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メニエール病と心因性めまいの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はメニエール病についての、
補足的な話です。

心療内科の患者さんで、
めまいの発作を起こされる方が多いことは、
僕の経験からも事実として良いかと思います。

この場合、まず聴力検査で難聴のないことを確認して、
軽い発作であれば、めまい止めの飲み薬を使ったり、
吐き気が強ければ、点滴をしたり、
メイロンという、血液をアルカリ性にする注射をしたりして、
少し様子を診るのが通例です。
もし強い難聴があれば、勿論すぐに耳鼻科に紹介します。

数日で改善がなかったり繰り返す場合には、
病院の耳鼻科かめまい外来にご紹介します。

ただ、僕の経験ではこうした場合に、
メニエール病と確定診断の付くことは少なく、
一番多く患者さんが言われるのは、
「ストレス性のめまい」という診断です。
その次に多いのが、
「良性発作性頭位めまい」で、
これは「耳の奥の小さな石が動く時のめまいですね」
というような説明がされます。
患者さんは症状の強い時には、
大抵家で寝ているので病院には行けません。
従って、病院を受診した時には、
症状は治まって来ていることが殆どです。
すると、大抵言われるのが、
「もっとめまいの強い時に来てくれないと、
診断が付けられないね」
というニュアンスの言葉です。
それでは、救急車で受診すれば良いのかと言うと、
必ずしもそうではなく、
今度は、何故ただのめまい程度で救急車を呼んだんだ、
と迷惑そうな対応をされますし、
救急だからと、殆ど検査らしい検査はされず、
ただ点滴だけして帰されるようなことが殆どです。

つまり、医者の期待する絶妙なタイミングで受診をしないと、
めまいの診断は付けられない、ということになるのです。

どうも納得のいかないおかしな話です。

メニエール病は「内リンパ水腫」が、
診断のためには重要な所見です。

ただ、僕は残念ながら「内リンパ水腫」が確認されたので、
メニエール病が診断されました、
と言われた患者さんを今まで殆ど知りません。

「内リンパ水腫」を診断するには、
どのような方法があるのでしょうか?

一番クリアな方法は、
実際に解剖して、内リンパ水腫の所見を確定することです。
しかし、これは勿論患者さんが亡くなった後でないと、
検査をすることは出来ません。
従って、現在生きている患者さんの診断の役に立つことは、
実際には全くないのです。

それ以外の方法は、
基本的には間接的なものです。

まず飲み薬や注射薬で脱水状態を作り、
それで聴力などの所見が、
改善するかどうかを診る、
という検査があります。
著明に改善すれば、
「内リンパ水腫」が存在する可能性が高い、
と判断する訳です。
蝸電図という、電気現象を利用した一種の聴力検査で、
特有の所見がある、というデータも利用されています。

最近の研究では、耳の奥に造影剤を注入して、
特殊な方法でMRIを撮ると、
「内リンパ水腫」があるかどうかが判定出来る、
との報告があります。

いずれの検査も、結構面倒である上、
それがあれば確定、
と言うほど精度の高いものではありません。
ある検査ではありそうだけれど、
別の検査ではなさそう、という事例も結構あります。

従って、現実にはごく一部の医療機関でしか、
行なわれていないのが実状ではないかと思います。

めまいの診断というのは、一見確立されているようで、
互いの病気の境界には、
結構曖昧な部分があります。
専門外来でメニエール病と診断された患者さんが、
実は脳腫瘍だった、という実例を知っていますし、
どちらも専門医療機関の筈なのに、
ある病院では「メニエール病」と言われ、
別の病院では「良性発作性頭位めまい」と言われ、
更に別の病院では「ストレス性めまい」と言われた方も、
実際に知っています。

「メニエール病」は「内リンパ水腫」が存在する筈で、
特有の経過を取り、
「良性発作性頭位めまい」は、
ある頭の位置で症状の出る特徴があります。
しかし、実際には同じ患者さんで、
ある時は「メニエール病」、
またある時は「良性発作性頭位めまい」と、
それぞれの特徴を示すような発作を、
経過の中で繰り返すことは、
心療内科の外来では、
さほど珍しいことではありません。

それでいてどのような区分のめまいも、
ストレスを誘因とすることでは一致し、
あるめまい専門のクリニックの統計では、
全てのめまいの患者さんの4割で、
不眠などの精神症状を合併していた、
との報告があります。
色々な薬があり、色々な治療が理屈の上では、
個別のめまいの原因に対して存在しますが、
それでいて、ストレスを緩和することが、
全てのめまいに効果的であり、
他の全ての治療より効果のあることは、
めまいに苦しむ患者さん自身が、
おそらくは一番ご存知なのではないかと思います。

「心因性めまい」とか「ストレス性めまい」と称するものは、
口の悪い言い方をすれば、
一種の「ゴミ箱的」診断名です。
原因のはっきりしないめまいは、
取り敢えず「ストレスが原因だね」で済んでしまいます。
「メニエール病疑い」と言うのと、
「心因性めまい」と言うのは、
それほど違ったニュアンスではないことが多く、
往々にして、その患者さんにまだ通院して欲しい時には、
「メニエール病疑い」と言い、
もう通院して欲しくなくなると、
「心因性めまい」と言うのが、
実際ではないのかな、
と思えるような対応が取られることもあります。

メニエール病には、手術を始めとして、
鼓膜の中に薬剤を注入したり、
耳の奥に特殊な機械で圧力を掛けたり、
利尿剤を使ったり、水分を制限したり、
と様々な方法がありますが、
それ以外のめまいには、
これと言った特定の治療はありません。

ただ、結局はメニエール病を含めて、
ストレスを避けなさいと言われたり、
同じようなめまい止めの薬が使われたり、
注射が使われたりする点は同じです。
また、最も治療が進んでいる筈のメニエール病でも、
以前は利尿剤で常にやや脱水にした方が良い、
と言われていたのに、
最近では発作の時以外は、むしろ水を多めに取った方が良い、
と正反対の意見が大勢を占めるようになっています。
もし今言われていることが正しいのなら、
利尿剤を飲み続けていた患者さんは、
却って具合を悪くするための治療をしていたことになり、
病状をわざわざ悪化させていたのですから、
馬鹿馬鹿しくて話になりません。

その経過の中で、
全く正反対の治療が正しいと言われるような医療は、
何かが根本的に間違っており、
むしろ治療を受けないことの方が賢明である場合が多い、
というのは僕の経験からの見解です。

何事においても、極端な制限を課すような治療は、
歴史的に大抵間違いであったことが多いのです。

めまいの所見の細部に拘泥すると、
却って本質を見誤る場合が多いのではないか、
と僕は思います。
治療においても経過においても共通の特徴がある以上、
何らかの共通の原因があり、
それが多彩な見え方をしていると、
考える方が筋が通っています。

僕の持論は、昨日お話したように、ウイルス感染説です。

実際「前庭神経炎」という病気は、
ウイルス感染により、一過性のめまいを起こすものです。
遷延するウイルス感染が、
繰り返す発作を起こすとしても、
少しも不思議ではありません。

ただ、昨日の繰り返しになりますが、
問題はウイルス感染をコントロールする、
適切な方法が存在するかどうかです。
人間の免疫が駆除出来ないウイルス感染症を、
治療により駆除を可能にした事例は、
おそらくC型肝炎だけだと思いますが、
それも長期間の、副作用を伴う治療によるものです。

今後のブレイクスルーを期待して待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

tanico

いつもためになる話題をありがとうございます。
祖父もメニエール病を患っていて、片方の耳が酷い難聴でした。
私も体質かな?と、諦めている部分もありますが、やはり、ストレスが多い生活ですので、めまいとは長い付き合いになりそうです。
うまく付き合っていく方法が見つかればいいなと思っていました。

先生のおっしゃるとおり、耳鼻科では鼓膜の働き弱いからといって、鼻血がでるまで空気を通す棒をつっこまれたり、高い検査の末、症状がでてないからわからないで終わったり、めまい外来に行った時は、良性発作性頭位めまい症といわれましたが、後日妊娠していたことがわかり、つわりが治まる頃にめまいも治まり、結局めまいに対する対処がわからないまま今日まできました。
今回は頂いたお薬がとても効いているようですが、次回はウィルス感染用のお薬を試してみたいと思います。

めまいで悩む方は本当に多いですよね。
ウィルス感染の治療が進むことを切に願います!


by tanico (2009-10-15 11:25) 

fujiki

tanico さんへ
コメントありがとうございます。
めまいの診断には、細かな診断名がある割には、
オーバーラップする部分が多く、
診断も治療ももう少し違う視点から、
整理し直す必要があるのではないか、
と思います。
by fujiki (2009-10-16 08:49) 

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