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日本人の2型糖尿病に適した治療は何か? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は昨日に引き続いて、
糖尿病の治療の話です。

糖尿病には1型と2型とがあり、
1型は一種の自己免疫疾患で、
通常お子さんの時期に膵臓の細胞に炎症が起こり、
インスリンが殆ど出ない状態となる病気です。
このためその治療は、
膵臓移植を別にすれば、
インスリンの注射以外にはありません。

一方で2型の糖尿病は、
複合的な要因で、
通常大人になってからじわじわと発症し、
当初は生活改善のみで正常化することもあり、
インスリンの治療以外にも、
何種類かの飲み薬などの治療が、
有効とされています。

欧米では肥満がその主な原因の1つです。

高度の肥満では、
溜まった脂肪により、
インスリンの作用自体が充分に働かなくなります。
これをインスリン抵抗性と呼びます。
血糖を正常に保つために、
それだけ多くのインスリンが必要になるので、
インスリンの分泌が亢進した状態が続き、
次第に膵臓の疲弊から、
今度はインスリンが出なくなると、
血糖が上昇します。

この場合、単純化すれば、
問題は主に脂肪の蓄積にあるのであり、
膵臓自体には少なくとも初期には問題はないので、
脂肪を減らせば、糖尿病は治る、
という理屈になります。

しかし…

これが当て嵌まるのは、
高度の肥満から生じる、
欧米に多いタイプの糖尿病の話です。

僕の師事していた先生のデータによれば、
日本人の2型糖尿病の患者さんの多くは、
肥満が先行しないタイプの糖尿病です。

それでは、肥満が先行しないのに、
血糖が上がるのは何故でしょうか?

それは勿論、膵臓のβ細胞からの、
インスリンの分泌が悪くなるからです。

つまり、膵臓β細胞の機能障害です。

日本人は体質的に、
膵臓からのインスリンの出が、
悪い人が多いのです。
年齢は更にその機能を低下させる要因になりますから、
体質的にインスリンの出が悪い人が年を重ねれば、
それだけ血糖が上がり易くなるのは物の道理です。

過食や乱れた食生活が、
インスリンの分泌を過剰にし、
その膵臓への負担を増して、
膵臓の機能障害を後押しすることは、
当然想定されることです。

ただ、体質的にインスリン分泌が脆弱な人は、
生活を幾ら気を付けても、
限界があるということには注意が必要です。

インスリン分泌が低下した2型糖尿病の患者さんに対して、
最も適切な治療は何でしょうか?

従来この目的に最も使用されてきた薬が、
SU 剤というタイプの飲み薬です。

商品名で言うと、
オイグルコンやグリミクロン、
アマリールなどがこれに当たります。
勿論名称の違うジェネリックも発売されています。
また、商品名スターシス、ファスティック、
グルファストといった薬剤は、
グリニド製剤と呼ばれ、
短期作用型のSU 剤とでも言うべき、
似たメカニズムの薬です。

SU 剤とはどういうメカニズムの薬でしょうか?

これはSU 剤のくっつく受容体が、
膵臓のβ細胞の膜に存在して、
そこにくっつくことにより作用を現わします。
その受容体はATP 感受性K チャネル、という、
インスリンの正常な分泌に不可欠なチャネルと一体化していて、
その作用を代用するような働きをするので、
結果としてインスリンの分泌作用を、
増強する働きがあるのです。

β細胞の内部の代謝にも、
若干影響を与える、という文献はありますが、
それは副次的なもので、
メインの作用はあくまで上のメカニズムを介したものです。

つまり、正常なインスリン分泌のメカニズムの、
ある特定の部分だけを刺激するタイプの薬です。

その意味では、
かなり生理的に近いタイプの、
インスリン分泌の底上げ効果を持った薬、
と言うことが出来るのです。

このタイプの薬は、
最近はあまり良いことを言われません。

それは主には二次無効という現象があって、
「痩せ馬を鞭打つ」というたとえで説明されます。

つまり、疲弊したβ細胞を、
無理に薬で刺激することを繰り返すと、
却って膵臓が早くへばってしまい、
薬の効果がなくなってしまう、
というのです。

この現象が実際に存在することは事実です。

しかし、SU 剤という薬が、
他の糖尿病の薬剤に比べて、
特に二次無効の程度が高い、
ということを証明するようなデータはありません。

今流行りのインクレチン関連の薬剤は、
メカニズムは違いますが、
インスリン分泌を刺激する点は同じです。
従って、現時点でインクレチン関連の薬剤に、
二次無効がない、ということは言えないのです。
その有効性はまだ未知数の部分を残しています。
勿論動物実験のデータのように、
本当に膵臓のβ細胞を増やすのであれば、
画期的な薬剤であることは確実ですが、
それはまだ人間で立証された事実ではないからです。

SU 剤は低血糖以外には、
重篤な副作用は殆どありません。
低血糖は慎重な使用を心掛ければ、
多くは回避出来る性質のものです。
肝機能や腎機能がある程度悪くても、
その使用量を調節すれば、
比較的安全に使用が可能です。

従って、この薬は肥満がなく、
インスリンの分泌が軽度の障害されたような段階の、
2型糖尿病の患者さんには、
現時点でも最も安全に使える、
有効性の高い薬剤なのです。
その上、値段も高くはありません。

インスリンの分泌が低下した患者さんに対して、
最も理に適った治療は何でしょうか?

それは不足したインスリンを過不足なく補充し、
インスリンの濃度を極力生理的なレベルに近付けることです。

この目的を、
現時点で達成する治療はありません。

インスリンの注射は確かに補充療法ではありますが、
皮下に注射されたインスリンは、
そのまま血液に入ります。

しかし、実際に皆さんの身体から出るインスリンは、
膵臓から分泌されると門脈という血管に入り、
まず肝臓を通過するのです。

その意味でインスリンの注射は、
生理的なインスリンの補充とは言えないのです。

それに対してSU 剤の治療は、
膵臓を直接刺激するので、
生理的な条件に近い形で、
インスリンの補充が行なわれるのです。

インスリンの低下した2型糖尿病の患者さんに、
一番適した薬剤は、
膵臓を刺激して、
インスリンを正常に近く底上げしてくれるような薬です。

この目的に適っているのは、
SU 剤以外にはインクレチン関連の薬剤しかありません
しかし、インクレチン関連の薬剤には、
膵臓を刺激する以外の作用もあり、
また膵臓に対する作用も、
その全てが分かっている訳ではありません。

従って、勿論将来的な可能性にも期待して、
インクレチン関連の高価な薬剤を使用するのも、
1つの考え方ではありますが、
遥かに安価で効果もその限界もはっきりしている、
SU 剤のような薬剤をうまく使用して、
インスリン分泌の低下した患者さんをケアする、
というのも同時に有効な選択肢ではあると思うのです。

今日は最近評判の悪い糖尿病薬、
SU 剤を再評価する意見を、
ご紹介しました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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