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脈が早いと寿命が短いのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なのでカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
今日はレセプト残業で、
8時くらいまでは居残りの予定です。

それでは今日の話題です。

今日は脈拍数の話です。

脈拍の数が多いと早死する、
というような話を、
お読みになった方もあるかと思います。

ヒト以外の哺乳類においては、
心拍数が多いほど、その平均寿命は短い、
という法則が成り立つことが知られています。

平均寿命と一生涯の心拍数とを掛け合わせると、
その数値はほぼ一定になると言うのです。

この数百年に渡る寿命の延びが著しいヒトにおいては、
それほどクリアな結果が出ている訳ではありませんが、
それではヒトは他の哺乳類とは全く別なのかと言うと、
どうもそんなこともなさそうに思えます。

現時点でヒトにおいて、
はっきりと心拍数の限界が知られている訳ではありません。

従って、必ずしもヒトは脈が早いと寿命が短い、
とは言い切れないのです。

人間において、
脈が早い、ということの意味合いは何でしょうか?

心臓には自動性があります。
つまり勝手に動いているのです。

そのリズムはある幅の中では一定ですが、
刺激を受けるとその刺激により、
心拍数は増加します。

その刺激の主体は交感神経の刺激です。

緊張すると心臓が早くなるのは、
交感神経の緊張が、
心臓を刺激して心拍数を増すのです。

従って、脈拍の増加は、
交感神経の緊張状態の反映と、
通常は考えられています。

その関わりが顕著な病気は、
甲状腺の機能亢進症です。
甲状腺ホルモンは強く交感神経を刺激するので、
その作用により脈拍は増加します。

甲状腺機能亢進症で脈拍数が100を超えないことは極めて稀で、
通常は110を超え、130程度になることも稀ではありません。
従って、甲状腺機能亢進症なのに、
脈拍が100を切る時は、
逆に脈拍を上げ難いような、
心臓の異常を疑います。
ご高齢の方の甲状腺機能亢進症では、
脈拍が正常のケースがあり、
これは心臓の交感神経に対する反応が、
加齢により低下しているためと考えられます。

さて、実際の寿命と脈拍数との関係は、
必ずしも明らかではありませんが、
多くの病気と脈拍数とに関連性があることは、
多くの大規模な臨床研究から明らかになっています。

まず将来の高血圧との関連が知られています。

脈拍数が高いと高くない人に比べて、
高血圧の発症が2~3倍は多いというデータがあります。
1970年代のシカゴ疫学研究と呼ばれる大規模な研究では、
心拍数は4~5年後の高血圧の予測因子であったと報告されています。

つまり、交感神経の過緊張があるか、
交感神経の緊張に対して心臓が敏感であると、
結果として長期的には心臓に余分な負荷が掛かり、
その持続が血圧を上昇させるのでは、
と考えられます。

更には心筋梗塞や心臓が原因となる突然死が、
脈拍の多さと関連がある、という報告も複数存在します。
これらのデータは、何故か男性でその関連が強いのがその特徴で、
女性ではその関連性ははっきりしないか、
弱いものに留まっています。

特に男性の心臓突然死については、
脈拍が増加すると、
死亡の割合は直線的に5倍にまで跳ね上がっています。

ただ、その一方で心臓死と脈拍数には、
はっきりとした関連性はなかった、
というデータもあり、
この点についてはまだ見解は一定はしていないようです。

心拍数増加が、
コレステロールの増加や肥満、
血糖の上昇などにも影響を与えていることを、
示唆するような報告もあります。

仮説としては交感神経のα受容体の刺激により、
血管が収縮して筋肉への糖の取り込みが低下し、
インスリン抵抗性が生じるのだとされますが、
それに相反するようなデータもあり、
この辺りははっきりはしていません。
交感神経の刺激が、
レニンというホルモンを上昇させることは間違いのない事実で、
このレニンがアンジオテンシンやアルドステロンといった、
血圧を上昇させ、動脈硬化を進めることも事実なので、
交感神経の過緊張が、
全ての原因なのだと考えれば、
一応の理屈は付くことになるのです。

実際に脈拍数の増加が、
その原因であるのか結果であるのかは明らかではありませんが、
脈拍の増加と多くの心臓以外の病気の死亡との間にも、
関連性があるのは事実のようです。

それでは脈拍の早い人は、
どのようにして将来の病気のリスクを回避すれば良いのでしょうか?

明確な処方箋は現時点ではありません。

適度な運動は運動耐容能を上げ、
全体として脈拍を低下させる方向に向ける役には立つでしょう。
ストレスは交感神経を刺激する要因ですから、
リラクゼーションも有効と考えられます。

β遮断剤というタイプの心臓や血圧の薬は、
脈拍を下げる作用があり、
状況によってはそうした薬剤の使用が、
状態を改善する可能性があります。
ただ、脈拍の上昇のみに対して、
果たしてこうした薬剤が長期間の使用でメリットがあるのか、
端的に言えば病気の発症を予防するのかどうかについては、
現時点でははっきりした根拠はありません。

今日は脈拍と病気との関係についての話でした。

明日は薬と脈拍についての話の予定です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ぷくぷく

先生、こんにちは。いつもブログを拝見しています。
私は50歳女性です。
小さいときから緊張しやすく、すぐに脈拍が120程まで上がります。階段を昇ったりすると、同じく上がります。普通に動いているときは80から90ぐらいだと思います。安静にしていると、70から80ぐらいです。
ずっとそうだったので、気にしていませんでした。
2年前に上室性頻拍になり、年に2回ほど発作がありますが、止めるコツもつかめたので、アブレーションはせずに様子を見ています。
昨日、動悸を感じたので、循環器専門医を受診しました。公立の循環器病院の院長もされていた先生で、心電図とエコー検査をした結果(24時間心電図はしませんでした)、今回は期外収縮で、気にしなくてもよいと言われました。
ただ、普段から脈拍が速いのは、上室性頻拍に繋がりやすいし、何より心臓のためによくない。心拍数と寿命とは明確に関連性があり、今後は毎日ビソプロロールフマル酸塩錠を通常の半量の一日2.5㎎飲んだ方がいいと言われました。
受診時も緊張しており、脈拍は110ありました。
でも、普段はそこまで速くないですし、ずっと飲み続けるのは抵抗があると伝えると、この薬は副作用は心配ないが、気になるなら一日おきとか、緊張しそうな時に頓服として飲んでもよいと言われました。それで、しばらくは飲んでみようかと思っています。
そこで教えていただきたいのは、脈拍は薬を飲んでまで下げないといけないのでしょうか?先生のブログには、女性はあまり関係ないようだと書かれていますね。
それと、やはり副作用です。ずっと飲み続けるつもりはないのですが、日によって飲んだり飲まなかったりするのは、却って体に悪くないのでしょうか。
先生なら患者さんに服薬を勧められますか。
どうぞよろしくお願いいたします。
by ぷくぷく (2016-05-08 09:14) 

fujiki

ぷくぷくさんへ
心拍と寿命との間に、
一定の関連があるというデータのあること自体は事実ですが、
薬でそれを下げることが、
寿命の延長に結び付くというようなデータはないと思います。
従って、
循環器の先生のご判断自体は、
納得のゆくものだと思いますが、
それが本当に体に良いかどうかは、
分からない、というのが実際だと思います。
どちらかと言えば、
継続した方が脈拍は安定しやすいと思いますが、
量も少量ですし、
頓服的に使用されても、
大きな問題はないと思います。
個人的には、
動悸などの症状がなければ、
必ずしも飲まなくても良いのではないかと考えます。
by fujiki (2016-05-08 17:32) 

ぷくぷく

石原先生へ
こんなに早くお返事をいただき、ありがとうございました。
私も主治医のおっしゃることは分かるのですが、毎日薬を飲むことには抵抗がありますので、緊張が続くときに頓服的に飲んでいきたいと思います。その飲み方でも問題ないとのお返事を石原先生からいただいたことで、安心しました。
それと、厚かましいのですが、もうひとつお聞きしてもよろしいでしょうか。
今回の動悸で受診した折(1度だけドクンとなるものが何度かありました)、1分程度の心電図と、エコー検査(15分間のエコー検査中も、右手首と右足首だけ器械で挟まれ、心電図を取ると言われたように思いましたが、私の勘違いでしょうか)だけで期外収縮と診断していただいたのですが、24時間心電図は取らなくても大丈夫なのでしょうか。期外収縮の場合は、回数や何連発かを調べるために、必須と書いてあった記事を見たので、少し気になりました。こちらからお願いしたほうが良かったでしょうか。
心電図に期外収縮が記録されていたのかどうかについては、主治医に聞きそびれてしまいました。
by ぷくぷく (2016-05-08 21:42) 

fujiki

ぷくぷくさんへ
通常は動悸やめまいなどの症状のない不整脈は、
24時間心電図までは取らないで良いと思います。
ただ、その辺は絶対ではなく、
どういう病気を疑うかにもよるので、
一概には言えません。
様子を見て良いと思いますが、
気になるようでしたらもう一度受診をして頂くのが良いと思います。
患者さんを診察しないでご返事出来るのはここまでです。
by fujiki (2016-05-10 07:11) 

ぷくぷく

石原先生へ
再度お返事いただきまして、ありがとうございます。
ご説明はよく分かりました。
今度受診したときにでも相談してみます。
この度はありがとうございました。
by ぷくぷく (2016-05-10 07:49) 

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