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熱中症と心臓病の話 [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からバタバタとレセプトなどして、
時間がなくてイライラして、
昨日の嫌なことをちょっと思い出したりして、
何だかどうでも良いような、
馬鹿馬鹿しいような、
嫌だ、知らないうちに随分と年を取ってしまったし、
妻は今日から入院するし、
でもどうにか生きていかないといけないし、
とか、色々と考えつつ、
合間を見て今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は熱中症の予防と心臓病の話です。

先日熱中症の記事を書きましたが、
それについて質問を頂きました。

その方は建設業の作業の管理をされていて、
通常熱中症の予防のためには、
高温多湿環境での作業の時などは、
なるべくまめに水分と塩分とを補充することが必要だ、
ということになっていますが、
たとえば高血圧で治療中の方は、
極力塩分を控えるようにとの主治医の指導を受けていて、
そういう指導を行なっても、
「医者から塩分は取らないように、と言われているから」
と塩分を取らない場合がある、
と言うのです。

なるほど、と思いましたし、
ちょっと考えさせられました。

熱中症の予防ということについては、
メディアでも盛んに報道され、
専門家のアドバイスなども紹介されています。
しかし、その一方で、
高血圧や心臓病の患者さんでの予防法と、
一般の方での予防法とで異なる点があるのか、
というようなことについては、
あまり明確には書かれていないことが殆どです。

ポカリスエットをガンガン飲めば良いのだ、
と言う意味合いのことが言われますが、
ポカリスエットには1リットル当たり、
1.2グラム程度の塩分が含まれています。
そのことが、普段塩分や水分の制限を受けている患者さんで、
同じように適応出来るものなのでしょうか?

教科書を捲っても、文献を検索しても、
どうもこうした疑問に明確に答えてくれるものはあまりありません。

それで今日はそうした、
作業管理者から見た熱中症予防の、
各論的な話をしてみます。

まず、ポイントは高血圧や心臓病の患者さんで、
より注意が必要なことは、
その方の心臓の働きが低下していないかどうか、
ということ、
すなわち心不全がないか、ということです。

現在ご治療を受けている方であれば、
心不全のあるなしは、
大雑把にはそのお飲みになっている薬で分かります。

ラシックス(フロセミド)というタイプの利尿剤を、
常時飲まれている方は、
心臓の機能の低下があることが殆どです。

心臓のご病気があって、
強力なタイプの利尿剤を常時服用しているということは、
身体の血液の量を少し絞っておかないと、
心臓がポンプとしての働きを充分に行なえないことを示しています。
更には利尿剤を使用する、ということは、
塩分を身体の外に出す、という働きを持っています。
過剰の塩分も、心臓にとっての負担になるからです。

つまり、心不全で利尿剤を使っている患者さんは、
常に脱水状態にあるのであり、
また塩分が欠乏した状態にもある訳です。
本来は良くないことですが、
心臓に負担を掛けないために、
他の身体の条件を、
ある程度犠牲にしているのです。

ここで心不全で利尿剤を飲んでいる患者さんが、
高温多湿の環境に、
長時間置かれたとしましょう。

周囲の熱の影響で体温は上昇し、
身体はその熱を逃がすために、
血管を広げ、汗を掻き、脈拍を上げて、
心臓の働きを活発にさせようとします。

しかし、元々脱水状態で心臓のバランスを取っている患者さんでは、
その脱水は進行してすぐに汗を掻けない状態となり、
脈拍が上がると心臓に負担が掛かって、
その上血管が広がるために、
急激に血圧は低下します。

つまりあっと言う間に熱中症の状態になり、
かつ心不全は急速に進行してショック状態になります。

勿論症状が悪くならないうちに、
喪失した量と同程度の水分と塩分とを、
補充することはその予防にはなるでしょう。

しかし、急激に大量の水と塩が身体に入れば、
却って心臓に負担が掛かり逆効果になります。

従って、補充は少量ずつ慎重に行なう必要があります。
ポカリスエットのようなものを、
20分おきに100ml のように、
ちびちびと飲む訳です。

水分の喪失量がそれほどでなければ、
塩分の補充は必要ないかも知れません。
つまり、心臓病の患者さんは、
概ね塩分は蓄積傾向があるため、
短時間の喪失では補充しなくても大きな問題はない、
ということです。
従って、補充はポカリではなく、
水やお茶でも通常は問題はないのです。

ただ、本質的にこうした患者さんは、
熱中症のリスクのあるような環境で、
仕事や運動をすることは危険で、
本来はするべきではない、と考えられます。

そこでポイントの1つ目は、

①心臓のご病気があって利尿剤を常時使用している方は、原則として高温多湿の環境での作業には従事してはいけない。

ということです。

次にβブロッカーという薬を飲まれている方のケースです。
メインテートやテノーミンという商品名がその代表ですが、
この薬は脈拍を上昇させないような働きがあります。
脈拍の早いタイプの心不全の患者さんや、
脈拍の早いタイプの高血圧、
また脈拍が急に上昇するような不整脈の患者さんが、
その主な対象になります。

この薬は非常に良い薬ですが、
熱中症にはなり易い薬でもあります。

つまり身体が高温になると、
熱を下げようとして身体は脈拍を上昇させます。

ところが、その時にβブロッカーを使っていると、
脈拍が上がらないために、
熱を下げる効率が低下し、
急激に熱中症が悪化し易いのです。
これは水分を補充したところで、
その解決にならないので、
より深刻と言えるかも知れません。

ただ、現在使われているβブロッカーは、
その効果は弱く、量も少量であることが多いので、
それほどの問題はないのでは、
と思わなくもありません。

ただ、矢張り慎重に考えるに越したことはありません。

それでポイントの2つ目は、

②βブロッカーを常用している方は、原則として高温多湿の環境下の作業には、従事してはいけない。

ということになります。

現在使用されているそれ以外の大部分の血圧の薬は、
血管を広げることによって、
血圧を低下させる作用の薬です。

このタイプの薬は身体が熱を逃がすために、
血管を広げる時により血圧が低下し易い、
という点を除けば、それほど熱中症の悪化に関わりはありません。

従って、こうした薬を使用していて、
血圧のコントロールが良好な方に関しては、
水分と塩分を補充しつつ作業を行なえば、
通常の方とそのリスクは変わらない、
と考えても良さそうです。

この場合、水分と塩分の補充は、
その作業時に限って言えば、
高血圧のない方と同じように考えて、
問題はないものと思います。

すなわち、別にポカリを使っても、
その塩分を気にする必要はないと思います。
ポカリで補充出来る塩分は、
1リットル当たりせいぜい1.2グラムで、
それ以上の量が喪失していることは間違いがないのですから、
その塩分は気にする必要はないのです。

それでポイントの3つ目は、

③心不全がなくβブロッカー以外の薬で良好にコントロールされている高血圧患者さんでは、通常と同様の熱中症予防策を適応して問題はない。

ということになります。

よろしいでしょうか。

明日はこれも質問の多い、
糖尿病の患者さんの熱中症予防について考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 15

ゴンタ

石原先生
おはようございます

早速記事にしていただいて、ありがとうございます。
とても参考になります。

暑い日が続きますがお体に気をつけてください。


by ゴンタ (2010-08-06 09:04) 

まみしゃん

今日は札幌でも、猛暑日になると言う予報ですが・・・たぶんそうなるだろうというくらい今の時間でも暑いです^^;

脱水状態を防ぐためにスポーツドリンクというのはよく聞きますが、ペットボトル症候群という言葉もありますよね?

1日に1.5ℓ水分を取るように言われている父は、麦茶にほんのひとつまみの塩を入れて飲むと言っていました。

私も糖尿病にはなっていませんが、血糖コントロールに気をつけなければいけない身なので、明日の記事も楽しみにしています。

奥さま、お大事になさってください。
by まみしゃん (2010-08-06 09:05) 

midori

奥様お大事に.
by midori (2010-08-06 10:42) 

A・ラファエル

奥様の状態が速やかに良好になられますよう
お祈り申し上げます。
by A・ラファエル (2010-08-06 16:50) 

yuuri37

先生も人間なんだ・・・
生きていくって大変、
でも大変だから、生きているって事なんだよね。
ガ・ン・バ・レ!!

ごめんなさい。偉そうに、Web上ぐらい許されますよね。
えっ やっぱ駄目ですか・・・
申し訳ございません。以後気をつけます。^^;
by yuuri37 (2010-08-07 02:29) 

fujiki

ゴンタさんへ
コメントありがとうございます。
少しでもお役に立てば幸いです。
正直ちょっと夏バテ気味です。
by fujiki (2010-08-07 06:16) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。

麦茶に塩を一つまみ、というのは、
非常に良いアイデアだと思います。
お気使いありがとうございます。
by fujiki (2010-08-07 06:17) 

fujiki

midori さんへ
お気遣いありがとうございます。
急病ではなく、
予定された手術なので、
体調は別に問題はないのです。
ただ、妻は以前医療ミスで死に掛けているので、
入院というだけで、
どうしても不安は覚えます。
by fujiki (2010-08-07 06:24) 

fujiki

A・ラファエルさんへ
お気遣いありがとうございます。
by fujiki (2010-08-07 06:31) 

fujiki

yuuri37 さんへ
コメントありがとうございます。
お互いにどうにか頑張りましょうね。
by fujiki (2010-08-07 06:33) 

ゆきみつ

TVのニュースで熱中症対策の報道をしているのを見ながら、
「水分」と「塩分」を十分に・・・って、心臓疾患の対策と反してる!!
どうすんだろなぁ?とググる検索で辿り着きました。
判りやすい解説でした。でも、なかなか実践難しそうです。
蒸し暑いトコ行かないのが一番ですが、、、。心掛けたいと思います。

薬の名前が載っていたので判りやすかったです。
毎日服用してる薬を見ると、ラシックス、アルダクトン(どちらも利尿剤)、
ハーフジゴキシン、アーチスト、レニベーゼ(血圧低下作用とか)とかで
ヒットしまくりな感じです。
面倒ですが、自分の体なので気をつけるしかないですね。
by ゆきみつ (2010-08-09 22:24) 

fujiki

ゆきみつさんへ
コメントありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば、
非常に嬉しいです。
身体の不調に早く気付くことが、
一番大事かも知れません。
まだまだ暑い日が続きそうですので、
ご注意下さい。
by fujiki (2010-08-10 06:17) 

ゴンタ

石原先生、おはようございます。
お身体の調子はいかがですか。心配です。

改めて、先生の記事を見て勉強させていただいています。
疾患別に書かれてあるので、すごく勉強になります。

質問させてください。心不全の患者さんは、利尿剤を飲んでいるために、身体の中の水分と塩分も同時になくなっている。そして、利尿剤を飲んでおくのは、塩分をもともと減らしておかないといけない状態であるからで、そのために、塩分まで補う必要は必ずしもないということでしょうか。ここまでで、私の解釈は間違っていますか?

そのあとの『心臓病の患者さんは、概ね塩分は蓄積傾向があるため』 というのは、どういう事でしょうか。不勉強で分かりません涙
よろしければ教えてくださいませんか。


by ゴンタ (2010-08-10 09:12) 

fujiki

ゴンタさんへ
コメントありがとうございます。

心不全があると、
概ねアルドステロンというホルモンが上昇します。
これは心不全で血液量が減るのを、
代償する役割があるのですが、
このホルモンには、
塩分を保持する働きがあるので、
おしっこから排泄される塩分は減り、
身体は塩分を貯め込むようになります。
これが結果として心臓に負担を掛ける、
悪循環になる訳です。

利尿剤はそのホルモンの作用に拮抗して、
塩分を身体の外に出す働きがあるのですが、
その効果を強くすれば、
身体は高度の脱水になって、
腎臓の働きは低下してしまいます。
従って、そうならない程度に利尿剤を使用するので、
心不全の患者さんは、
そうでない人よりは塩分が不足した状態にはありますが、
それでも心臓のためには、
やや塩分は過剰であるとも言えるのです。

汗を掻いて脱水になる時には、
個人差はありますが、
汗は基本的に血液より塩分濃度は低いので、
水の喪失量の方が塩分の喪失量より多くなる訳です。

従って、元々ホルモンの関係で、
塩分が溜まり易い心不全の患者さんでは、
塩分の喪失が高度でなければ、
それほど塩分の補充を重視する必要はないと考えられます。

ただ、喪失が高度になれば、
塩分の補充も必要になります。
しかし、その場合はもう、
点滴で補充すべき状態になっていると思います。

つまり、心不全の患者さんは、
大量の汗を掻くような状況自体が、
身体の状態を悪化させるので、
汗を掻く以外の方法で、
熱に順応する方策を取った方が良いのです。
室温を下げたり、湿度を下げたり、
身体の表面に水を撒いたりと言った方法で、
体温調節を発汗に頼り過ぎないことが、
何より大切ではないかと思います。

こんなところでお答えになっているでしょうか?
by fujiki (2010-08-10 21:34) 

ゴンタ

石原先生 こんにちは

早速に、大変丁寧で解りやすい解説をしていただきましてありがとうございました。

とても勉強になりました。

先生も、奥様もお身体を大切になさってください。

今後とも宜しくお願いします。

by ゴンタ (2010-08-11 11:59) 

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