アデノウイルス感染症の話 [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はアデノウイルス感染症の話です。
巷ではインフルエンザが流行期に入った、
というニュースがありましたが、
渋谷区の臨床の現場からすると、
インフルエンザの流行はごく少数で、
むしろ小さいお子さんでは、
アデノウイルスの感染症が、
ずっと多いというのが最近の印象です。
アデノウイルスは構造式では正20面体という、
ちょっと特殊な構造を持つDNAウイルスです。
例によってそこから蛋白質などの突起が出ていて、
その突起の性状で、
多くの型が分類されています。
現在51種類の型が存在することが、
確認されています。
アデノウイルスは所謂風邪症状を起こすウイルスの1つですが、
その型によって出現する症状が違う、
と言う特徴があります。
咽喉の痛みや熱などの、
所謂風邪症状を起こす型があり、
また風邪症状に伴い、
出血性の膀胱炎を起こす型もあります。
ロタウイルスのような下痢を起こす型もあり、
また結膜炎と扁桃腺炎という、
一般に「プール熱」と呼ばれる症状を、
起こす型もあります。
その症状の違いが、
どのような型のメカニズムの違いにより生じているのかは、
あまり教科書には書いてありません。
ひょっとしたらもう分かっていることなのかも知れませんが、
今回調べた範囲では、
よく分かりませんでした。
アデノウイルスは酸に強く、
PHが3程度でも生育が可能です。
そのため胃を通過して腸の細胞で増殖することが可能で、
そのために胃腸炎の原因にもなるのです。
アルコールの消毒も無効で、
塩素系の消毒剤のみが有効とされています。
所謂風邪症状のウイルスは、
一度罹ってもそれほど強い免疫が成立せず、
しばらくすると同じ型でも再度感染することがありますが、
このアデノウイルスに関しては、
通常ある型の感染が一度起こると、
原則として同じ型には一生罹らない、
とされています。
つまり、同じ型に関しては、
終生免疫が成立するのです。
ただ、たとえばプール熱に関しても、
同様の症状を起こすウイルスが複数存在するので、
2回以上プール熱に感染することも有り得るのです。
それでは、診療所で最近経験した事例をご紹介します。
患者さんは5歳のお子さんで、
夜になると39度台に比較的急激に発熱し、
昼間は元気で熱も微熱程度に下がります。
その熱が2日続いた時点で、
近所の小児科を受診すると、
インフルエンザの疑いがあると言われ、
簡易検査を受けましたが、結果は陰性でした。
それで、抗生物質と風邪薬が処方され、
もう2日間様子を見ましたが、
病状は悪化傾向こそないものの、
熱は一向に下がる様子はありません。
心配になった親御さんが、
診療所を受診されました。
お子さんは確かに元気は良く、
熱も昼間は微熱です。
しかし、夜になると39度台に上がるのです。
呼吸状態は良く、肺炎は否定的でした。
咽喉は赤くはなっていますが、
典型的な扁桃腺炎、という所見はありません。
それで咽喉のアデノウイルスの簡易検査を行なうと、
結果は陽性でした。
つまり、アデノウイルスに伴う、
上気道感染症だったのです。
特に治療はすることなく、
熱は5日間続いてから解熱しました。
その後立て続けに同様の症状の患者さんが見えたので、
症状だけから大体当たりが付くようになりました。
このようにインフルエンザとアデノウイルス感染症は、
見分けの付かないケースが多く、
特に今のように「インフルエンザ流行始まる」
のようなニュースが流れると、
どうしてもそのためのバイアスがかかり、
インフルエンザと誤診されるアデノウイルス感染症が増えます。
また、教科書的説明では、
上気道炎のアデノウイルスは下痢や膀胱炎は起こさず、
下痢型のアデノウイルスでは咽喉は腫れない、
というように思えますが、
実際には熱と下痢と咽喉の腫れとが、
時間差で出現するようなパターンも、
結構認められます。
現時点の診療所周辺での状況を見ると、
悪寒を伴う高熱の持続はインフルエンザを疑いますが、
夜だけの熱であったり、
下痢を伴う場合には、
むしろアデノウイルス感染症が疑われ、
はっきりした扁桃腺炎の所見があれば、
アデノウイルスと溶連菌感染症の、
両方を考える必要があります。
お腹の風邪の場合も同様で、
急な嘔吐で始まる場合は、
ノロウイルスかロタウイルスをまず疑いますが、
嘔吐がなく下痢と発熱のみの場合は、
細菌性の下痢とアデノウイルス感染症の両方を疑い、
下痢に咽喉の痛みを伴えば、
まずアデノウイルスを疑います。
治療は基本的には対処療法で、
肺炎を来たして重症化する事例もありますが、
大半は自然に治癒します。
僕は抗生物質は比較的使用する方ですが、
アデノウイルス感染症に限って言えば、
使用しないのが正解で、
その判断のためにも、
疑う事例には積極的に簡易検査を行なうのが、
望ましいと僕は思います。
少量のステロイドの使用で、
有熱期間が短縮する、という報告がありますが、
その使用にはちょっと勇気のいるところで、
僕は積極的には使用はしていません。
今日は現在意外と事例の多い、
アデノウイルス感染症の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はアデノウイルス感染症の話です。
巷ではインフルエンザが流行期に入った、
というニュースがありましたが、
渋谷区の臨床の現場からすると、
インフルエンザの流行はごく少数で、
むしろ小さいお子さんでは、
アデノウイルスの感染症が、
ずっと多いというのが最近の印象です。
アデノウイルスは構造式では正20面体という、
ちょっと特殊な構造を持つDNAウイルスです。
例によってそこから蛋白質などの突起が出ていて、
その突起の性状で、
多くの型が分類されています。
現在51種類の型が存在することが、
確認されています。
アデノウイルスは所謂風邪症状を起こすウイルスの1つですが、
その型によって出現する症状が違う、
と言う特徴があります。
咽喉の痛みや熱などの、
所謂風邪症状を起こす型があり、
また風邪症状に伴い、
出血性の膀胱炎を起こす型もあります。
ロタウイルスのような下痢を起こす型もあり、
また結膜炎と扁桃腺炎という、
一般に「プール熱」と呼ばれる症状を、
起こす型もあります。
その症状の違いが、
どのような型のメカニズムの違いにより生じているのかは、
あまり教科書には書いてありません。
ひょっとしたらもう分かっていることなのかも知れませんが、
今回調べた範囲では、
よく分かりませんでした。
アデノウイルスは酸に強く、
PHが3程度でも生育が可能です。
そのため胃を通過して腸の細胞で増殖することが可能で、
そのために胃腸炎の原因にもなるのです。
アルコールの消毒も無効で、
塩素系の消毒剤のみが有効とされています。
所謂風邪症状のウイルスは、
一度罹ってもそれほど強い免疫が成立せず、
しばらくすると同じ型でも再度感染することがありますが、
このアデノウイルスに関しては、
通常ある型の感染が一度起こると、
原則として同じ型には一生罹らない、
とされています。
つまり、同じ型に関しては、
終生免疫が成立するのです。
ただ、たとえばプール熱に関しても、
同様の症状を起こすウイルスが複数存在するので、
2回以上プール熱に感染することも有り得るのです。
それでは、診療所で最近経験した事例をご紹介します。
患者さんは5歳のお子さんで、
夜になると39度台に比較的急激に発熱し、
昼間は元気で熱も微熱程度に下がります。
その熱が2日続いた時点で、
近所の小児科を受診すると、
インフルエンザの疑いがあると言われ、
簡易検査を受けましたが、結果は陰性でした。
それで、抗生物質と風邪薬が処方され、
もう2日間様子を見ましたが、
病状は悪化傾向こそないものの、
熱は一向に下がる様子はありません。
心配になった親御さんが、
診療所を受診されました。
お子さんは確かに元気は良く、
熱も昼間は微熱です。
しかし、夜になると39度台に上がるのです。
呼吸状態は良く、肺炎は否定的でした。
咽喉は赤くはなっていますが、
典型的な扁桃腺炎、という所見はありません。
それで咽喉のアデノウイルスの簡易検査を行なうと、
結果は陽性でした。
つまり、アデノウイルスに伴う、
上気道感染症だったのです。
特に治療はすることなく、
熱は5日間続いてから解熱しました。
その後立て続けに同様の症状の患者さんが見えたので、
症状だけから大体当たりが付くようになりました。
このようにインフルエンザとアデノウイルス感染症は、
見分けの付かないケースが多く、
特に今のように「インフルエンザ流行始まる」
のようなニュースが流れると、
どうしてもそのためのバイアスがかかり、
インフルエンザと誤診されるアデノウイルス感染症が増えます。
また、教科書的説明では、
上気道炎のアデノウイルスは下痢や膀胱炎は起こさず、
下痢型のアデノウイルスでは咽喉は腫れない、
というように思えますが、
実際には熱と下痢と咽喉の腫れとが、
時間差で出現するようなパターンも、
結構認められます。
現時点の診療所周辺での状況を見ると、
悪寒を伴う高熱の持続はインフルエンザを疑いますが、
夜だけの熱であったり、
下痢を伴う場合には、
むしろアデノウイルス感染症が疑われ、
はっきりした扁桃腺炎の所見があれば、
アデノウイルスと溶連菌感染症の、
両方を考える必要があります。
お腹の風邪の場合も同様で、
急な嘔吐で始まる場合は、
ノロウイルスかロタウイルスをまず疑いますが、
嘔吐がなく下痢と発熱のみの場合は、
細菌性の下痢とアデノウイルス感染症の両方を疑い、
下痢に咽喉の痛みを伴えば、
まずアデノウイルスを疑います。
治療は基本的には対処療法で、
肺炎を来たして重症化する事例もありますが、
大半は自然に治癒します。
僕は抗生物質は比較的使用する方ですが、
アデノウイルス感染症に限って言えば、
使用しないのが正解で、
その判断のためにも、
疑う事例には積極的に簡易検査を行なうのが、
望ましいと僕は思います。
少量のステロイドの使用で、
有熱期間が短縮する、という報告がありますが、
その使用にはちょっと勇気のいるところで、
僕は積極的には使用はしていません。
今日は現在意外と事例の多い、
アデノウイルス感染症の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2010-12-27 08:05
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コメント(7)
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思い当たる節があります^^)
by rtfk (2010-12-27 09:11)
rtfk さんへ
そんな記事を書いていたら、
今日はドッとインフルエンザの患者さんが受診されました。
ニュースの通り、
流行期に入ったようです。
どうも「新型」が主体と思われます。
by fujiki (2010-12-27 21:36)
ふむふむ・・・^^V
by yuuri37 (2010-12-28 00:25)
yuuri37 さんへ
もう1日なので、
何とかしのぎたいと思います。
by fujiki (2010-12-28 08:20)
4歳子供がここ数日前から鼻水、痰、咳 37℃台の熱が夜出る程度の風邪。
私が二日前朝(前日惣菜の揚げ物とビール飲んだのが原因?) 吐き気と共に起床 嘔吐まではいかないが吐き気 それからすぐ下痢が一日中 水分のみで絶食 熱37℃の微熱程度。
翌日 下痢治まり かなりの喉の痛み 夜のみ軽く食事するとやはり吐き気
病院では 子供のアデノが移ったかも?(症状違うが?)もしくは私だけ軽いノロかも?と感染による胃腸風邪の薬として整腸剤と胃薬と喉の薬が処方されたのですが
今日昼食後胃痛あり この一連の薬を服用しても改善せず 以前 逆流食道炎の胃痙攣時用として処方されていた薬(いつも消化不良時治まります)も改善せず どちらの薬も効かない 胃痛に困っております…
by こたつたこ (2012-12-21 22:25)
こたつたこさんへ
コメントありがとうございます。
断定的なことは言えませんが、
ウイルス感染をきっかけとして、
胃炎が継続している可能性が高そうです。
胃酸を抑えるような胃薬を、
少し続けてご様子を見るのが、
当面は良いように思います。
by fujiki (2012-12-22 08:16)
お返事ありがとうございます。
下痢が治まったからと すぐ完治するはずありませんね なんだか薬の効かない胃痛に混乱してしまいました。
処方されたマーズレンとここのところ服用してるサンタック で 食べなければ今日は落ち着いてます。 喉がむず痒いので自発的に咳を出し 痰もあるので やはりウィルス感染ぽいですね
昨年あたりから 変な風邪の引きかたをするようになりました…。
先生のblogで色々参考にさせて頂きます。
by こたつたこ (2012-12-22 15:42)