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チャンピックスに係わる交通事故事例を検証する [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先日禁煙補助剤のチャンピックスの、
使用上の注意が改訂され、
それに伴い、
車の運転をしないように製薬会社がお願いする、
という趣旨の文面が、
添付文書に追加されました。

これは実際には「運転の禁止」ではないようですが、
文書を普通に読む限り、
そうとしか取れないニュアンスを持つものです。

この改訂が行われた理由は、
幸い人身事故や物損事故にはならなかったものの、
運転中に事故に結び付くような意識消失が生じた、
副作用事例の報告が3例あったためです。

使用上の注意に開示されている事例は1例ですが、
今回製薬会社にお願いして、
残りの事例も開示して頂きましたので、
個人の特定がされない範囲に留めた記載に配慮しつつ、
その内容をご紹介したいと思います。

まず、最初の事例は公開されていたものです。
(事例の順番は便宜的なもので、
実際の発症順ではありません)

患者さんは60代の男性で、
慢性閉塞性肺疾患の既往があり、
スピリーバという抗コリン剤の吸入剤が使用されていました。
その使用後3ヶ月余が経過してから、
禁煙治療のためにチャンピックスが使用開始されたのです。

チャンピックスは最初の1週間は通常量より少ない量が使用され、
使用8日目から通常用量が使用されます。

この方は増量した当日に、
内服からおよそ20分後に自動車運転中によだれが出て、
それから全身が震え出し、意識を失いました。
気が付くと道路の側溝に嵌まっていたのです。
同日もう一度服用したところ、
矢張り同様の症状が出現しましたが、
意識は失いませんでした。

この方の事例は、
チャンピックスを通常用量の1錠1mgに増量した時点で、
その症状が出現し、
2回目の服用でも同様の症状が再現されていることから、
チャンピックスが少なくとも症状の原因の1つであることは、
ほぼ間違いがありません。

併用薬はスピリーバだけで、
尿所見、肝機能、腎機能に異常はなく、
貧血や糖尿病もありません。

つまり、内臓機能の低下などのために、
薬剤が蓄積された可能性は否定的なのです。

2例目の事例は70代の男性です。

不眠にて睡眠剤のマイスリーを使用中でした。

それに加えてチャンピックスの使用を開始し、
チャンピックスを1mgの錠剤に増量して翌日に、
車を運転中の意識消失を来たしています。
この事例は服用の直後ではないようですが、
チャンピックス増量前の段階でも、
矢張り一瞬の意識消失を来たしています。

チャンピックスと意識消失との関連性は、
確かに否定出来ないものと思われます。

3例目の事例は40代の女性です。

チャンピックス開始後、
胃薬のガナトンを同時に服用しています。
これはチャンピックスの副作用で、
しばしば吐き気が生じるため、
比較的一般的な処方です。

チャンピックス開始後ほぼ1ヶ月が経過した時、
午前中に意識朦朧状態となり、
病院受診後の帰宅時に、
車の運転をして車両を何処かに接触させています。

この事例は血液検査が施行されていて、
その結果には肝機能や腎機能、
電解質にも異常はなく、
貧血や糖尿病もありません。

以上の3例の事例が蓄積されたため、
今回の使用上の注意の改訂となったようです。

1例目の事例はチャンピックスとの関連が、
ほぼ間違いないと思われる事例です。
ただ、その症状の出現の仕方は、
他の2例とは異なり、
かなり特異的なものです。
よだれや意識消失は、
アセチルコリンの過剰による、
コリン作動性クリーゼを疑わせるものですが、
併用されているスピリーバは、
抗コリン作用の薬剤ですし、
チャンピックスと脳内アセチルコリンの上昇との間には、
直接的な関連性は考え難いと思います。
ただ、今は分かっていないそれ以外の脳内作用が、
チャンピックスにはあるのではないか、
という可能性は残ります。

2例目はマイスリーが併用されていて、
症状も意識消失のみであり、
チャンピックスとマイスリーとが共に、
脳内のモノアミン等の増減に、
影響を与える可能性の高い薬剤であることを考えると、
その相乗作用が強く疑われます。

3例目は併用されたガナトンが、
アセチルコリンを上昇させ、
ドーパミンに拮抗する作用を持つことから、
その相乗効果が疑われます。
ただ、チャンピックスのメインの作用は、
脳内のドーパミンの部分的な増加にあり、
ガナトンは基本的に脳内作用は少ない薬剤なので、
これも必ずしも簡単に理屈には合わないのです。
理屈ではチャンピックスの効果が、
ガナトンの併用でやや減弱する程度、
と思えるからです。

現時点の情報からは、
チャンピックの使用により、
稀に起こる意識消失については、
そのメカニズムを推測することは困難です。

ただ、そうしたことが起こり得ることは事実と思われ、
処方についてはそうした点についても、
慎重な姿勢が望まれることは間違いがありません。

おそらくはかなりその個人の体質に、
影響される部分が大きいのではないか、
と思われますが、
特に脳内ホルモンに影響を与える薬剤との併用は、
慎重に考えた方が良いのではないかと思います。

今日はチャンピックス使用後の意識消失の問題を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ごぶりん

チャンピックスの意識消失の事例については1例しか存じませんでしたので、
オープンになっていない案件も紹介して頂けると助かります。
職場が変わりチャンピックスを投薬する機会が全然ないのですが、
たまに門前以外の処方箋も入って来て、投薬する可能性がゼロではないので
すこしでも事例を知っておいた方が心強いです。
意識消失の副作用が記載された薬剤は結構ありますが、SE発症の
メカニズムが分からない抗菌剤を投薬する時が一番怖いです。

by ごぶりん (2011-07-23 08:48) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
3例だけでは、
正直現時点では何とも言えません。
by fujiki (2011-07-24 20:43) 

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