SSブログ

想像力の限界について [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日から診療所は連休に入ります。
たまにしかないことなので、
どうかお許し下さい。

それでは今日は医療以外の話題です。

凶悪事件の時効が、
原則として撤廃された、
というニュースがありました。

僕は基本的にこの決定には賛成です。

これでまた冤罪が増えるのでは、
という意見もありますが、
それは何故被害者には時効はないのに、
加害者には時効があるのか、
という疑問には全く答えてはおらず、
構造的な不合理の問題を、
現実の捜査の質の問題にすり替えているだけの、
別種の意図が見え隠れしている意見だと思います。

ただ、実際に分かってみて驚くことは、
世界の多くの国で、
実際には凶悪犯罪における時効制度はなく、
これまで常識と思っていたことが、
嘘だった、ということです。

こうした話は、最近まで、
殆ど報道もされませんでしたよね。

世論を誘導する立場の人の発言の特徴ですが、
グローバルスタンダードみたいなことを大仰に言う時には、
日本の独自性のようなものに、
目を向けさせたくない、という意思があり、
逆に日本での事情を主張する時には、
グローバルスタンダードに、
目を向けさせたくない、何らかの事情があるのです。

僕が時効のない国もある、ということを知ったのは、
アメリカの「コールドケース」というドラマでした。
このドラマでは、時に50年以上前の事件まで捜査し、
その犯人を新たに逮捕します。
今放映されている「絶対零度」というドラマは、
かなり露骨なそのパクリですね。

時効制度というのは、
ミステリーの大きなテーマの1つでもありますが、
それでいて、日本で時効制度が廃止されるような設定のミステリーを、
僕は読んだことはありませんし、
多分そうした話はないのではないか、と思います。

ドラマは常に時効制度を前提として、
時効直前の犯人逮捕劇や、
時効前後の人間ドラマを描くことが殆どです。
時効になった犯人を、
被害者遺族が復讐する、
というような話も定番ですが、
これも時効制度の不備は付きながらも、
そうした制度が存在すること自体は、
一応は容認するところから、
その発想はスタートしています。

僕が何を言いたいのかと言うと、
「想像力」というのは如何にも自由な力のように思えるけれど、
所詮は人間はあまりその時代の枠組みから、
離れた発想など出来ないものなのだな、
ということです。

特に日本のような社会においてはそうですね。

この社会の本当の問題点は、
想像力を許さないことです。
でも、通常はその問題点は可視化されません。
何故なら多くの人は、
その人が恵まれているかいないかに拘わらず、
自分には自由な想像力があると信じているからで、
自分の行動や生活を制限するものは、
常に自分の外の世界にある、と信じているからです。

星新一や筒井康隆の作品は、
非常に好きで以前は良く読んだのですが、
当時は不滅の傑作と思えたものも、
今読んでみると、色褪せて古めかしく、
結局は時代という壁を越えていないことに、
今更ながらに気付かされます。
当時はセンスが良いと思われたものが、
今読むとやぼったく、
当時は斬新な発想と思えたものが、
今になるとただの「現実以下」にしか感じられません。
それでいて、作者の自分の自由な想像力に対する、
自負のようなものが強く感じられて、
これほどの天才にしてそうなのか、
というある種の絶望に近いものを覚えます。

時代に迎合する、という生き方を皆嫌いますよね。

でも、たとえば今の時代に迎合しない、
というのがどういう生き方か、と考えると、
ことはそれほど単純ではないという気がします。

時代を超える想像力があれば、
本当に素晴らしいことだろうなあ、
と思いますが、
実際には大多数の想像力は、
せいぜい10年くらいの時代の壁をも越えることは出来ず、
時代に迎合しないつもりで、
無意識に迎合しつつ生きているのが、
僕という存在なのだという気がします。

僕が今この瞬間に感じている不安や恐怖は、
多分時代の壁の中にあり、
その壁がなくなれば自然と消滅するものなのだ、
と思います。

でもそう分かっていてもね、
毎日の不安には勝てないですね。
不安の処方箋は迎合することで、
それがうまく出来ないと病気になります。

迎合せずに病気にならない方法は、
迎合すべき時代を超えた、想像力を持つことです。
僕は甘いのかも知れませんが、
まだ心の片隅で、
そうした想像力を信じているような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(28)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 28

コメント 4

a-silk

石原先生から、3000Niceを頂きました。
嬉しいです。ありがとうございます。

自分の行動や生活を制限するものは、
常に自分の外の世界にある、と信じているからです。

そう思います。確かに1歩進めば、壁や障害に出会いますが、
最初の一歩を、踏み止めるのは、自分の心だと思います。

最高に恵まれた、お天気になりました。
良い連休を過されるよう、願っています。




by a-silk (2010-05-02 09:46) 

fujiki

a-silk さんへ
こちらこそいつもご訪問ありがとうございます。
あれもしなきゃ、これもしなきゃ、
と焦っているうちに、
日が過ぎてしまいます。
急に電話が掛かって来るんじゃないかと不安になったり。
修行が足りませんね。
by fujiki (2010-05-03 14:06) 

midori

私も昔,筒井康隆にハマり,
授業中まで読んでいるので,よく先生に没収されました.
今読むと,ちょっとしんどいですね.
あの頃は,今のようなしつこい不安も変な焦りも無かったなぁ.
私が単に子どもだったからというのもあるでしょうが,
今とは社会の質がだいぶ違っているからかもしれません.

by midori (2010-05-05 15:41) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。

単純に古くなったとは思いたくないのですが、
時代が狂騒的過ぎると、
却って読むのがしんどくなりますね。
by fujiki (2010-05-05 22:05) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0