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1年間で投薬が不要になった糖尿病の1事例 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はHbA1c が12.3%で、
空腹時血糖が278mg/dl であった患者さんが、
1年余で投薬も不要となり、
HbA1c が5.2%、空腹時血糖が84mg/dl になった、
という糖尿病の実際の事例をご紹介します。

別に特殊な事例ではありませんし、
目新しい点が何かある訳ではありません。

ただ、その経過はかなり劇的で、
糖尿病でご治療を続けている、
多くの皆さんのご参考にある点があればと思い、
ご紹介をさせて頂きます。

なお、実際の診療所の事例を元にしていますが、
守秘義務及び患者さんの特定を避ける観点から、
敢えて事実を変えて記載した部分のあることを、
予めお断りしておきます。

患者さんはBさん、50代の女性です。

BMIは23ですから、
やや標準体重より多めではありますが、
肥満と言うほどではありません。

両親とも糖尿病で、
糖尿病の家族歴は濃厚にあります。

2年前の健診では血糖値は正常でしたが、
1年前の健診で正常やや高めの数値になり、
そして半年前から、口の渇きが強くなって身体がだるくなり、
今年の健診では前述の通り、
HbA1c が12.3%で、
空腹時血糖が278mg/dl という、
重症の糖尿病の状態となったのです。

空腹時のインスリンは12.4μU/ml ですから、
インスリンは出てはいるものの、
その出方は弱い、
というように判断されます。
このくらいの血糖になると、
糖毒性と言ってインスリンの分泌は抑えられますから、
この数値を見る限り、
インスリンが体質的に出ないタイプの糖尿病は、
まずなさそうだ、ということは言えるのです。

ただ、この方には橋本病があり、
自己免疫の関与するタイプの糖尿病は、
ないとは言えません。
その場合、このような急激な発症も、
おかしくはないのです。

それで抗GAD抗体という、
自己免疫関連の糖尿病で上がる抗体の数値を、
測定しましたが、その値は陰性でした。

診療所には専任の管理栄養士がいるので、
僕はBさんの食事及び運動の指導を、
管理栄養士に依頼しました。

接種カロリーを記録してもらうと、
1700キロカロリー程度と、
必ずしも高カロリーではありません。
しかし、その内容はかなり糖質と脂質に偏り、
また生活もかなり不規則で、
食事の量にもムラがありました。

それでカロリーはそのまま維持しながら、
糖質と脂質の比率を減らし、
蛋白質の比率は増やすように指導しました。
また、食物繊維やカルシウムを、
多めに摂るようにも指導を行ないました。

投薬はアマリールという経口糖尿病薬を、
1日1mgから開始しました。
この薬はSU剤と言って、
膵臓を刺激してインスリンを半ば強制的に、
出させるようなタイプの薬です。

治療開始後1ヶ月の採血では、
空腹時血糖は120台まで低下し、
2ヶ月後にはHbA1c も9%台に低下しました。

これはかなり反応は良いと考えることが出来ます。

アマリールを0.5mg まで減量しても、
血糖値は110代を維持していたため、
治療開始2ヶ月後には、
アマリールをグルファストに変更しました。
この薬はSU剤の一種ですが、
より短期的な効果で、
食後のインスリン分泌を刺激するだけの、
軽い効果の薬剤です。

グルファスト使用3ヶ月で、
空腹時血糖117、HbA1c は6.8%にまで低下しました。

最早軽症の糖尿病のレベルです。

体重はこの間に3キロ減少、BMIは22になりましたので、
これ以上の減量は望ましくないとの判断で、
ややカロリーを増やして、
体重は維持するように指導を続けました。

これは不思議に思われるかも知れませんが、
カロリーを少し増やしても、
血糖値は悪化はしません。

つまり、問題なのは栄養のバランスであって、
摂取カロリーではないのです。
勿論カロリーが必要レベルを超えていれば、
血糖は上昇しますが、
ある幅の中では、
バランスさえ取れていれば、
それほど血糖が上昇することはないのです。

治療開始後半年で、
薬剤をグルファストから新薬のジャヌビアに変更しました。

ジャヌビアはDPPⅣ阻害剤と言って、
SU剤とは別のメカニズムでインスリンを分泌させ、
膵臓の機能を保護する働きがあると言われています。

僕はここまで来たら投薬を止めることを目標にしよう、
と思っていたので、
理論的にはそうした効果を期待出来る、
DPPⅣ阻害剤を選択したのです。

ジャヌビア開始後3ヶ月で、
空腹時血糖は84、HbA1c 5.2と正常に復したため、
その後3ヶ月の投与後、
ジャヌビアを中止し、
栄養指導のみで経過を観察しました。

現時点で中止後2ヶ月が経過していますが、
血糖値、HbA1c 値とも、
正常の状態を維持しています。

このケースはやや急性の発症ではありますが、
通常の2型糖尿病と言って、
間違いではないと思います。

それでHbA1c が10を超えていて、
それほどの肥満がなく、
清涼飲料水を大量に飲むなどの、
急性に悪化するような外因がなければ、
普通は一生薬物治療が必要だ、
と考えます。

しかし、こうした発症の糖尿病は、
1年程度の期間で治る可能性があり、
その可能性を主治医は捨てるべきではないと思います。

ポイントは最初にSU剤を使用した時の、
その効果の感触にあり、
比較的速やかに血糖値が低下するようなら、
短期間で治る糖尿病である可能性が高まります。

この場合、SU剤が効くので良かった、
このままSU剤の治療を続けよう、
と考えてはいけないのです。
SU剤を長期使用すれば、
膵臓は疲弊し、二次無効と言って、
SU剤が効果のない状態にいずれは移行します。
そうなっては、絶対に膵臓の状態は元には戻りません。
つまり、SU剤が有効であれば、
次に考えることはなるべく早期に、
SU剤を減量中止する可能性を探ることなのです。

従って、その場合には患者さんにも覚悟を決めてもらい、
栄養指導と体重の管理を徹底してやってもらいます。

僕の考える栄養指導のポイントは、
身長や体重のみから摂取カロリーを算出し、
それを強制するような指導は行なわない、
ということです。

人間の身体には血糖値を正常に保とうとする、
強いバランスが働いていて、
その力をサポートすることこそが何より重要です。
従って、問題は栄養のバランスにこそあり、
それまでの摂取カロリーを大幅には変えずに、
バランスを調整するだけでも血糖値は改善するのです。
逆に厳しいカロリー制限のみを行なえば、
却って栄養失調の状態となり、
全身状態は悪化します。

患者さんのその時々の体重や数値の変化を見ながら、
柔軟に対応してゆく姿勢こそが、
何よりも大切なのではないかと僕は思います。

今日は短期間で改善し薬物治療も中止することの出来た、
糖尿病の事例についての話でした。

皆さんはどうお考えになりますか?

念のため補足しますが、
勿論全ての糖尿病がこのように投薬不要になる訳ではなく、
その病型や経過によって、
一生涯治療の必要となるケースも多く存在します。
僕が今日言いたいことは、
先入観は危険であり、患者さんの中には、
同じようなご経過に見えても、
短期間で改善が可能なケースも存在する、
ということです。
その点は誤解のないようにお読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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