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小劇場女優列伝(野田秀樹編) [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。
いつものように駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。

今日は僕の偏愛する小劇場の女優さんの話です。

3回目は野田秀樹の作品を彩った女優さんの話を、
ちょっとさせて下さい。

野田秀樹は好みは分かれるでしょうが、
矢張り稀有の才能を持った、
劇作家であり演出家であり、
俳優であることは、
異論のある方はおそらくはいないと思います。

東京大学の演劇研究会を前身とする、
「劇団夢の遊眠社」で活動を開始したのが1976年。
当初は東大構内の駒場小劇場を拠点として、
当時としては、
他に類のない奇妙な演劇を上演しました。

1980年代の初めに、
2回ほどゲストとしてその舞台に立ったのが、
キャンディーズ解散後の伊藤蘭です。

①伊藤蘭
1981年初演の「ゼンダ城の虜」では、
彼女が主演の赤頭巾少年を演じました。
劇団が上昇気流に乗っていた時期で、
このキャストを含めて大きな話題を集めました。
それでも2週間だけの公演ですから、
今思うと随分贅沢な企画だったことが分かります。
この戯曲は多分野田秀樹の作品の中でも、
最も難解はものの1つで、
矢鱈と解説的な台詞が多く、
暗号やパズルなどが多彩に舞台に現われますが、
それでいて、何かが解き明かされたり、
それまで隠されていたものが露になったりすることはなく、
迷宮をただただ彷徨うだけで、
劇は終わってしまいます。
ラストの台詞は、
「少年は動かない。世界だけが沈んでいくんだ」
というこれも訳も分からないものです。
僕はこの初演は見ていません。

ただ、「劇団遊眠社」の解散公演は、
1992年の同じ作品の再演であったので、
彼にとってこの作品が、
遊眠社の原点であったことが推察されます。

さて、1980年以降、
1992年の劇団解散まで、
一貫して(一部の例外はあるものの)
ヒロインを務めたのが、
竹下明子です。

②竹下明子
彼女は野田秀樹が遊眠社当時に描いた、
「永遠の少年」と「男を困惑させる残酷な少女」の、
2つの現実性のないキャラを、
その甲高い強い声と、
しなやかな肢体、
そして好みはあるでしょうが、
あまり男をそそらない容姿で、
野田戯曲の世界を、
良くも悪くも彼女の色で染め上げました。
彼女が段田安則や松澤一之、佐戸井けん太といった、
極限の体技と早口の台詞を暴力的に奏でる役者陣と、
対立し、そこに軟体動物のような野田本人が絡むのが、
遊眠社の芝居の、
基本的なパターンです。

唐十郎が李礼仙にある意味拘束され、
戯曲の世界を狭めてしまったように、
野田秀樹も竹下明子の存在に、
自分の戯曲の世界を制限されてしまったのです。

野田秀樹も唐と同様に、
ヒロインの竹下明子と結婚するのですが、
それ以降野田戯曲は輝きを失い、
野田自身も鞠谷友子を客演でヒロインにしたり、
新人の山下容理枝を抜擢したりと、
あの手この手を使うのですが、
結果として1992年に遊眠社は解散し、
野田は逃れるようにイギリスへ留学。
竹下明子とは離婚します。

竹下明子の演技は、
幾つかの画像が残されていますが、
最も古い「野獣降臨(1987年)」がお勧めです。

③大竹しのぶ
イギリス留学から戻った野田は、
NODA MAP としてその活動を再開します。
当初羽野晶紀を起用しますが、
彼女はどちらかと言えば、
竹下明子に似たタイプです。
その同年に「野田版国姓爺合戦」で起用したのが、
私生活でも関係を持つことになる、
大竹しのぶです。
日生劇場で上演されたこの芝居は、
僕も観ましたが、非常に見事なもので、
野田戯曲の中でも、
僕は「走れメルス」などと並んで、
最も好きな作品です。

その中で悲劇のヒロインを演じる大竹しのぶは、
野田の台詞の叙情的な部分を、
見事に具現化していて、
竹下明子とは正反対の形で、
彼の戯曲を肉化したのです。

ただ、彼女はその後も何度か野田と仕事を共にしますが、
この時のような見事なコンビネーションは、
その後は見られないものになりました。

そして、その後野田戯曲のミューズになったのが、
深津絵里です。

④深津絵里
彼女は1997年の「キル」の再演で、
初演の羽野晶紀に代わって、
ヒロインを演じました。
これは非常に見事な演技で、
一気に野田のお気に入りになったのも当然です。
その後「半神」、「贋作 桜の森の満開の下」、
「農業少女」、「走れメルス」と、
立て続けに野田戯曲のヒロインを演じます。
おそらく竹下明子以外では、
野田戯曲のヒロインを、
最も多く演じていると思います。

彼女はパワーアップした竹下明子、
というのが僕の評価で、
それは竹下明子のような、
しなやかな体技はないのですが、
その変わり身の早さや、強靭な声、
台詞回しの巧みさは、
野田戯曲のために存在するかのように、
思えるところがあります。
容姿は竹下明子より数段上で、
彼女にはない情感のある演技も出来ます。

ただ、一時の熱は醒めた感じもあり、
今後はあまり野田は彼女を使わないのではないか、
という気もします。

その後野田秀樹は自作のヒロインに、
松たか子や宮沢りえなど多くの女優さんを起用しています。
次作のヒロインは蒼井優ですが、
これはどちらかと言えば、
興行的な理由の方が大きいのでしょう。
広末涼子も1回きりの起用でした。

野田秀樹の本領は、
僕は特定の女性に対する一方的な愛情と、
それが無残に裏切られた時の、
ウジウジとした嘆きの表現にあると思うので、
そうした対象となる女優さんが現われれば、
また彼の作品は輝きを取り戻す可能性は、
あるのではないかと思います。
勿論これはあくまでプラトニックな話で、
2度目の結婚をした彼のプライベートに、
波風を立てるつもりはありません。

今日は野田秀樹の戯曲を実体化した、
女優さんの話でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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