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花粉症と風邪の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は第4土曜日で、
午後は心療内科の専門外来があります。
朝からカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はシンプルに花粉症と風邪の話です。

今日辺りはもう終息傾向にあるようですが、
3月12日くらいから、
診療所の周辺では、
花粉症の症状の出る方が、
一気に増加しました。

また丁度同じ時期から、
咽喉が腫れて、鼻水と咳が出る、
風邪の患者さんも急激に増えています。

同じ時期から出現したこの2つの症状は、
果たして別々のものなのでしょうか?
それとも何か相互に関連性があるのでしょうか?

それが、今日の話題です。

花粉症というのは、
花粉を抗原とする、
季節性のアレルギー性鼻炎です。

その一方で、風邪は上気道を中心とした、
ウイルス感染に伴う症状です。

つまりこの2つの病気は、
基本的には明確に別物です。

ところが…

感染症とアレルギーというのは、
無関係ではありません。

アレルギー性鼻炎の患者さんが風邪を引けば、
アレルギー症状も悪化することがあります。
どうも普段より鼻が酷いな、
と思ったら、翌日に熱が出て、
実は風邪を引いていた、というようなことは、
よく経験することですね。
その一方で、たとえばインフルエンザで高熱が出ると、
アレルギー性鼻炎の症状は、
一時的に改善することもあります。

非常にシンプルに言えば、
花粉症のようなアレルギー性鼻炎は、
血液の中のIgE という免疫グロブリンの一種が、
その原因物質と考えられています。
しかし、その働きにはまだ不明の点が多いのです。
端的に言えば、何のために人間の身体にIgEが存在しているのか、
そのこと自体が不明なのです。

喘息もアレルギーの関与する病気の1つですが、
この場合、感染症で悪化することは、
ほぼ間違いがありません。
喘息の患者さんが、風邪を引いて喘息が悪化する、
というのはよく聞くことです。
しかし、風邪を引いたら喘息が一時的に良くなった、
などという話は聞いたことがありません。
つまり、喘息と感染症との関係は、
いたってシンプルです。

しかし、これがアレルギー性鼻炎はどうかと言うと、
実は相反するデータが得られています。
衛生仮説という考え方があって、
これは小さいお子さんの時期に、
感染症にあまり罹らないで育つと、
アレルギー疾患になり易い、
という考え方です。
寄生虫をお腹に飼っていると、
お腹の調子は良くなると言ったり、
昔の子供は青鼻を垂らしていたが、
花粉症やアレルギー性鼻炎にはならなかった、
世の中が清潔になり過ぎたのが悪いのだ、
というような意見は、
皆さんも何処かで聞かれたことがあるかと思います。
ただ、矢張りその一方で、
風邪に罹るとアレルギー症状が、
一時的に悪化することのあるのも経験的な事実です。

アレルギー性鼻炎は、
感染症で悪化するのでしょうか、
それとも変わらないのでしょうか、
はたまた感染症に罹った方が、
アレルギーにはなり難いのでしょうか?

結構難しい問題ですね。

この問題は基本的には結論は出ていません。

ただ、僕は最初の事例などを考えると、
風邪の流行と花粉症の流行とが一致して起こることに、
何らかの関連性があるのでは、
という考えを持っています。

風邪症候群の原因の代表格であるライノウイルスは、
その感染を受けても、
通常3分の1の方は症状が出ません。
つまり不顕性感染が結構あるのです。
これは個人のウイルスに対する抗体価とは、
あまり関連がないとされています。

僕の仮説はウイルス感染による個体の免疫反応が、
アレルギーにより干渉を受け、
そのために顕性の感染が増えるのではないか、
というものです。

つまり、風邪を起こすようなウイルスは、
常に存在はしている訳です。
それが時に症状を起こしたり、
起こさなかったりするのは、
その個体の免疫の状態と関連があり、
血液のIgE がその調節に重要な働きをしているのではないか、
という仮説です。

もしこれが正しければ、
花粉症の流行と共に、
風邪の流行が起こることは、
説明可能なのではないか、と思います。

最近はアレルギー疾患に対する、
early intervention という考え方が主流です。
つまりまだ症状が軽いか、殆ど出ていないような初期の時期に、
治療を開始した方がアレルギーの病気が悪くならないのではないか、
という考え方です。

花粉症の薬はまだ症状の出る前に飲み始めた方が良い、
という医者がよくいますよね。

ただ、その考えは、
少なくとも人間で立証されたものではありません。

たとえば、アレルギー性鼻炎から、
喘息に移行するケースがあるので、
アレルギー性鼻炎のうちに治療を開始した方が、
将来の喘息を回避出来るのでは、
という考え方があります。
しかし、実際には喘息から、
アレルギー性鼻炎を併発するようになるケースもあり、
ことはそれほど単純ではありません。

アレルギー性鼻炎でそうした早期治療を開始する、
ということを考えると、
必然的に早い時期から抗アレルギー剤を使用する、
ということになります。

抗アレルギー剤が、
全く無害な薬であるなら、
その考え方も成立するでしょう。

しかし、抗アレルギー剤は、
結局は免疫抑制剤の一種であり、
身体に無害な薬ではありません。

従って、僕はこの考え方が大嫌いで、
現状では抗アレルギー剤は、
必要最小限で使用するのが、
最も適切な方針だ、
と思っています。

現代は免疫のバランスの乱れ易い時代であり、
免疫の状態を正常に戻す治療の必要性が高まっています。
しかし、現時点で存在する治療は、
結局は免疫抑制療法であり、
一方向性のもので調整作用はありません。
真にこうした病気の早期治療ということを考えるのであれば、
それに適合した治療法と薬剤の開発が、
まず先決であるように僕は思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

今日は花粉症と風邪についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

北のほたる

nice!
http://kitanohotaru.blog.so-net.ne.jp/
by 北のほたる (2010-03-27 08:46) 

fujiki

北のほたるさんへ
「nice!」ありがとうございます。
by fujiki (2010-03-27 21:36) 

ヒイラギヤマ

花粉症ではないですが、私自身アレルギー性鼻炎に20数年悩まされています。少しの温度変化、体の冷え、空気中の何かに反応して鼻水、くしゃみが止まらなくなります。ここ数年は抗アレルギー剤を1年の半分は服用しています。ただ昨年の新型インフルエンザの流行以来
仕事中マスクを着用するようになり、薬を服用しなくてすんでいます。

以前かかっていた耳鼻科で体質改善ができるかもしれないと、当帰芍薬散と補中益気湯を処方されていました。10数年前です(転居しましたので今は行っていません)。その時は服用が苦痛で継続できませんでした。
免疫のバランスをとることと免疫力を高めることのはどう考えたらよいのでしょうか?
by ヒイラギヤマ (2010-03-28 07:51) 

ide

去年の高igE血症の記事から拝見させていただいています。右半身の関節痛、特に胆嚢付近の肋骨の痛みで膠原病科でアレルギー検査をしたところ1600ありまして、とりあえずアレグラを三カ月服用したところ、ヘントウ炎となり血液検査ではcrpは0、igEは5000まで上昇してしまいまして、
頭部ctを撮り副鼻腔炎と診断の元にクラリス錠を一日一錠5か月飲み続けました、今月服用を止めたところ、また喉頭炎の様なことになり発熱してしまいました。
今年で45歳の男性ですが、去年は強膜炎やら薬疹様アトピーやら散々でした。子供の時アレルギーらしかったのですが当時は病気とみなされず、成長と共に自然治癒したのですが、加齢による衰えなのでしょうか、非常に困っています。
膠原病のマーカーは全て陰性なのでIgEは体質ということで放置するしかなく、crp0の炎症で抗生物質処方してもらえる病院というのはなかなか無い一方でクラリス錠半年も飲み続けるという非常に面倒な状況です。
膠原病科では心療内科を勧められ、受診したところ統合性失調と言われエビリファイを進められる始末。
免疫システムの解明はまだまだ遠いですね。

by ide (2010-03-29 02:28) 

fujiki

ヒイラギヤマさんへ
コメントありがとうございます。

特殊な一部の病気を除いては、
免疫の低下があるのは、
免疫の一部の機能の亢進があるからで、
その意味では免疫のバランスを取ることが、
免疫を高めることとほぼ同一の意味を持つのだと思います。
by fujiki (2010-03-29 08:01) 

fujiki

ide さんへ
コメントありがとうございます。

重症喘息ではIgEに対する抗体が、
注射薬として使用されており、
その長期効果にはちょっと興味があります。
ただ、やや実験的な乱暴な治療の面はあると思います。
また、クラリスロマイシンから抗菌作用を抜いて、
免疫調節作用に特化した薬剤の、
開発は進められていて、
今のところ画期的な効果はないようですが、
それも1つのトピックではあります。

これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-03-29 08:08) 

ide

貴重な情報提供ありがとうございます。わからない状態というのが辛くていろいろ調べてはみるのですが、混乱するばかりで一向に症状の解明にはつながらないことばかり。つい書き込んでしまいましたが自分の体調相談は控えるようにします。体験談として読んでいただければ幸いです。
by ide (2010-04-10 01:04) 

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