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新規ビタミンD誘導体「エディロール」の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は少しのんびり出来れば、
という希望はあります。

昨日ワクチンの専門家会議があり、
結局ヒブワクチンとプレベナーの接種は、
今月末の再検討まで引き続き見合わせとなりました。

「入手可能な情報を次回までに収集する」とされていますが、
おそらくもう少し同様の事例が増えないかどうかを確認し、
「人の噂も…」の頃合いで接種を再開する、
という方向なのだと思います。
事例の詳細が公開されたので、
一通りは目を通しましたが、
これはもう絶対にその因果関係が、
証明されるという事案ではありません。

複数ワクチンの同時接種の是非が、
一番の問題だと思いますが、
これは水面下で色々と折衝をするのでしょう。
問題があったのに同時接種解禁になる、とは思いませんし、
もし規制になれば、
目を吊り上げて大暴れをされる方が、
沢山いらっしゃると思うので、
その調整をされる方のご苦労は、
さぞかしだろうと推察します。

事例はまた僕なりに考えたいと思いますが、
今日は別の話題です。

今日はビタミンD由来の新薬の話です。

ビタミンDはステロイド系のホルモンで、
主に骨とカルシウム代謝に重要な働きをしている、
非常に興味深い物質です。
身体で完全な生合成が出来ないので、
ビタミンの仲間としての名称が付いていますが、
ステロイドの仲間のホルモンというのが、
よりその実態に近い説明です。

ビタミンDは肝臓で水酸化、
という処理を受け、
それから腎臓で再度水酸化、
という処理を受けて、
活性型のビタミンDになります。
ビタミンDの生理的な役割の殆どは、
この活性型ビタミンDが担います。

この活性型ビタミンDは、
小腸からのカルシウムの吸収を促進し、
腎臓の尿細管に働いて、
カルシウムの再吸収を促進します。
つまり、この両方の働きにより、
カルシウムは身体に蓄えられ、
血液のカルシウムは上昇する方向に向かいます。

骨に関しては、
活性型ビタミンDの受容体は、
主に骨芽細胞という細胞にあります。
ただ、骨芽細胞にくっついたビタミンDの働きは、
主に破骨細胞を分化し活性化させることになります。
従って、むしろ骨を壊す方向に、
ビタミンDは働くのでは、
と思わせる部分があります。

ただ、骨の働きは壊して造る、
という所にあるので、
壊す働きと造る働きとは、
密接に結び付いている訳です。

ビタミンDが高度に欠乏した状態では、
正常な骨が造られない状態が起こります。
これを「くる病」と呼んでいます。

こうした病態があると言うことは、
正常な骨を造るには、
ビタミンDが不可欠だ、
ということを意味しています。

そこで、
骨粗鬆症の治療に対して、
ビタミンDを使用する、
という考え方が生まれました。

ただ、その闇雲な使用は、
必ずしも有効な結果を示しませんでした。

ビタミンDが不足していたり、
カルシウムの吸収が低下しているような事例では、
そのことにより血液のカルシウムが低下し、
それに反応して副甲状腺ホルモンが上昇するので、
ビタミンDを補充することが合理的な治療になります。

ただ、実際には骨粗鬆症の多くでは、
骨の代謝のバランスが悪く、
骨形成より骨吸収が亢進しているために、
骨が減ることが主な原因で、
その場合のビタミンDの補充の効果は限定的です。

そのうちに、
強力な骨吸収抑制効果のある、
ビスフォスフォネートが開発発売され、
その劇的な骨量増加作用や、
少なくとも短期的には骨折を予防する働きが宣伝されると、
骨粗鬆症におけるビタミンDの使用の意味合いは、
縮小されることになったのです。

問題はビタミンDの利用は、
その欠乏が疑われる事例においては、
現在でもビスフォスフォネートより合理的な治療であるにも関わらず、
その欠乏の指標である、
食事由来のビタミンDの測定のための検査が、
健康保険では行なうことが出来ず、
そうした治療の篩い分けが、
全く行われていない、
という点にあります。

また、高用量のビタミンDを使用すると、
それなりにビスフォスフォネートに近い効果があるのですが、
その骨以外の作用により、
血液のカルシウムが上昇して、
使用に堪えないという欠点がありました。

従って、骨に特化した作用のあるビタミンDが、
何とか開発出来ないものか、
という考えが生まれることになったのです。

そこで今回、
活性型ビタミンDの構造を一部変え、
新たな側鎖を付けた新薬が、
日本で発売されることになりました。
承認は既にされ、
発売は今年の4月の予定です。

販売名はエディロール、
一般名はエルデカルシトールです。

この活性型ビタミンDの誘導体は、
ビタミンD結合蛋白と、
通常のビタミンDの4倍以上の結合能を持っています。

つまり、蛋白と強く結合することにより、
血液中に長く残り、
これまでのビタミンDより長期間その効果が持続します。

しかし、面白いことにその受容体への結合は、
通常の活性型ビタミンDの半分程度なのです。

従って、ジワジワと長く効き、
受容体を刺激し過ぎることがありません。

昔ホルモンを専門にしていた、
ホルモン屋の端くれの立場から言うと、
こういう薬は存外面白い性質を持ち、
意外と効果のあるものだと、
直感的にはそう思います。

実際にこのビタミンD誘導体は、
これまでの活性型ビタミンD製剤との直接比較において、
優位に骨量増加作用や骨折予防作用が認められました。
また、その使用により、
骨吸収の程度を反映するとされる、
骨代謝マーカーを比較的短期間で、
かなり著明に減少させています。

つまり、データ上はかなりビスフォスフォネート製剤に、
近い効果が実現されているのです。

ビスフォスフォネート製剤は、
骨質に悪影響を与える作用が危惧され、
その使用は5年以上は継続しない方が望ましいのでは、
という考えが徐々にコンセンサスを得つつあります。

その意味でこの新薬は、
状況によってはビスフォスフォネートに代わり得る、
治療薬となる可能性を秘めています。

もし、ビスフォスフォネートとの比較試験で、
遜色ない結果が得られれば、
世界的にも広く使用される可能性がありますが、
現状は国産の薬で日本のみの発売に留まるようです。

この薬の問題点は、
本当にその効果が通常のビタミンDと同じなのかどうかが、
あまりクリアに分かっていないことで、
その効果のもう少ししっかりとした、
メカニズムの解明が、
この薬を安全に使用する面において、
解決されるべき大きな問題なのではないかと思います。

今日は近日中に発売予定の、
ビタミンD誘導体の新薬の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 5

rtfk

お忙しい日々と拝察します。
少しでもごゆっくりなさってください。
by rtfk (2011-03-09 11:19) 

シロ

たびたびすみません。ついに金曜に親知らずを抜く予定なんですが、プレッシャーでお腹下るし、微熱でるしでグチャグチャです。不安を取ろうとしても頭から離れません。僕は頭がおかしいんでしょうか? 気分も落ち込んでて最悪です。どうしたらいいでしょうか?
by シロ (2011-03-09 17:17) 

fujiki

rtfk さんへ
お気遣いありがとうございます。
お蔭様で今日は少しのんびり出来ました。
by fujiki (2011-03-09 21:58) 

fujiki

シロさんへ
別におかしくはありません。
抜いてしまえばそれまでのものなので、
取り敢えずは行った方が良いです。
歯医者さんで調子が悪ければ、
その通りに先生に言って、
その指示に従って下さい。
場合によっては別に延ばしてもいいのです。
by fujiki (2011-03-09 22:01) 

シロ

丁寧な返答ありがとうございます。逃げないで不安な心と闘いたいと思います。
by シロ (2011-03-09 22:40) 

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