検証がされている訳ではなく、
その説明は説得力はないと思います。
このデータは、
現時点ではあまりご信用をされる必要はないように、
僕は思います。
by fujiki (2012-10-03 08:36) 

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