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ビタミンDの骨折予防効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ビタミンDの効果論文.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
ビタミンDの骨折予防効果についての論文です。

ビタミンDは骨の代謝に必須のビタミンで、
その欠乏は骨軟化症やくる病という、
骨が正常に育たない病気になることからも、
その生理的な意義は明らかです。

このビタミンDは腎臓で活性化されるので、
腎不全のような状態になると、
ビタミンDを摂っていても、
それが活性化されないので、
ビタミンDの欠乏のような症状が起こります。

このため、
活性型のビタミンD自体が、
薬剤として使用され、
そうした場合には、
その有用性が確認されています。

ただ…

日本と欧米では、
ビタミンDの薬としての使用には、
大きな違いがあります。

食事から摂るタイプのビタミンDを、
25水酸化ビタミンDと呼んでいますが、
欧米ではこのタイプのビタミンDが、
サプリメントとして広く普及していて、
薬としての活性型ビタミンDは、
特殊な用途のみに使用されているのに対して、
日本においては、
骨粗鬆症の予防などの目的で、
25水酸化ビタミンDではなく、
活性型ビタミンDを、
薬として処方することが一般化しています。

欧米では、
ビタミンDはサプリメントとして摂るもので、
ビタミンDが不足しているからといって、
すぐに活性型ビタミンDを使用する、
というような発想はないのです。

最近日本ではエルデカルシトール(商品名エディロール)
という活性型ビタミンDの作用を強化した、
という触れ込みの薬が、
骨粗鬆症の予防及び治療薬として、
盛んに宣伝されていますが、
この薬は海外では殆ど使用されていません。

製薬会社の説明によれば、
その効果は骨粗鬆症の世界的な基礎薬である、
ビスフォスフォネートと有意差のないレベルだ、
ということですから、
仮にそれが事実であれば、
色々と制約や有害事象のあるビスフォスフォネートより、
エルデカルシトールの方が、
格段に優れていることになり、
世界中からも評価され、
次々と引き合いが来なければ、
おかしいのではないか、
と思えます。

しかし、
実際には現時点でそうした話はないようです。
欧米の一般的な考え方からすれば、
多少改良したからと言っても、
ビタミンDは所詮ビタミンDであり、
サプリメントで摂れば、
それで充分なものだからです。

そして、
その際には活性型ビタミンDではなく、
食品に含まれるのと同じ、
25水酸化ビタミンDで、
充分という考え方なのです。

ところが…

欧米においては、
このサプリメントとしてのビタミンDの効果が、
近年問題になっています。

多くの大規模な臨床試験が行なわれましたが、
骨折予防効果がある、
という結果のある一方で、
全く効果はない、
という結果もあって、
その結果は一定しません。

そこで、
アメリカの政府機関は、
閉経後女性の骨粗鬆症予防のための、
ビタミンDの使用を推奨しない、
という決定を検討しています。

今回の研究は、
これまでの臨床研究における、
のべ30000人を超えるデータを解析したもので、
それによると、
トータルにはビタミンDの骨折予防効果は有意ではないものの、
その用量が平均800IUという比較的高用量のみを解析すると、
寝たきりの原因となることの多い、
大腿骨頚部骨折の頻度を3割程度低下させる、
という結果が得られました。

同時に血液の25水酸化ビタミンD濃度を解析すると、
その骨折予防効果は、
血液濃度が60nmol/lをを超えないと、
成り立たない、
という結果も得られています。

従って、
今回の結果からは、
閉経後の骨粗鬆症による骨折の予防のためには、
血液の25水酸化ビタミンDの濃度が、
60nmol/lを超えるように、
1日800IU以上のビタミンDのサプリメントが、
必要な可能性が高い、
という結論が示唆されます。

ただ、僕はこの結果にはやや異論があります。

こちらをご覧下さい。
25(OH)Dと年齢.jpg
これは僕が以前に自分で取ったデータですが、
年齢と血液中の25水酸化ビタミンDの濃度との、
関係性を見たものです。

多くの海外のデータでは、
年齢と25水酸化ビタミンDの濃度には、
年齢と共にビタミンDが低下する、
という相関関係がありますが、
僕のデータではそうした傾向は認められません。

今日はお示ししませんが、
これが活性化ビタミンDの濃度で、
同様の検討を行なうと、
こちらはしっかり年齢と共に低下しています。

文献に書かれている、
25水酸化ビタミンDの60nmol/lという濃度は、
ng/mlに直すと、
24くらいの数字になります。

つまり、
この図の24を超えるように、
ビタミンDを使用するのが良い、
ということになる訳です。

僕は自分のデータを信用したいので、
日本人においてはビタミンDの血液濃度にはバラつきが大きく、
これを同じように指標にすることは、
意味がないのではないかと思います。

ビタミンDは、
日本では活性型ビタミンDが、
薬として使用され過ぎて、
25水酸化ビタミンDは無視され過ぎ、
逆に欧米では25水酸化ビタミンDのみが重用されている、
というアンバランスがあります。

ビタミンDは活性型の少量でも、
副甲状腺ホルモンを抑制するなど、
非常に興味深い作用が多く、
大雑把に使用するのではなく、
個々のカルシウム代謝を含めた病態により、
きめ細かい処方を行なえば、
もっと患者さんのためになる薬剤であると、
僕には思えますし、
そうした検討を、
今後も僕なりに続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

Licca

ビタミンD不足には日光浴!
なんて時代遅れなんでしょうか。

皮膚がんにならない程度に日光を浴びるのは、
気分も晴れて、良いように思うのですが。
by Licca (2012-07-18 15:28) 

fujiki

Liccaさんへ
コメントありがとうございます。
記事では触れませんでしたが、
勿論皮膚で紫外線の働きで合成される、
ビタミンDも勿論重要です。
by fujiki (2012-07-19 08:30) 

博多んもん

いつも興味深く読ませてもらってます。
ちょっと前にビタミンEが骨粗鬆症を引き起こすメカニズムについて、慶応大学医学部の研究グループがラットを用いた試験で解明していました。動物実験をそのまま人間に当てはめるのは問題ですが、もしこの作用が人体で起きているとすればちょっと怖いなと思いました。同時に抗酸化ビタミンとしてメジャーな存在なVEにこのような作用があることに驚きました。
既に先生がこの論文についてコメントされていましたらすみません。
by 博多んもん (2012-07-21 23:12) 

fujiki

博多んもんさんへ
貴重な情報ありがとうございます。
ビタミンEは最近色々な意味で、
サプリメントとしても、
旗色が悪いようです。
ただ、逆に言えば有効性のあることの、
裏返しかも知れません。
by fujiki (2012-07-23 09:02) 

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