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メニエール病の原因についての一考察 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
今日は久しぶりに早く家に帰るつもりです。

それでは今日の話題です。

今日は昨日に続いて、
メニエール病の話です。

予め弁解しておきますが、
今日お話する内容には、
ちょっと飛躍があります。
一般に認められたものではなく、
僕の個人的な考えなので、
どうか誤解のないようにお読み頂ければ幸いです。

さて、昨日はメニエール病の概論でした。
その中で、メニエール病の原因として、
「内リンパ水腫」という所見が認められていることをお話しました。

メニエール病の原因の1つが、
この「内リンパ水腫」であることは間違いはありません。

難治性のメニエール病に対しては、
海外では手術が盛んに行なわれていて、
それは「内リンパ水腫」を改善させる手術です。
簡単に言えば、内リンパの入っている蝸牛管に穴を開け
(正確には内リンパ嚢という部分を切開します)、
リンパ液を他の場所に逃がすのです。
手術をしてみると、
3分の2でめまいが改善し、
その効果は7年程度は持続することが、
幾つかの報告で明らかになっています。
従って、この一種の人体実験から、
メニエール病の原因の1つが、
「内リンパ水腫」であることは間違いないと言えるのです。

ただ、逆に言えば、手術をしても3分の1は治らないのですし、
その効果は永続的ではないのですから、
「内リンパ水腫」のみが原因であることも、
同じように正しくはないのです。

では、それ以外の原因とは、
一体何でしょうか?

メニエール病の経過はパニック障害の経過に、
非常に良く似ています。
また、片頭痛の経過にも似ています。

いずれもちらかと言えば女性に多く、
年齢も30代くらいに多く、
ストレスを誘因として発作を起こし、
その発作を繰り返して、
長い経過を取ることがしばしばあり、
その発作は自律神経症状を伴います。
またしばしば生理周期とも関わりがあります。
通常発作以外の時期には何も症状はありませんが、
慢性化すると、発作以外の時期にも、
体調不良が生じるようになります。
そして、これらの病気が合併することは、
稀なことではありません。

これだけ似通った現象には、
おそらくは同一か、同一ではなくても、
メカニズム的には似通った原因が存在する筈です。

一般的にはパニック障害の原因は脳にあり、
メニエール病の原因は蝸牛管にあり、
片頭痛の原因は神経の興奮とそれに伴う血管の拡張にある、
とされています。

しかし、それは個々には確かに事実であるとしても、
もっと本質的な原因が、
その裏に隠れているのではないでしょうか?

メニエール病の原因として、
提唱されている仮説の中には、
水分バランスを調節する、
アクアポリンという蛋白質の異常ではないか、
という説から、自己免疫疾患ではないか、という説、
ウイルス感染による蝸牛管の異常ではないか、
という説などがあります。

自己免疫というのは漠然とした考え方ですが、
もっと広い意味で言えば、身体の免疫のアンバランスが、
その原因です。
最近ある種の自己免疫疾患は、
ウイルスや細菌などの、
慢性化する感染症が、その誘因ではないか、
という説があります。

以前ご紹介したように、
サルコイドーシスという病気は、
アクネ菌というニキビの原因菌がその誘因ではないか、
という説があり、
またピロリ菌の除菌をしたら、
自己免疫の病気である特殊な糖尿病や、
関節リウマチ、血小板減少性紫斑病が改善した、
という報告があります。

要するに、自己免疫疾患と呼ばれている病気の多くは、
実は感染症をきっかけとして、
免疫にアンバランスが生じた状態なのであり、
その感染源を駆除することにより、
自然に病気そのものが改善する可能性が高いのではないか、
という考えが成立するのです。

メニエール病に関しても、
ヘルペスウイルスの仲間のウイルスが、
蝸牛管の周辺の神経に、
感染していることが確認された、
との報告が複数認められます。
(内リンパ液にヘルペスウイルスのDNAが確認された、
との報告まであります)

とすれば、メニエール病とは、
ウイルス感染に伴う、蝸牛周辺の免疫異常が、
その本態なのではないでしょうか?

問題はこの考え方が、
治療に結び付く可能性があるかどうかです。

ご存知の方も多いかと思いますが、
北海道の開業医の先生が、
1990年頃から、難治性のめまいの患者さんに、
アシクロビル(商品名ゾビラックスなど)を比較的長期間使用し、
8割以上の改善効果があったと報告。
それがマスメディアで一時取り上げられ、
かなり話題になりました。

それに対して、主に耳鼻科の専門医が、
「非科学的治療だ」と猛反発し、
学会もコメントを出すなどの騒ぎになりました。

しかし、現在では、メニエール病のウイルス説は、
決して「非科学的な」仮説ではなくなっているのです。

また、最近では大学病院の研究者が、
片頭痛の一部に、ヘルペスウイルスの関与があるのではないか、
との発表を続けざまに出し、
実際に抗ウイルス剤を片頭痛の前兆の段階で使用して、
頭痛の予防効果を認めているとの報告があります。

この大学の研究者の研究は、
大雑把に言えば、北海道の開業医の先生の試みと、
ほぼ同じような性質のものです。
開業医の先生は症状だけで薬を使用しているのに対して、
大学の先生はヘルペスの抗体を測って、
参考にしているという違いはありますが、
割と大雑把な仮説の元に、
患者さんに抗ウイルス剤を、
通常とは異なった方法で使用している点は同じです。

にもかかわらず、北海道の開業医の先生は、
全国の専門医と称する権力に袋叩きにされ、
大学の研究者の発表は、
興味深い研究として、
専門家筋から好意的な評価を受けています。

内容はほぼ同じ研究に、
これほど評価に違いがあるのです。
そしてそれは、末端の臨床の医者と大学の研究者という、
権威のみの違いによっている訳です。

まあ、つくづく嫌な世界ですが、
これが現実なのですね。

ちょっと話が脇に逸れました。

片頭痛とメニエール病とパニック障害と。
この三題話の正解は、
おそらくはヘルペスウイルスです。
ヘルペスウイルスの再活性化が、
免疫のアンバランスを惹起し、
こうした病気の原因になっているのです。
従って、ヘルペスウイルスを駆除出来れば、
症状は改善する筈です。
(これは勿論僕の仮説で、
実証されたものではありません)

ただ、ここで問題なのは、
現時点でヘルペスウイルスを完全に駆除する方法を、
僕達は持っていないという事実です。

北海道の先生も大学病院の先生も、
アシクロビル(もしくはそのプロドラックのバラシクロビル)
という抗ウイルス剤を使用しているのですが、
これは一部のヘルペスウイルスにしか有効性がない上に、
効果は一時的でウイルスを完全に駆除することは出来ません。

従って、現時点では効果は限定的なものにしかなり得ないのです。

ヘルペスウイルスを完全にコントロール出来るような治療法が、
今後開発されれば、
おそらくそれまでウイルスと無関係と思われた、
多くの病気から僕達は解放されるのではないか、
と僕は思います。
そして、その中には多分確実に、
メニエール病が含まれているのです。

それでは今日はこのくらいで。

明日は現在のメニエール病の診療について、
僕の疑問に思っていることを、
補足的にお話したいと思います。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 10

midori

おはようございます.お疲れ様です.

私は,仕事が立て込んで睡眠不足が続いたり,過重な精神的ストレスがかかつたりすると,耳がフガフガになります.(プールの後,耳から水が抜けない感じ)
町の耳鼻科クリニックに行くと,「機能性難聴」,大手専門病院では「メニエール病」と言われます.聴覚検査では,高音も低音も聴こえていないそうです.
出される薬はほぼ同じ.ビタミンBと利尿薬とステロイドですね.飲めば何日かで改善します.
ただ,めまいは全く無いので,「メニエール病」という診断には疑問を持っています.
(めまいや乗り物酔いの類は経験したことがなく,一度町を歩いていてフラッとなったことがあり「これがめまいか!」と思ったら,震度4の地震で足元がフラついただけでした...)

まぁ私のことはともかく.
メニエール病ウイルス説はありかもしれませんね.
ストレスで抵抗力が落ちて感染しやすくなる,という可能性はあるでしょうし.
個人的には,信憑性は高いのでは?と思います.
by midori (2009-10-14 09:45) 

ともこころ

こんにちわ。
このお話しにとても興味を持ちました。
というのも、私の母の持病の一つがメニエールです(他にもシェーグレン、甲状腺機能低下)。発症してここ10年程になるでしょうか。幸い、頻繁に発作が起こることはありませんが、年に数回は倒れてしまいます。

そして、私の姉は4年前に顔面神経麻痺を患い、医者によると、耳の中のヘルペスウイルスが原因だそうです。
それ以来、ひどい耳鳴りに悩まされています。

そして、私も5年前、一度きりですが、留学中にひどいめまいと吐き気で立つことさえできませんでした。担当の医者は内耳炎と診断しました。

ヘルペスウイルスによる家族性内耳障害というのは存在するのでしょうか?
姉は右顔に未だ麻痺が少し残っています。私も顔面麻痺の可能性があるでしょうか?


by ともこころ (2009-10-14 15:07) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
めまいの診断は医療機関によって、
かなりまちまちで、
その点は非常に問題だという気がします。

by fujiki (2009-10-14 22:03) 

fujiki

ともこころさんへ
コメントありがとうございます。
「家族性」ということは、おそらくはないと思います。
ただ、ひょっとしたら、ウイルス感染のし易さには、
一定の遺伝的傾向があるのかも知れません。
ともこころさんの以前の症状は、
おそらく「前庭神経炎」ですね。
ウイルス感染でも、ヘルペスとは別物だと思います。

by fujiki (2009-10-14 22:09) 

或るケミスト

こんばんわ。
いつも興味深く読ませていただいております。
ウイルスや免疫が関与する疾病はもっと色々あるかもしれませんね。さういへば、慢性疲労症候群もウイルスの過剰増殖による免疫反応の異常があり、白血病ウイルスに近いXMRVウイルスが関与している可能性が出てきたとアメリカのがん研究所等が9日付のサイエンスに投稿していましたね。
「うつ」なども何らかの原因による免疫異常が引き起こす可能性もあるかもしれませんね。サイトカインがブシブシ分泌されて。免疫が活性化して神経細胞がアポトーシスを受けるなど・・・。
by 或るケミスト (2009-10-15 04:38) 

fujiki

或るケミストさんへ
コメントありがとうございます。
慢性疲労症候群は、ヘルペスウイルス原因説もあります。
ただ、問題は治療に結び付くかどうかです。
感染症のコントロールで精神疾患が完治する、
というのは、決して夢物語ではないと僕は思います。
by fujiki (2009-10-15 08:49) 

みかねこ

初めまして。検索していてたどり着きました。
昨年よりメニエールを治療中です。ぐるぐるめまい、耳鳴り、難聴・・・。私は片頭痛も持っているし、パニック発作も20年以上前からあり、こちらも治療中です。これらの単語が一緒に出ていたので、読ませていただきました。
めまい等の症状、片頭痛は東洋医学でも「水」の異常ととらえられていますし、パニック発作が起きるときは、やはり「水」がうまく排泄されていないのが自分でもわかります。
また、パニック発作はストレス(と疲れ)がかかったときに誘発されるという自覚もあります。しばらく落ち着いていても、仕事上などでストレスがかかると発作が起きますので、働きたくても躊躇してしまうほどです(通勤が苦痛になってしまうため)。

ヘルペスとの関連については、本を読んだことがありました。こちらの記事のような見解からすると、私が今まで苦労してきたことは、もしかするとすべてヘルペスウィルスのせい・・・?一度検査を受けてみたいと思いました。
by みかねこ (2010-01-03 20:10) 

fujiki

みかねこさんへ
コメントありがとうございます。

本当は検査で分かればいいのですが、
抗体価を測っても、
あまり根本的な原因には迫れないのではないか、
と現状では思います。
by fujiki (2010-01-03 21:43) 

YMG

はじめまして

メニエール病の主治医に
メニエール病患者に片頭痛を併発している人が多いという言葉から
メニエール病と片頭痛で検索していて
辿りつき
興味深く読ませていただきました。
といいますのも
私は 5年前の帯状疱疹から後遺症の後頭神経痛になり
その2年後にメニエール病発症
それから3年後の先日 片頭痛の発作を起こしてしまったからです。
8年前から自己免疫疾患の持病もかかえています。
いつも 思っていることですが
幾つかの病気を持っている身を
総合的に診てくださるDr.がいればと思います。

by YMG (2014-09-10 09:50) 

fujiki

YMGさんへ
コメントありがとうございます。
ヘルペスウイルスのコントロールがもう少し選択肢が増えると、
こうした症状の一部は治癒するようになる可能性が、
生まれるのではないかと思います。
by fujiki (2014-09-10 22:16) 

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