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鶴屋南北「桜姫東文章」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

診療所は8月16日まで休診です。
ご迷惑をお掛けしますが、
ご了承下さい。

昨日山道を滑り落ちて左腕を負傷し、
骨折かもしれません。
明日は病院には行かないとならず、
診療もあるのでどうしたら良いのか、
頭を抱えているところです。
左手は使えないので、
ブログの更新も、
しばらく止まるかも知れません。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
演舞場8月桜姫.jpg
新橋演舞場に、
8月の歌舞伎公演を観に行きました。

演目は昼の部が「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」の通し、
夜の部が「伊達の十役」の通しで、
これは両作とも幕末に活躍した四世鶴屋南北の作品です。

ただし、
「桜姫東文章」は台本が残っていますが、
現行上演されているものは、
戦後になってダイジェストされた、
原作とはかなり趣の違う点のあるものですし、
「伊達の十役」に至っては台本は現存せず、
先代猿之助がその趣向のみを踏襲して、
擬古典として再生したものです。

南北の作品は、
結構台本の残っているものもあるのですが、
ある程度昔からの演出の残っているのは、
「東海道四谷怪談」以外には、
「時桔梗出世請状(ときもききょうしゅっせのうけじょう)」
など数作品しかなく、
それも極一部の場面の演出が伝わっているだけです。

それが今回の昼の部に上演された、
「桜姫東文章」の昭和34年の復活上演や、
その後の昭和41年の国立劇場開場以降、
多くの埋もれた南北作品が、
かなり整理された形で次々と復活上演され、
勿論1回の上演で再度埋れたものも多くありますが、
今になるまで上演を重ねる、
歌舞伎の人気作となったものも幾つかあるのです。

その代表は再改訂された「桜姫東文章」と、
「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」です。

この2作品とも非常な好評となり、
再演を重ねて今日に至りますが、
正直最近の上演は、
あまり充実した舞台成果とは、
なっていないように思います。

その最大の原因は、
この2つの作品の好評が、
当時出演した玉三郎と片岡孝夫(現仁左衛門)の、
技芸とスター性に負うところが大であったからで、
彼らがこの作品に出演しなくなると共に、
その魅力はその多くが失われ、
キャストを代えた再演では、
台本の不自然さばかりが目立つ格好になりました。

元々南北の作品は、
それまでの先行歌舞伎作品の多くの趣向を、
工夫を凝らして1つに練り上げ、
彼独特のひねくれた仕掛けを、
随所に施したような性質のものです。

つまり、
先行作品に対する知識がないと、
その魅力を十全には味わえず、
現行使用されている台本は、
キャストに合わせて、
複雑で長大な作品のうち、
極一部をダイジェストにしたものなので、
キャストが変われば、
台本自体も手を入れる必要があるのです。

「桜姫東文章」は、
桜姫というお姫様が、
たった一度レイプされた、
ならず者のことが忘れられずに、
ならず者と同じ刺青を身体に彫り、
罪悪感からか一旦は美男子の高僧の導きで、
出家しようとするのですが、
その髪を下ろす当日に、
再びそのならず者に出会って身体を預け、
その罪を高僧になすりつけて、
ならず者と逐電する、
というビックリの話です。

高僧と桜姫には前世の因縁があり、
破戒坊主として非人に墜ちた高僧は、
ストーカーのように桜姫を付け狙い、
毒を盛られて殺された後は、
亡霊として取り憑きます。

桜姫は女郎に身を落とすのですが、
生まれ付いてのお姫様言葉が抜けず、
女郎の言葉とのちゃんぽんで台詞を言います。
現われた高僧の亡霊を、
そのちゃんぽんの珍妙な台詞で、
罵倒するのが聴き所で、
しかも演出によっては、
高僧とならず者とを、
1人の役者が演じるのです。

ならず者と高僧を、
1人で演じる面白さと、
刺青のあるお姫様が、
女郎とお姫様言葉を、
ちゃんぽんにして台詞をしゃべる面白さが、
この作品の得難い魅力です。

今回の上演では、
桜姫を中村福助が演じ、
高僧を愛之助が、
ならず者を海老蔵が演じています。

福助は魅力のある女方ですが、
基本的に正攻法とは言い難く、
特に最近は体型がぽっちゃりして、
立ち姿にシャープな感じは希薄です。

玉三郎にはない魅力もあるのですが、
どうしても桜姫のような役では、
清楚な感じがないので、
女郎に墜ちるという落差に乏しいのです。

男役は本当は2役でないと面白味が薄いのですが、
今回は海老蔵も愛之助も初役なので、
様子見のような舞台になったのだと思います。

海老蔵も愛之助も、
それなりに悪くはなかったのですが、
必ずしも彼らの魅力が、
十全に発揮された舞台とは言い難く、
この作品の現行の台本は、
新作と言ってもそう間違いのない、
原作のつまみ食い的なダイジェストなので、
むしろ役者に合わせたもっと思い切った改訂が、
あっても良かったように僕は思いました。

今回この作品が初見で、
「桜姫東文章」が面白い芝居と感じた方は、
多分ごく少数だと思います。

それでは矢張りまずいので、
新たなキャストに合わせて、
作品自体を再度蘇生する努力が、
もっと必要なのではないでしょうか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 11

キウイ

お大事に。
by キウイ (2012-08-16 09:39) 

末尾ルコ(アルベール)

お怪我が軽ければよいのですが…。

                      RUKO
by 末尾ルコ(アルベール) (2012-08-16 10:52) 

おでこ

お怪我が軽いことを。
なかなか休めないお仕事、どうぞご自愛ください。
by おでこ (2012-08-16 12:24) 

akanenosora

骨折でない事を願っていますが、お大事になさってください。
by akanenosora (2012-08-16 16:28) 

fujiki

皆さんへ
お気遣いありがとうございます。
骨折でした。
1カ月は左腕は固定しないと駄目なようです。
by fujiki (2012-08-16 19:47) 

rtfk

お大事になさって下さい
釈迦に説法でもありませんが
ブログはマイペースにて・・・(^w^)
by rtfk (2012-08-16 21:56) 

kaya

石原先生

いつもブログ参考にさせて頂いてます。
趣味の話題も、とても楽しく読ませて頂いてます。

少しでも早い快復を、待ち遠しく思います。

お大事になさって下さい。
by kaya (2012-08-16 22:51) 

minK

暑い時期の骨折・・・・お大事になさって下さいね、

かゆいですね(TへT)
by minK (2012-08-17 10:35) 

マツ

いつも為になるブログを拝見させて頂いております。

お怪我の程はいかがでしょうか?
ご無理なさらずに、お大事になさって下さいね。
by マツ (2012-08-17 11:56) 

タニミク

いつもブログ拝読しています。ありがとうございます。
どうぞ、ご無理のないよう、お大事になさって下さい。早く良くなりますように!
by タニミク (2012-08-17 13:06) 

いっぷく

大変ですね
私も自転車を引っ張っていて
バランスを崩して転んだだときに
手のひらで受身を取ったため舟状骨骨折で
利き腕のほうを40日ギプスしたことがあります。
災難はいつどこであうかわかりませんね。

by いっぷく (2012-08-17 15:55) 

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