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ロキソニンのOTC化を考える [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

先週の金曜日に、
ロキソニンがOTC化され、
薬局でも医師の処方箋なしに、
販売されるようになりました。

僕はたまたまその日にテレビ局の方が取材に見えたので、
そのことを知ったのですが、
丁度記事で書いていた重症の薬疹である、
Stevens-Johonson 症候群の原因薬剤(疑)として、
常に上位にランクされる薬であることを確認していたので、
非常に複雑な思いがしました。

ロキソニン(一般名ロキソプロフェン)は、
所謂非ステロイド系の抗炎症剤で、
アスピリンと同じように、
シクロオキシゲナーゼという酵素を阻害することにより、
プロスタグランジンという炎症物質を抑え、
それで身体の炎症を抑え、熱を下げ、
痛みを取る作用を持つ薬です。

患者さんを苦しめる症状を取るという意味で、
非常に有用性の高い薬ではありますが、
その一方で腎機能障害や胃潰瘍の発症、
重症の薬疹の発生など、
副作用の多い薬でもあります。

系統によって幾つかの特徴があるのですが、
ロキソニンは解熱作用よりも、
痛みを止める作用が強いのが特徴で、
腰痛や生理痛や歯痛、頭痛、
風邪による咽喉の痛みなどに頻用されます。

ロキソニンは同種の薬の中では、
副作用の少ない薬とされています。
その理由はこの薬がプロドラックと言って、
体内で活性型に変化するので、
胃腸障害を生じ難い、と考えられている点にあります。

ただ、僕はロキソニンの使用で、
多発性の胃潰瘍になった患者さんを、
複数例経験していて、
勿論乏しい経験から一般論を導く愚は承知の上ですが、
個人的には決して胃腸障害の少ない薬ではないと思います。

更には重症薬疹に関しても、
その報告頻度はアセトアミノフェンやボルタレンと並んで、
多い薬剤でもあります。

一般の臨床に従事していると、
ロキソニンを指定して、
痛み止めとして欲しい、
と言われる患者さんをしばしば経験します。

これは一定の効果がある、
ということも勿論ですが、
一種の依存を形成し易い傾向を、
こうした薬剤が持っていることの証左でもあります。

痛みが消えることや和らぐことは、
一種の快感に結び付くものなので、
その効果が強ければ強いほど、
それだけ使用する方の依存の傾向も、
高まることになる訳です。

それではこうした薬剤を、
何故OTC化するかと言うことになりますが、
それは主目的は医療費の削減にあります。

ロキソニンは非常に処方数の多い薬剤です。
その処方がOTCにスイッチすることにより、
ロキソニンの処方が減り、
医療保険で賄う比率が減ることを期待しているのです。

ロキソニンの1錠の薬価は現在20円程度です。

この薬は古い薬なので、
当然ジェネリックが存在し、
ジェネリックの薬価は、
安いものでは1錠5.6円程度です。

この価格差の大きさにもびっくりですが、
今回発売されたOTC版を見ると、
定価ベースでは1錠57円近い価格が付いています。

つまり、ジェネリックの10倍、先発品の3倍近くに、
価格は跳ね上がっているのです。
勿論これは定価からの換算なので、
中間の差益があり、
実際にはここまで単純な比較は出来ません。
しかし、いずれにしても、
ジェネリックで処方されていた患者さんが、
同じ薬をOTCで買えば、
実際には数倍の値段を払っている訳です。

ここで何となく見えるからくりは、
製薬会社に儲けを提供しつつ、
医療費自体は削減しよう、
というお役人様の意図です。

飴と鞭ではないですが、
ロキソニンを先発品として開発した、
製薬会社にとっては、
3分の1以下の値段のジェネリックを次々と認可され、
酷いいじめに遭っていたのを、
今回独占的に、
現行の薬価より、
より高い値段で売る許可を得たのです。
つまり、人参をやるから言うことを聞けよ、
という構図です。
その価格も認可も、
全てお役人様がやっているのだから、
うんざりする話です。
これが規制緩和だと言うのだから、
臍が茶を沸かします。
本当の規制緩和は薬価を廃止して自由価格にすることですが、
今やっていることは、
むしろ規制を強めているのです。

つまり、端的に言えば、
OTC化というのは、
先発品が自費の新薬として復活することです。

OTCは頭痛や生理痛への使用をメインに据え、
1日2回の屯用の適応ですが、
その1錠の用量は医療薬と同じに設定されています。

アセトアミノフェンやロキソニンは、
重症薬疹の事例は多く、
本来なら安全性情報が追加されても良い薬剤です。

しかし、現行の添付文書には、
そのことを強調する記載すらなく、
重症薬疹が多いことなど、
知らないで欲しいのではないか、
と考えたくなるほどです。

これは穿った見方かも知れませんが、
緊急の安全性情報など出れば、
OTC化は困難になる訳です。
それを承知の上で、
敢えて記載はしないのではないか、
とそんな思いまで感じることがあります。

2009年の審議会では、
日本整形外科学会が、
ロキソニンのOTC化を承認しています。
こういう行為こそ、
○○に魂を売った、
と言うのではないかと僕は思います。
「薬局がきちんと服薬量を確認しろ」
「飲んで浮腫みが出たら腎臓が悪くなっているかも知れないから、
医療機関を受診するよう促せ」
というようなものがその条件だそうですが、
お偉い先生は、
そうした行為が自分で自分の頚を絞めていることに、
気が付かないのでしょうか。

OTC化を進めるのは、
医療費の見かけ上の削減と、
製薬会社に利益を廻すためです。
そのために犠牲になるのが、
薬を使われる皆さんの安全です。

少し前まで薬を減らそう、
というような論調があったのに、
最近はあまりメディアでも聞くことがありません。
「良い薬が出たからどんどん使おう」
というような話ばかりです。
元々薬を減らそう、という行政の主張も、
別に皆さんの安全を考えたためではなく、
国から支出する医療費を減らそう、
という経済的な観点のみからのものだったのです。
財布さえ違えば、
医療費はどしどし使って欲しいのです。
製薬会社や医療機器メーカーが儲かることは、
お役人様にとっても望ましいことであるからです。
従って、安いジェネリックやOTCは、
たとえ不必要なものでも、
じゃんじゃん売れればそれで良いのです。

医療者は本来は、
不必要な投薬を減らせ、
と一番強く言うべき立場です。

しかし、新薬を礼賛することには熱心ですが、
インチキ風邪薬みたいなものが、
大手の製薬会社から、
山のように販売されて、
多くの人の健康に害を与えていることには、
あまり感心を示そうとはしません。
しかし、本当にそれでいいのでしょうか。

ブログにコメントを頂いていてもそう思いますが、
医者より薬剤師さんの方が、
ずっと薬について勉強熱心で、
その知識も深く、
患者さんの安全についても、
ずっと真剣に考えています。

患者さんの安全を何より重視する立場に立つことが、
医療の信頼を回復するための、
何よりの処方箋であるように、
僕は信じて疑いません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 18

ひろ38歳

多分、ロキソニンを乱用する人が増えるでしょうね。

特に女性。生理痛や偏頭痛に。

それも、胃薬を飲まずに。

僕はロキソニンもボルタレンも効きません。

とにかく、この国の医療行政はおかしいです。他の行政もおかしいですが。挙げたらきりがないので。

とにかく、皆保険精度はおかしいと思います。
by ひろ38歳 (2011-01-24 09:09) 

iyashi

同じ時期に同じことを考え、憂いを感じていたのですね。
先生とは矢張り何か縁を感じます。
これからもご指導宜しくお願い致します<m(__)m>
by iyashi (2011-01-24 10:35) 

hiroko

はじめまして。
いつも先生のブログ拝見しています。
というのももう30代の娘(ダウン症)が感染症にかかりやすく
また重症化しやすいので医療には関心を持っています。

かかりつけのお医者様で以前は解熱剤はブルフェンをだしていただい
ていましたが、あまり効かず、ピリナジンを飲んだら、凄い薬疹が出て
しまいました。
そのとき救急車で行った大学病院でロキソニンをいただきました。
娘にはロキソニンはよく効きましたので、それから熱が高いときは
ロキソニンをだしてもらっていました。

でもかかりつけ医はあまりロキソニンは使いたくないようでした。
アセトアミノフェンが一番安全とはいろいろなところに書かれているし
つい一週間前にインフルエンザA型に罹り(予防注射を毎年している
のに罹ってしまう)急患診療所に行き、タミフルを処方されましたが
38度を超えると吐き気が出てしまう子なので解熱剤もお願いしまし
たがピリナジンがダメというと驚かれました。

iyasiさんのブログも読みましたがアセトアミノフェンがダメな場合には
なにがベターなのでしょうか?
ロキソニンを多用はしていません。38℃以上出たときに一日1錠に
していますが。


by hiroko (2011-01-24 12:26) 

Y.T

ロキソニン・・・。
生理痛の腹痛には効きますが、頭痛や腰痛には殆ど効きません。
でも、服用しないよりは効いているのかも?と思って飲んでしまいます。
薬疹の原因にもなるのですか・・・知らなかったです。
それにしても、頭痛に効く頭痛薬が欲しいです。

by Y.T (2011-01-24 12:29) 

fujiki

ひろ38歳さんへ
コメントありがとうございます。
色々と裏の事情はあるのでしょうが、
あまり知りたくもないのが、
正直なところです。
by fujiki (2011-01-24 17:41) 

fujiki

iyashi さんへ
こちらこそこれからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-01-24 17:42) 

fujiki

hiroko さんへ
コメントありがとうございます。
結論的にはロキソニンでOKと思います。
アセトアミノフェンは確かにトータルに見れば、
安全性の高い良い薬ですが、
薬疹に関して言えば、
決して少ない訳ではなく、
重症の事例も多く報告されている薬です。
つまり合わない人も少なからずいるので、
そうした人は別の薬を使うべきです。
ブルフェンとロキソニンは、
基本的に同系統の薬です。
他にスルガムやニフランも同じです。
細かく言えば違いもあるのですが、
薬疹の発生の危険性に関して言えば、
この系統の薬を使うのが、
安全性は高いと思います。
インフルエンザに関しては、
どちらかと言えばブルフェンをお勧めしますが、
それは疫学的なデータからの類推で、
娘さんの場合、ロキソニンでも問題はないと思います。
by fujiki (2011-01-24 17:55) 

fujiki

Y.T さんへ
コメントありがとうございます。
頭痛は確かに、
薬の効果にはかなり個人差があるようです。
by fujiki (2011-01-24 17:58) 

hiroko

コメントお返事ありがとうございました。
アセトアミノフェンは市販薬にも使われている
安全な薬と聞いていましたが、うちの娘に限らず
薬疹が出てる方もいるのですね。
ロキソニンでよいとのお返事で安心しました。

by hiroko (2011-01-24 20:57) 

いつも楽しみに拝見しています

先生こんにちは。
先日帰宅してブログを見たら、WBS出演と書いていらっしゃる人がいたので、
早速 http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/ で拝見しました。
でも、先生を取材した意図がさっぱりわかりませんでした。
先生ならいろいろな薀蓄をおっしゃるかと期待していたのですが、何も無く、
薬の超簡単な説明と、「指名される患者さんも。。。」と言う台詞と、処方する雰囲気の映像だけ。
実際の取材では、他にいろいろ質問を受けられたのでしょうか?

by いつも楽しみに拝見しています (2011-01-24 22:00) 

hiiragiyama

ここ数年「セルフメディケーション」の推進が一つの課題となっています。
これは医療費削減のためにアメリカや他国をお手本にしたものと考えます。
アメリカで臨床をされていた医師が日本で患者さんを診ると、ご自分の病気のこと、服用している薬が何の薬か知らないことに驚くと書かれた文章を読みました。
高い保険料を払わなくてはいけない国では、自分の服用する薬について知識を持つことがあたりまえなのでしょう。
日本の現状は薬についての知識がそれらの国の人々よりかなり低いので、薬の恐さもの認識も十分でないと想像します。
薬局、薬店でロキソニンを買った人は店頭の薬剤師さんに薬の説明を受けるでしょうが、たぶんその人は何も言わずに他の人に手渡すことが多いと想像できます。
セルフメディケーションを推し進めるには薬についてもっと真剣に知ってもらわなければいけないのではないでしょうか。


by hiiragiyama (2011-01-25 01:02) 

fujiki

いつも楽しみに…さんへ
そう言われると切ないのですが、
医療現場でのロキソニンの位置づけについて、
分かり易くするための、
「絵」が欲しかった、
という趣旨だと思います。
ちょっと声も出してくれたのは、
どちらかと言えば、
僕へのサービスなのです。
勿論もっと話はしていますが、
それほど大した内容ではありません。
テレビはたまにお声が掛かるので、
断わらずに出ていますが、
本当に言いたいことが流れたりしたら、
逆に怖いというのが実感です。
by fujiki (2011-01-25 06:28) 

fujiki

hiiragiyama さんへ
コメントありがとうございます。
僕はそうした意見には、
素直にそうですね、とは言えないのですが、
それは多分自分の仕事を盗られるような、
せこい不安があるからだと思います。

でも、多くのアメリカ人を知っている訳ではありませんが、
彼らの方が薬の知識が多い、というのは、
「本当かな?」とは思います。
そうしたことが言われるのは、
多分何か「こうしたい」という意図が、
裏にあるからではないでしょうか。

「アメリカではこれが常識なんだよ。
日本は遅れてるよ」
というような意見には、
本当に自分が経験している事項以外には、
僕はあまり信頼を置かないようにしています。
by fujiki (2011-01-25 06:36) 

サラ

ロキソニンを月1服用し抗生剤で薬疹がでた私には興味深い内容でした。
患者の立場から元医療従事者から見ていてお医者さんの中には薬に詳しくない、副作用に詳しくない方がけっこういるんじゃないかと思う事が多々あります・・。
正直それが一番怖いのです。医師処方の薬を患者は信用し服用します。でも医者が副作用、薬の飲み合わせをあまり知らす何かあった時にあいまいな対応をされると本当に困ります。

お医者さんは自分の好きな薬や使いやすい薬(製薬会社との絡み)があるようですがそこで先生のようにきちんと勉強されているのかと心配になります。ネットで何でも調べれる今は薬の飲み方や量を質問し素人が回答したりしている状況で副作用の心配なんて誰もしていないのです。

副作用は稀だといわれているけどOTC化された事で副作用がでる人が増えないか心配です。。

先生のブログ楽しみにしてますので頑張ってください。
by サラ (2011-01-25 21:49) 

fujiki

サラさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-01-26 08:16) 

一見さん

複数の科にかかっているため医師から鎮痛剤以外にもいろいろなお薬をもらいます。

経験上 合わない薬利かない薬はその後は飲まず、
お世話になった合う薬も 必要ない限りなおった後は飲みません。

鎮痛剤はあくまで対症療法なので 可能なら痛みの元を取り除くのが肝要だと聞きました。
でなければ、延々鎮痛剤を飲まないといけません。

副作用を覚悟で効果を期待して飲むのがお薬です。

どうにも、オイシイ話ばかりがはやってるようです。

(体験談になりますが精神科の薬剤師の老先生にロキソニン胃が痛くなりますねと話してみたら
「ロキソニン。あー。あれは一発で胃をやられるよ」
と、笑いながら話してくれました。
 
また別の先生からは「薬で治るのは2割か3割か。後は、他の方法で治さないと。」といわれました)
by 一見さん (2011-10-17 06:26) 

fujiki

一見さんへ
貴重なご意見ありがとうございました。
by fujiki (2011-10-17 07:59) 

由紀子

初めましてこんにちは。
先日、凄い頭痛に悩まされ職場の同僚にロキソニンを頂きました。
いつもはバファリンを飲んでいたのですが、その時たまたま忘れてしまったのです。
でもロキソニンは以前にも飲んだ事があったので、怖さとかは一切感じませんでした。
その夜に身体中に発疹が出て、次の日には顔がパンッパンに腫れ上がり、喉も痛く皮膚科に走りました。
ロキソニンによる薬疹だと言われました。
薬の怖さを初めて知りました。
薬局で手軽に買えるようになり、私みたいな人が増えません様にと願うばかりです。
by 由紀子 (2012-08-12 16:33) 

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