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PPAR(ピーパー)の話

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はPPAR(ピーパー)の話です。

PPARとは何でしょうか?

PPARs(Peroxisome proliferator-activated receptors )とは、
細胞の核の中にある蛋白質で、
多くのDNAの発現や活性などを調節する働きを持っています。

これを核内受容体型転写因子と言います。

PPARにはα、β、γの3種類が知られています。

最初に見付かったのがPPARαで、
これはカエルのペルオキシダーゼという酵素の活性を、
調節するような作用がありました。
つまり、ある種の蛋白質などが、
このPPARαにくっつくと、
それが仲介をする形で、
ペルオキシダーゼが活性化されます。

次に見付かったのはPPARβですが、
これは魚類やカエルにはあるけれど、
人間のような哺乳類にはなく、
その代わりに4番目に見付かったPPARδが存在します。
つまり、進化の過程で、PPARβはδになった、と考えられるのです。

3番目に見付かったのがPPARγで、
現時点で人間においてその働きが重要視されているのは、
主にαとγの2種類です。

PPARαは遊離脂肪酸という脂肪酸がくっつくと、
それによって活性化されて、
脂肪酸のβ酸化を促進します。
そうなると血液の中性脂肪は低下します。
つまり血液の中性脂肪を適切な状態に保つために、
PPARαは働いていると思われます。

このことに注目して創薬された薬が、
ベザフィブレート(商品名ベザトール、ベザテートなど)です。
総称して、フィブラート系の薬剤、と言われています。
このフィブラートはPPARαの刺激剤です。
つまり、この薬を飲むと、
PPARαが刺激され、
それにより主に脂肪の代謝にかかわる遺伝子が、
次々と活性化されます。
その結果として中性脂肪は分解されて低下するので、
この薬は中性脂肪の降下剤として使用されています。

PPARβもしくはδは生体のほぼ全ての細胞に存在し、
その役割はまだ明らかではありません。
その活性を高める薬剤というものも、
創薬はされていません。

次に人間にとってPPARαと並んで重要な働きを持つ
(と現時点では考えられている)、
PPARγの話に移ります。

PPARγは生体ではプロスタグランジンという炎症物質の1つと結合し、
それにより複数の遺伝子を活性化させます。
PPARγには幾つかの種類があり、
それぞれに特徴もありますが、
共通の作用と思われるものもあります。

最も知られているのはインスリン抵抗性を改善する作用です。
PPARγの活性化は、脂肪細胞に作用し、
大きな脂肪細胞を小さくし、
アディポネクチンというインスリンの効きを改善するサイトカインを、
増加させてインスリン抵抗性を改善します。

つまり内臓脂肪の増加による、
所謂メタボリックシンドロームの状態を、
PPARγの活性化は元に戻すような働きがあるのです。

これが事実であるなら、
PPARγを活性化させるような薬があれば、
それはメタボリックシンドロームの特効薬になる筈です。

当然そうした薬が開発されました。

PPARγの刺激剤を、
チアゾリジンと総称しています。
何種類かの薬剤が発売されていますが、
日本で現在使用されているのは、
ピオグリタゾン(商品名アクトス)だけです。

このアクトスはインスリン抵抗性を改善する作用は確認されていて、
また動物実験のレベルでは、
動脈硬化そのものを改善することも確認されています。

しかし、実際に人間に使用した検討では、
残念ながそれほどクリアな結果は出ていません。

ピオグリタゾンと同じPPARγ刺激剤であるロシグリタゾンは、
その使用により心筋梗塞の発生が増える、
という疑惑が明らかになりました。
動脈硬化を改善する筈の薬で、
動脈硬化の病気である心筋梗塞が増えるのですから、
こんなおかしなことはありません。

アクトスに関しては、
現時点でそうしたデータはありませんが、
心不全の悪化は報告されています。
これは腎臓に存在するPPARγが活性化されることで、
身体が塩分を貯め込むために起こる現象だ、
と言われています。
また、部分的には脂肪の蓄積を促し、
体重も増加させる作用も報告されています。

つまり、PPARγが存在するのは、
脂肪細胞ばかりではないので、
他の臓器に同じように作用した場合、
その働きは必ずしも身体にとって良いものばかりではありません。
更には、脂肪細胞に対する作用にも、
相反するような部分があり、
一方では脂肪細胞の分化を促し縮小させると共に、
他方では脂肪の蓄積を促す働きもあるのです。

PPARγが活性化すると、
複数の遺伝子がそれにより活性化されます。
しかし、その中にはまだ、
その役割のはっきりしていないものもあります。
従って、現時点でのPPARを刺激する薬剤というのは、
それがどんなに慎重に使われていても、
一種の人体実験である、という側面は、
常に付きまとうものだと認識しておく必要があると思います。

チアゾリン系の薬剤以外に、
血圧の薬の1つであるテルミサルタン(商品名ミカルディス)にも、
PPARγ活性化作用のあることが、
最近明らかになっています。
この活性化作用はアクトスより弱く部分的なもので、
そのため体重増加や浮腫みのような副作用は、
生じ難いとされています。

それが本当なら製薬会社の方にとっては、
願ったり叶ったりの話ですが、
嘘ではないにせよ、ちょっとムシの良過ぎる気もするので、
今後の経過を注視したいと思います。

PPARというのは、
所謂メタボリックシンドロームの本質に関わる物質で、
非常に魅力的な性質を持っていますが、
まだその活性化によって、
身体で起こることの全てが分かっている訳ではなく、
それ故その刺激剤の使用には、
まだ慎重にその適応を見定める必要があるのだと、
僕は思います。

今日はPPARの総説でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

yuuri37

昨日のコメント欄のやり取りを見ていて色々なかたちのボランティアがあるんだなあと思いました。
夫も学校で給食をいただいて胸張ってたしw、石原先生もカッコいい^^v
私・・・なんだかショボンだなあ~><;
by yuuri37 (2010-06-12 10:25) 

fujiki

yuuri37 さんへ
そんなことはないですよ。
何の取りえもないので、
やれることを細々とやっているだけです。
外科には本当にあこがれます。
by fujiki (2010-06-13 12:10) 

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