SSブログ

ヨード造影剤の使用による甲状腺機能異常について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ヨード造影剤被爆と甲状腺機能異常論文.jpg
先月のArch Intern Med.誌に掲載された、
ヨード造影剤の使用による、
甲状腺機能異常についての文献です。

ちょっとびっくりの報告なのですが、
これが本当に事実なのかどうかは、
データの取り方にもやや問題があり、
今後の追試を待たないと何とも言えない、
と思います。

心臓のカテーテル検査などの血管造影の検査や、
血管に薬を入れて撮影する、
造影CTの検査などでは、
大量のヨードを含む造影剤が使用されます。

これは放射性ヨードではありませんが、
ヨードであることには間違いがなく、
一時的には甲状腺はヨードで飽和状態となり、
一種のヨードブロックと同じ状態になります。

甲状腺に取り込まれた以外のヨードは、
速やかに体外に排泄されますから、
通常は大きな問題にはならない筈です。

大量のヨードは、
それ自体が甲状腺のホルモン合成を抑えるので、
一時的には甲状腺機能は低下しますが、
その効果は通常は一時的なものだからです。

ただし、
バセドウ病のような、
甲状腺機能亢進症のある方では、
大量のヨードが強制的に取り込まれることにより、
甲状腺機能の亢進症状が、
悪化することが想定されます。

また、橋本病のような慢性の甲状腺炎のある患者さんでは、
甲状腺のホルモン産生工場の、
配管に水漏れのあるような状態なので、
大量のヨードが入ることにより、
通常より機能低下の状態は遷延します。

しかし、大量のヨードの曝露は、
あくまで1回きりなのですから、
数週間からせいぜい2~3ヶ月の経過の中で、
多くの場合甲状腺機能は、
ヨード曝露前の状態に戻ると想定されます。

従って、
甲状腺のご病気をお持ちの方でも、
治療により甲状腺の機能が安定した状態にあれば、
必ずしも造影検査の禁忌にはなりません。

ただ、大量のヨード剤の使用が、
たとえ1回限りの使用ではあっても、
その後の甲状腺機能にある程度持続的な影響を与えるのでは、
という考え自体は以前よりあり、
その点についての実証的なデータは、
実際には殆ど存在しませんでした。

そこで今回の研究では、
非常に多数の患者さんにおいて、
診断や治療目的で受けた造影検査と、
その後に発症した、
甲状腺の機能異常との間に、
関連性があるかどうかを見ています。

アメリカの特定の総合病院で治療を受けた、
全患者さんのデータベースを活用し、
ある時点で甲状腺の病気がなく、
甲状腺機能の指標である、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値が、
正常範囲にある患者さんの中で、
その後に甲状腺の機能異常が見付かった患者さんをピックアップし、
その機能異常と、
患者さんの受けた造影検査との、
関連性を統計的に検証しています。

その結果…

造影検査を受けた後に、
甲状腺機能亢進症になるリスクは、
1.98倍と有意に上昇が認められました。

その一方で、
甲状腺機能低下症については、
トータルには有意なリスクの上昇はありませんでしたが、
TSHが10を超える、
顕性の甲状腺機能低下症のみで解析すると、
そのリスクは3.05倍で、
統計的に有意と判定されました。

これは特定の患者さんを、
時系列で追ったものではないので、
その信頼性にはやや疑問の残るところがあります。

大量のヨードが身体に入った後、
一過性に甲状腺の機能異常が生じることは、
想定可能なことですが、
この文献で言われているのは、
造影検査後に、
治療を要するような、
一過性ではない甲状腺の機能異常が発症している、
ということなので、
仮にそれが事実であれば、
非常に深刻な問題です。

ただ、この研究では、
個々の事例において、
造影検査からどのくらいの期間を置いて、
甲状腺の機能異常が出現しているのか、
という時系列は明らかでないので、
放射性ヨードや手術を要するような、
甲状腺機能亢進症が、
勿論一過性のものではないのは、
間違いのないことですが、
事例の中には本当に一過性の、
造影後数週間以内の事例が相当数あり、
それを除外すると、
有意差がなくなる、
というような可能性もないとは言えません。

また、基本的にはTSHの数値のみで、
振り分けを行ない、
事例の詳細は明らかでないので、
本当に事前には甲状腺に問題がなかったのか、
と言う点についても、
厳密には明らかではありません。

全例ではありませんが、
甲状腺の自己抗体は測定をしていて、
その陽性者が造影後の機能異常には多かった、
というデータも提示されていますが、
明瞭な差ではなく、
自己抗体陽性者で、
造影検査のリスクが高い、
とまでは言えません。

今回のデータを、
重要視し過ぎることは、
現時点では適切ではないと思います。

ただ、非常に興味深いデータではあり、
ヨードを大量に含む造影検査を受けた方は、
甲状腺のご病気をお持ちではなくても、
その後の甲状腺機能の推移に、
一定の注意を払う必要があるのではないかと、
現時点では僕は思いますし、
今後のデータの蓄積とその検証とを、
期待したいと思います。

今日はヨード造影剤の使用と、
その後の甲状腺機能異常についての話でした

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(31)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 31

コメント 4

ドクター・ヘル

この記事に限らず、世の中というものは、どうも帯で見るのではなく、点で見る傾向が強いようです。

まあ、様子見をしている間に状況が悪化した事実もあるわけですから、一概に否定する事は出来ないと思いますが。
by ドクター・ヘル (2012-02-13 12:33) 

fujiki

ドクター・ヘルさんへ
いつもありがとうございます。
相反するデータがあるのが、
むしろ当然で健全なことだと思いますが、
その辺りは一般には理解がされ難い点かも知れません。
by fujiki (2012-02-14 08:28) 

すずめ

はじめまして、検索していて偶然にたどりつきました。
先月、CTスキャンを受けた時に、ヨード系造影剤を使いましたが、翌日から身体が怠くて手足も冷たく手首や指先の関節痛、何時間睡眠をとってもまだ眠ってしまうような毎日で、気力もなくなり気分も落ち込み、副作用ではないかと疑っているところでした。
今までに甲状腺の疾患は無いと思っていましたが、お医者さまに相談してみたほうが良さそうですね。
近所のかかりつけのクリニックで血液検査をしたところ、甲状腺のホルモンは低めの基準値内ではありましたが、サイログロブリンが少し高かったので、何らかの影響が出ていると考えてネットを検索して情報を収集しているところでした。
ありがとうございました、ブログの記事がとても参考になりました。
by すずめ (2012-03-10 14:40) 

fujiki

すずめさんへ
橋本病が隠れている可能性はあり、
自己抗体の検査は、
しておいた方が良いかも知れません。
ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2012-03-12 06:07) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0