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ロタウイルスワクチンの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は早ければ来年のうちに、
日本で輸入ワクチンによる導入が予想される、
ロタウイルスのワクチンの話です。

まずロタウイルスとはどういうもので、
そのワクチンにはどのような効果が期待出来るのかを、
今日お話し、
明日は実際に日本で導入が予定されている、
輸入ワクチンの効果と問題点について、
話を続ける予定です。

ノロウイルスの流行で、
やや影が薄くなった感のあるロタウイルスですが、
ロタウイルスによる急性腸炎が、
5歳未満のお子さんにおける、
急性の下痢症状の原因としては、
最も多く重症化もし易い病気であることは、
間違いがありません。

アジアやアフリカの諸地域、
特に衛生状態の悪い地域では、
よりその比率は大きく、
重症化や死亡事例も多くなっています。

日本においては、
どうも全国規模の正確な統計は、
存在しないようなのですが、
推定の統計では、
5歳未満の小児のロタウイルス腸炎による入院は、
年間7万人を超える、と文献には記載され、
その7割は2歳未満に集中しています。

ただ、日本におけるロタウイルスによる腸炎で、
亡くなる方は非常に少数だと思います。
下痢に伴う脱水に対して、
適切な対応が取られれば、
1週間以内には症状は改善するからです。
それ以外の重篤な合併症は、
殆ど認められません。

さて、ロタウイルスは中型のRNAウイルスで、
口から身体に侵入すると、
小腸の粘膜に接着し、
その上皮細胞の中に入り込んで、
増殖を繰り返します。
上皮細胞が障害されるために、
腸は炎症を起こし、
そのための吸収不良から、
重症の下痢になります。

自然の免疫の働きにより、
特に治療をしなくても、
1週間以内にはウイルスは身体から排除されます。

ロタウイルスには、
例によって複数の型が存在します。

主に表面に突出しているVP4と呼ばれる蛋白質と、
その粒子の外側の皮を構成している、
VP7と呼ばれる蛋白質が、
身体の免疫が主に標的とする、
抗原性のある蛋白質と考えられています。

このVP4による型をP血清型、
VP7による型をG血清型と、
各々呼んでいます。

世界中の人間から検出されるロタウイルスは、
G1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]、
の5種類がその殆どだということが分かっています。

それでは、たとえばG1P[8]に一度感染すると、
同じ型のウイルスには、
感染しなくなるのでしょうか?

実はこの辺りの仕組みは、
必ずしもクリアに分かっている訳ではありません。

防御免疫には、
小腸の局所の粘膜で働く、
IgA抗体が、重要な働きをすることが、
推測されています。
しかし、これは実際の人間の粘膜で、
実証された事実ではありません。
ただ、血液中のIgA抗体が、
免疫の有無に関わっている、
という報告はあります。

G1P[8]に一度感染すると、
この同じ方ばかりではなく、
他の型のロタウイルスの感染に対しても、
重症化を来たし難くなる、
という報告もあります。
つまり、ロタウイルスに対する防御免疫というのは、
必ずしも特定の型の抗体のみに、
依存しているものではなさそうです。

そして、同じ型に対しても、
完全に罹らない、という訳ではなく、
あくまで酷い下痢にはならない、
というレベルのもののようです。

ロタウイルスに対する身体の免疫は、
一体どのくらい持続するのでしょうか?

ある2年間の経過観察の報告では、
重症の下痢は、
ほぼ100%予防されたとされていますが、
日本の報告では、
4年の観察期間中に再感染の重症例が認められています。

つまり、ロタウイルスの自然免疫は、
2年程度は持つとしても、
一生罹らない、というほど持つものではありません。
そして、完全に罹らない、という訳ではなく、
一度感染するとしばらくは重症にはならない、
というレベルのもののようです。

ロタウイルスのワクチンは、
現状世界で使用されているのは、
経口生ワクチンのみです。

つまり今不評のポリオ生ワクチンと、
同様の性質のものです。

生ワクチンは基本的に自然免疫を模倣したものですから、
その効果は自然免疫に勝るものではありません。

従って、ロタウイルスのワクチンは、
特に2歳未満のお子さんの、
重症の下痢症の予防目的で使用されるものです。

その集団的な効果は、
発展途上地域では、
致死的な下痢の流行を予防する、
という積極的な意味合いがあり、
先進国では、
どちらかと言えば、
医療費を削減し、
お子さんの病気のために、
お母さんが仕事を休むことによる、
経済損失を減らす、
といった経済的な側面が、
その主要な目的になります。

従って、おそらく来年になると、
「ロタウイルスワクチンは素晴らしい。皆で打ちましょう」
という宣伝が例によって行なわれると思いますが、
脳炎の予防のためのワクチンとは、
基本的に意味合いの異なるものだ、
ということを、
よく理解した上で、
その接種の是非を考える必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

ロタウイルスワクチンの詳細については、
明日に続きます。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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