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インフルエンザ迅速診断の感受性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からみぞれ交じりの雨で、
とても3月10日とは思えません。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザ迅速試験の精度論文.jpg
先月のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
インフルエンザ迅速診断の検査としての精度についての、
これまでの研究をまとめたレビューです。
昨日の抗インフルエンザ剤のレビューの、
姉妹編的な文献です。

インフルエンザの迅速診断というのは、
皆さんも良くご存じの、
お鼻の奥に綿棒を暴力的に突っ込んだり、
鼻水を吸引したり、
かんだ鼻水を取ったりして行なう、
その場で10分から15分程度で結果の出る、
インフルエンザの診断のための検査です。

この検査は臨床の現場で、
何処でも簡単に施行出来るという点が最大のメリットで、
この検査の導入と、
タミフルとリレンザを始めとする、
抗インフルエンザ剤の使用により、
インフルエンザの診断と治療は、
多くの問題はまだ残ってはいるものの、
格段の進歩を遂げたことは間違いがありません。

しかし、
その一方でインフルエンザの迅速診断を巡っては、
幾つかの誤解と混乱とがあることも事実です。

迅速診断のキットには多くの種類があり、
その測定法も、
原理はそう大きくは変わりませんが、
使い易さや感度には、
かなりの差があることは、
経験的には間違いのないことだと思います。

実際以前に一度記事にしましたが、
全く同じ方に同時に複数のキットで、、
全く同じ手技で検体を採取して検査を行なっても、
あるキットでは陽性に出て、
別のキットでは陰性になる、
ということが事実として存在します。

また、2009年の所謂新型インフルエンザの流行時には、
何度も迅速診断を行なって陰性になり、
死後の遺伝子検査で初めてその感染が確認された、
という死亡事例が複数報告されました。

つまり、
この検査は患者さんの体質や、
その感染したインフルエンザの型によっても、
その感度には違いのある可能性があり、
その違いを説明する、
明確な物差しはまだ見付かっていません。

その一方でこの検査が陰性であることが、
登校や出社の条件のように見做されることがあり、
医療者が明らかに不要と判断出来るようなケースでも、
患者さんやその周辺が、
強く検査を希望されるようなケースもあります。

当面の臨床上の疑問は、
この迅速診断のキットの性能はどの程度のもので、
それはキットの種類によりどの程度の違いのあるものなのか、
また、
患者さんの体質や年齢、
インフルエンザウイルスの種類や性質によって、
その感度や特異度は、
どの程度の影響を受けるのか、
という点などにあります。

今回の文献は、
26種類の迅速診断キットの、
158種類に及ぶ臨床研究をまとめて解析し、
そうした疑問に一定の解答を提示してくれるものです。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

トータルで解析すると、
迅速診断の感度は62.3%で、
特異度は98.2%です。
つまり、
インフルエンザの感染があっても、
迅速診断で陽性になるのはそのうちの6割強に留まります。
しかし、一旦陽性反応が確認された場合には、
その殆どはインフルエンザの感染と判断して、
ほぼ間違いはありません。

陽性は当てになるけれど、
陰性は当てにならない。

これが迅速診断を考える上での、
1つのポイントです。

キットの陽性率はまちまちで、
必ずしも一定の傾向がありませんが、
一般に成人は感度が低く、
子供は感度が高い、という傾向があります。
トータルで見ると、
大人の感度は53.9%で、
子供は66.6%です。

また、A型インフルエンザの感度は64.6%なのに対して、
B型インフルエンザは52.2%で、
インフルエンザのタイプによっても、
陽性率には差のあることが分かります。

子供とA型は出易く、
大人とB型は出難い。

これがもう1つのポイントです。

ただ、一時期言われた「新型インフルエンザは陽性になり難い」
という見解については、
確かにそうした傾向を指摘した報告はあるものの、
データをトータルに解析すると、
必ずしも明確にそうした差は認められない、
という結論になっています。

迅速診断が陽性になるのは、
ある程度のウイルス量が存在する時、
というように考えられますから、
発熱などの症状が出現してから、
どのくらいの期間で陽性になり、
それがどのくらいの期間でまた陰性になるのか、
という点も問題となります。

おおまかに言って、
症状出現後24時間の陽性率は低く、
1日以降は高くなり、
5日以降くらいで陽性率は減少します。
ただ、これも結構報告によってデータは異なり、
検体の取り方やその手技の差、
キットの種類によっても、
実際にはかなりのばらつきがあると思われます。

しかし、
複数のキットを直接比較したような研究は、
信頼のおけるデータとしては、
殆ど存在せず、
文献からそうした点を判断することは、
非常に困難です。
また、検体は鼻水や咽喉からの採取よりも、
鼻水の吸引や鼻の奥の粘膜からの採取が、
より感度は良いものと考えられますが、
そうしたデータも、
幾つかはあっても、
トータルな解析で、
有意差の出るようなものではありません。

ここまでが上記の文献に書かれている内容の、
僕なりのまとめです。

個人的な臨床の経験からは、
感度が6割からせいぜい7割というのは、
少し低過ぎると思います。

問題は患者さんの年齢や発熱などの症状、
咽頭後壁の発赤の所見等から、
検査の適切なタイミングを判断することと、
必ず先端が咽頭の後壁に当たる位置まで、
綿棒を深く挿入して、
粘膜を擦過するようにして、
検体を採取することです。

ただし、
上記の文献にもあるように、
お子さんで発熱から24時間が経過している時期で、
症状も強ければ、
咽頭からの検体や、
鼻水での検査でも、
陽性率は高くなるので、
鼻腔からの検査に、
その場合は拘りません。

発症後12時間以内は陽性にはならない、
と断言して、
初期には検査をされないような医療者もいますが、
データからは発熱後6時間でも、
キットによっては3割以上の陽性率はあり、
完全にそうと決めて掛かるのは誤りだと思います。

キットには確実に感度の差があるので、
感度の良いキットを選択する必要があります。
メーカー主導の臨床試験の結果は、
ほぼ間違いなく当てにならないので、
そうしたデータは信用することなく、
実際に検査を重ねて確認するしかありません。

それでは今日のまとめです。

インフルエンザの迅速診断の検査は、
陽性に出た場合には、
ほぼ間違いなくインフルエンザと診断が可能な、
その意味では非常に有用性の高い検査です。
ただし、陰性の場合には、
必ずしもインフルエンザを否定出来るものではない、
という点に注意が必要です。
インフルエンザであるのに、
検査が陰性になるのは、
お子さんより大人、特に高齢者で多く、
発熱より24時間以内や5日後以降に多く、
A型インフルエンザよりB型インフルエンザに多い、
という特徴があります。

また、キットの感度や検体採取の手技にも、
大きく影響を受ける事項です。

従って、偽陰性に成り易い条件下では、
よりその手技や検査のタイミングに注意を払うと共に、
迅速診断が陰性であることをもって、
インフルエンザでないと即断することのないように、
慎重に判断することが必要です。

本来はそうしたケースで、
重症化の予想される事例では、
速やかに遺伝子診断が、
可能な医療体制が望ましいと思いますが、
実際には日本では、
極少数の事例しか、
そうした対応は取られていないのが実状だと思います。

今日はインフルエンザ迅速診断の感度について、
最新の文献から考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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