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PSA検診は必要なのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は先月の診療報酬の請求のチェックをする予定です。

それでは今日の話題です。

昨日に引き続いて、
前立腺癌の診断の話です。

前立腺癌の検診として、
血液のPSAという数値を測る検診が、
多くの自治体で行なわれています。

診療所のある渋谷区では、
このPSA検診は行なわれていないので、
診療所を受診される50歳以上の男性の方に関しては、
なるべく1年に一度のPSAの検査をお勧めしています。

ただ、この検診には色々と問題のあることも事実です。

今日はその点を纏めておきたいと思います。

2010年増補版の「前立腺癌検診ガイドライン」によると、
PSA検診は住民検診では50歳以上、
人間ドックでは40歳以上の男性に推奨されていて、
その基準値は0~4ng/ml です。
要するに4を超えれば異常値、ということになる訳です。
この正常値以外に、
年齢別の正常値も存在して、
この場合は64歳以下は3までが基準値で、
65~69歳は3.5まで、
そして70歳以上は4までとなっています。

この基準値の違いは、
比較的若い年齢層では、
低めの数値でも癌の見付かるケースがある、
という知見を元にしています。

PSAが基準値を超えれば、
泌尿器科専門医の受診をするべき、
とされています。
基準値以内であって、
1以下であれば、3年後の検診で良く、
1.1以上であれば1年後に再検査を行ないます。

PSAが上昇していた場合に行なう診断のための検査は、
前立腺を触ってその硬さや表面の性状を見る直腸診と、
前立腺に針を刺して細胞を取る生検とが主なものです。
超音波やMRI などの画像診断が併用されることもあります。
厳密に言えば、確定診断は生検のみで可能です。

生検はそれほどリスクの高い検査ではありませんが、
大腸を刺し貫いて前立腺に針を刺すので、
尿道の出血や血便、精液に血が混じる血精液症、
感染症などの合併症があります。
このうち治療を要したものは、
日本の統計では1000人に8人で、
重篤な合併症の敗血症は、
1万人に7人と報告されています。

ただ、生検をして見付かった癌の中には、
そのまま放っておいても問題のない、
「潜在癌」と呼ばれるものが混じっています。
癌の組織形その他から、
それはある程度判断可能ですが、
それでも不必要な手術などの治療が行なわれるケースが、
往々にしてあると言われています。

2007年に厚生労働省の研究班は、
PSA検診が国や自治体が実施する検診として適切であるかを議論し、
「死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分なので、対策型検診として実施することは推奨しない」
という報告を行ないました。

つまり、PSA検診をしても、
癌による死亡が減るとは認定出来ない、
というのです。

これに対して泌尿器科学会は猛反発し、
議論は平行線のまま現在に至っています。

現在でも多くの自治体で、
PSA検診は行なわれており、
それは前述の泌尿器科学会のガイドラインに即したものです。

癌検診の有効性を死亡率の減少、
という観点で考えると、
PSA検診は幾つかの問題を孕んでいます。

その第一は年齢の問題で、
現行のガイドラインでは、
特に年齢の上限は設けていません。
しかし、昨日もお話しましたように、
現行のガイドラインに則って、
80代の患者さんの二次検査をお願いすると、
「こんなものは診断する必要はない」
と剣もほろろの対応をされます。
80歳以上の患者さんでの治療の有効性が、
確立されていないからです。

それならば、年齢を79歳までと区切るべきなのでしょうか?

そうした年齢の区分は、
本来は恣意的に行なうべきではないと僕は思います。

80以上の方でもPSAを計測することは無意味ではなく、
患者さんの将来の健康状態に関する、
重要な情報になるからです。

問題は過剰診断にならないように、
かつまた受診者の将来に不利益が生じないように、
PSAの数値をどのように利用し、
診断に繋げて行くか、ということだと思います。

治療が確立されていないものでは、
診断はするべきではない、
と言う考え方がありますが、
前立腺癌に関しては、
遺伝病のようなものとは異なり、
積極的治療はしなくても、
対応策は考えるべきだと思うからです。

前立腺癌は高齢者に多い病気なので、
その方の平均余命との関係、
ということが検診の有効性については大きな足枷になります。

少し古い文献ですが、
1993年の論文によると、
60代前半の悪性度の高い前立腺癌の患者さんでも、
手術などの根治療法を行なった場合の、
期待生存期間の延長は1年以内だったと書かれています。

つまり癌を早期に発見して治したとしても、
その方の生命は1年延びれば御の字だと言うのです。

前立腺癌による死亡を減らす、ということは、
他のご病気による死亡はカウントされないのですから、
ご高齢の方の場合、
治療が奏効したとしても、
結果として延命効果はなかった、
という結果になることが多く、
集団で検診により死亡が減少した、
というようなデータは得られ難いのです。

僕は個人的には80歳以上の高齢者の場合、
癌の進展による骨転移をどう予防し、
その痛みをどう緩和するか、と言う点が、
延命云々以上に重要なことだと思います。

その場合、PSAが10以下であれば、
殆ど問題にはなりません。
ただ、10を超えてそれも上昇傾向のある時は、
診断が適応外とされて専門医に拒絶された事例であっても、
主治医としてはその予防策を取るべきだと思います。

骨転移の早期発見のためには、
骨代謝のマーカーを、
PSAが10を超えれば定期的に測定し、
その上昇があれば可能性があると考えるべきではないかと思います。

また、血液の遊離テストステロンを測定し、
その方の男性ホルモンの状況を、
チェックすることも有用性が高いと僕は思います。

男性ホルモンが極めて低値であるにも関わらず、
PSAが上昇するとすれば、
それは腫瘍が存在し、
ホルモンには関わりなく増大している可能性が高い、
と考えられるからです。
その場合には、ホルモン療法はあまり期待が出来ない、
と考えるべきかも知れません。

遊離テストステロンがある程度存在し、
その条件下でPSAが上昇するとすれば、
ホルモン低下療法を、
PSAが10を超えるくらいのタイミングで、
始めるのは1つの考え方だと思います。

ただ、その長期間の使用は、
ホルモン療法の効果を失う結果になることも多く、
その使用のタイミングが問題となるところです。

その代用として、
前立腺肥大症の治療薬、デュタストリド(商品名アボルブ)があります。

この薬は前立腺での男性ホルモンの作用をブロックする薬で、
海外の臨床試験では、
前立腺癌予防効果が認められています。

ただ、癌が出来た場合、その悪性度がより増すのでは、
という同種薬剤の報告もあり、
果たして高齢者の癌進展予防に、
適した薬なのかどうかは、
まだ未知数の部分が残っています。

骨転移の進展を抑えるには、
強力に骨吸収を抑制する薬剤である、
ビスフォスフォネートと、
抗癌作用のある痛み止め、
COX2阻害剤の使用も、
1つの選択肢だと思います。

それでは今日のまとめです。

PSAの数値が10を超えれば、
骨転移など癌の進展のリスクが増えますが、
現行の診療体制は、
80歳以上の高齢者では、
積極的には診断も行なわない、
というレベルのものです。
しかし、そうした方の中でも、
癌の骨転移で苦しむ方が発生するのは間違いのないことで、
その予防としての意味合いが少しでもあれば、
毎年1回PSAを測定することは、
意味のある検診であり、
検査であると僕は思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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