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放射性セシウムについての補足と小線源治療について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は以前お話した、
放射性セシウムについての話を補足します。

セシウム137は医療面で、
幾つかの用途に使用されています。

そのうちの1つはγ線滅菌と呼ばれるもので、
医療器具の消毒などに使われています。
また、拒絶反応を避けるために、
輸血する血液に放射線を当てることがありますが、
この用途にも放射性セシウム137が使われています。
これはγ線を出す線源であれば、
何でも良いのですが、
セシウムはその生成が簡単で、
安価に出来ることからよく使用されます。

そして、もう1つの用途は癌の小線源治療です。

これは、
少量の放射線を放つ物質を、
癌の患部に直接埋め込んで、
その放射線により、
癌の組織を退治しよう、
というものです。

こうした目的には、
長期間その効果が持続する方が都合が良く、
そのためセシウム137のような、
半減期の長い放射性物質が使用されます。
一度埋め込んでおくだけで、
その効果が長期間持続するからです。
ただ、実際に埋め込む期間は、
概ね7日程度のようです。
セシウム以外にイリジウムや金も同様に使用されます。

主に使用されるのは、
舌や口の中、咽喉の癌です。

こうした癌は、
もし手術をすれば、
声が出なくなる、
容貌が変化する、
など多くの生活を送る上での弊害が生じます。
そのために放射性物質を用いた、
要するに人為的に内部被曝を起こさせるような治療が、
行なわれることがあるのです。

勿論この治療による放射線が、
新たな癌を誘発することは皆無ではありません。

ある2000年の日本の文献によると、
1075例の小線源治療により、
明確な誘発癌が8例認められた、
というデータが示されています。
照射後に誘発癌が発症するまでの潜伏期は、
15年から長いものは30年以上、との推測です。
ただ、こうした治療を受ける方は、
概ね高齢者が多いので、
仮に同様の治療をより若年層に行なうとすれば、
その治療による誘発癌の頻度は、
より多いものになることは、
当然想定されるところです。

このことは、
セシウムの内部被曝の影響を考える上での、
1つの参考にはなると思います。

ここから少し話が脇に逸れますが、
小線源治療は、
前立腺癌の治療でも最近使用されています。

この場合は放射性ヨード125を用い、
その放射性物質を、
ごく小さな金属の塊のようにして、
前立腺の患部に複数埋め込むのです。
この場合はもう取り出すことはなく、
埋め込んでそのままです。

ヨード125の物理的半減期は60日、
ヨード131よりずっと長いのです。
このため9ヶ月に渡り、
放射線は放出され続けます。
トータルな線量は計算上144グレイ程度と書かれています。
勿論そのくらい掛けなければ効果がない、
というのは分かりますが、
今の放射線量の日々のニュースから考えると、
矢張りびっくりするような被爆量です。

この線源による周囲への影響は、
1メートルの距離で毎日3時間を一緒に過したとして、
9ヶ月で胸のレントゲン1枚程度、
という説明がされています。

つまり、若干ですが周囲にも放射能を出す訳で、
こうした治療をされている方が、
放射線測定器を当てられれば、
当然反応があるのです。

勿論有用な治療であることは確かです。

ただ、その気で患者さん向けの説明を、
あらかた検索して読んでみたのですが、
何処にも具体的な被曝量は書かれていません。
精密な測定の元に、
線量を決定して使用する、
と書かれているだけです。

具体的には、
1.8μSv/h 以下が、退院OKの基準である、
とは書かれています。

ただ、この線量で上記の回りくどい説明を考えると、
1日3時間で9ヶ月の被爆を受ければ、
確かに50μSv程度かも知れません。
日々放射能は少しずつ減衰するからです。
しかし、毎日一緒にいるご夫婦なら、
寝る時間を含めれば、
15時間は1メートル圏内にいておかしくはありません。
すると、配偶者の被爆量は、
たった1日で27μSvです。
これは結婚しているにも関わらず、
1メートルより距離を縮めることのない、
ちょっと醒めたご夫婦の話です。
もし距離の二乗に反比例して線量が減るのであれば、
距離が縮まれば被爆量も増えます。

こう考えると、
こうした放射線治療における、
周囲への被爆線量の計算は、
非常に大雑把で線量を低く見積もっている、
と言わざるを得ません。
毎日3時間1メートルに近付いてもこの程度、
というのは、
非常に作為的な表現です。
以前なら、そんなものかな、
と思ってしまうところですが、
放射線被曝の知識が、
ある程度入ってからこの表現を読むと、
かなりその作為と、
その裏にある意図が透けて見えます。

これ以上書くことは、
当該の治療をお受けになっている方に、
無用な不安を与えることになるので、
避けることにします。

この治療は有用性のある治療です。
ただ、若干ではありますが、
周囲に放射線を拡散させます。
そのことの影響については、
もう少し慎重な表現が、
患者さんのパンフレットなどにも書かれるべきだと思いますし、
被爆量と周囲への放射能の拡散についても、
もう少し正確で分かり易い情報が、
示されるべきではないかと、
僕は思います。

僕の今日言いたいことは、
放射線の検査や治療は、
確かに有用なものであり、
そうした検査や治療なしでは現代の医療は成立せず、
そうした検査や治療の有用性は、
医療者の目から見れば、
その被爆のリスクを、
遥かに上回っていることは、
事実だと思いますが、
その一方で被爆による将来の悪影響が、
少なからず存在することも事実で、
そうした被爆量の実際とリスクの説明を、
今後はよりしっかりと明確に行なうことが、
放射線を使用した検査や治療への信頼を、
より高めることになるのではないか、
ということです。

今日はセシウムの被曝と、
医療用の小線源治療の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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