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低血糖とその診断 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

妻が昨日また入院したのですが、
今レセプトで朝7時から夜8時までは、
寸刻みで仕事だし、
昼は往診を2箇所入れてしまったので、
昼休みもないし、
夜8時からじゃ病院にも行けないので、
どうしようもなくて困ります。
夜早く切り上げて、病院へ行くしかないか、
でもそれだとどう考えてもレセプトが間に合わないよ、
身体は1つしかないし、
これじゃちょっと無理だよ、
と言ってもどうしようもないので、
どうにかしないといけません。

それでは今日の話題です。

もう放映は終了したドラマですが、
数日前に録り溜めていた、
「GM~踊れドクター」を見たので、
今日はそこからちょっと、
インスパイアされた話題です。

ドラマの内容は、
かなりマニアックな診断学なのですが、
実際の症例報告を参考にしたのだろうな、
という結構リアルな感じのものと、
監修者は野放し状態の、
かなり適当で際どい内容なものと、
玉石混交の印象です。

その何話かに、
少女の低血糖発作で、
原因はインスリノーマだった、
というものがありました。

アウトラインは現実的なのですが、
たとえば空腹時の意識消失発作では、
すぐに低血糖だと分かってしまうので、
最初はいきなり笑い出して、
すぐに普通の状態に戻ったのに、
ただそれだけの所見から躁鬱病と誤診され、
リチウムが処方される、などという、
かなり非現実的な奇怪なものになっています。

ただ、慢性の低血糖症状が、
かなり見逃され易いものだ、
というのは事実で、
今日はその辺りの話をしたいと思います。

「低血糖]は血液の中のブドウ糖の濃度が下がることで、
概ね50mg/dl を切って、
冷や汗や異常な空腹感、
頭痛や手の震えなどが生じ、
更に進行すれば意識がなくなったり、
痙攣を起こしたりすることを言います。

ただ、特にご病気のない人でも、
空腹時は測定上50を切ることもあります。
従って、数値だけで低血糖発作とは言えません。

また、血糖値の測定というのは、
採血から時間が経つほど低下するものなので、
検査結果が40だからと言って、
即それが異常値とも言い切れません。

ただ、血糖の低下に伴って、
意識がなくなったり痙攣が起こったりすれば、
それはもう異常な症状です。

手の震えや頭痛、発汗などの症状は、
交感神経の反射的な興奮によるものなので、
正常でも起こることがありますが、
意識障害や痙攣は、
脳に栄養であるブドウ糖が供給されず、
脳の働きに異常を来たした状態なので、
その時点で即異常と判断出来るのです。

低血糖の発作が頻繁に起こると、
その患者さんはその状態に次第に順応するようになります。

そうなると交感神経の反射は鈍くなるので、
あまり頭痛や冷や汗は起こらなくなり、
何の誘因もなく、
いきなり倒れたり、痙攣を起こしたりする、
というように症状は変化します。

また、精神錯乱や異常行動を、
低血糖に伴って起こすこともしばしばあります。
これは低血糖による意識レベルの低下に伴って、
脳の一部の異常興奮が惹起されたものと、
考えることが出来ます。

低血糖は身体にとって不快なものなので、
患者さんはそれを回避するように、
生活を変化させます。

具体的には始終間食をするようになり、
そのため体重は増加します。
長期間の繰り返す低血糖は、
器質的な脳のダメージを起こすので、
患者さんは次第に普段からぼんやりして、
ふらつきやだるさを訴え、
活動は緩慢になります。

こうした状態はうつ病のようにも見えますし、
ご高齢の方では認知症のようにも見えます。
時々興奮して暴れれば、
統合失調症かとも思われますし、
痙攣の発作を起こせば、
てんかんが疑われます。

つまり、低血糖はその可能性を積極的に疑わなければ、
診断が極めて困難な症状なのです。

多くの医者は突然の意識消失や精神錯乱を見れば、
当然低血糖を鑑別の1つには考えます。
ただ、1回血液を測定して血糖値が低くなければ、
それでその可能性を簡単に否定してしまうことが、
往々にしてあると思います。

実際には病院に運ばれた時点では、
低血糖は改善しているケースも多いのです。
従って、低血糖発作を疑えば、
少なくとも12時間は絶食の状態で、
血糖値とインスリン値とCペプチド値とを、
同時に測定しておく必要があります。

Cペプチドは、
インスリンがその前駆物質から出来る時に、
同時に血液の中に発生する、
インスリンの材料の切れ端ですが、
肝臓で分解され難いので、
インスリンより発作から時間が経っても、
高値が持続し易いのです。

また、インスリンを故意に注射して、
低血糖を起こすという犯罪行為が、
問題になることがありますが、
この場合の低血糖では、
Cペプチドは上がらないので、
その鑑別にも有用なのです。

従って、これを必ず同時に測る、
ということが一番のポイントです。

低血糖の原因は何でしょうか?

一番多い原因は糖尿病の治療で、
インスリンを打ったり薬を飲んでいて、
それが効き過ぎることによる、
一種の副作用ですが、
そうした薬剤の使用が否定的だと、
それ以外で多いのは、
インスリンを分泌するような腫瘍の存在です。

この腫瘍は主に膵臓に発生し、
インスリノーマと呼ばれます。

これ以外に、
インスリンに対する抗体が出来る、
というインスリン自己免疫症候群(平田病)という病気、
また膵臓全体が腫れてインスリンが多く出る、
膵島細胞症、更にはインスリンに似た作用のある、
IGFというホルモンを分泌するような腫瘍も、
稀ですが報告はされています。

明日はこの中でも最も多い、
インスリノーマについて、
僕の経験した事例も含めてご紹介したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

midori

奥様お大事になすってください。
by midori (2010-10-05 12:45) 

acco

お仕事がご多忙な事、お察しします。
きっと、奥様もご理解されていらっしゃると思います。
(私も入院中は、主人より実家の母に頼っていました)。
時間を共有するだけが、優しさではありません。
☆ 先生こそ、お身体ご自愛下さい ☆
by acco (2010-10-05 17:51) 

MDISATOH

Dr.Ishihara 非常に勉強に成りました。

私のあるSchizophreniaの病友は、Diabetes Mellitusも合併して
いますが、血糖値を下げ過ぎて、2回ほど低血糖で、倒れて意識が無くなり、一人で住んでいる為に、3日間位倒れていたと聞きました。
かなり危険な状態だったと思います。

ドラマでBipolar Disorder に誤診されるのは、驚きです。
簡単に誤診して欲しくないです!
by MDISATOH (2010-10-06 06:58) 

fujiki

midori さんへ
ありがとうございます。
by fujiki (2010-10-06 08:27) 

fujiki

acco さんへ
ありがとうございます。
今日は何とか行けそうです。
by fujiki (2010-10-06 08:28) 

fujiki

MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。
総合診療を扱ったドラマや番組が多いのですが、
何かクイズ的な感じが強く、
病名の扱いも無雑作なのが、
ちょっと違和感を感じます。
by fujiki (2010-10-06 08:34) 

A・ラファエル

奥様の再入院、大変ですね。
自分が二人欲しい時かもしれませんが、
奥様共々ご無理はなさらないようにと願います。
by A・ラファエル (2010-10-06 10:22) 

fujiki

A・ラファエルさんへ
ありがとうございます。
by fujiki (2010-10-07 08:02) 

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