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タミフル耐性ウイルスの話 [新型インフルエンザA]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

新型インフルエンザにおいても、
タミフル耐性ウイルスが検出された、
との報道が幾つかありました。

まず代表的な最近の記事をちょっと引用します。

タミフル効かない新型インフル28例…WHO 【ジュネーブ=平本秀樹】世界保健機関(WHO)は25日、新型インフルエンザで、抗ウイルス薬タミフルが効かなくなる耐性ウイルスが全世界でこれまでに28例見つかったことを明らかにした。WHOは、周囲に感染者が出た際に症状がなくてもタミフルをのむ「予防投与」と、免疫に障害のある患者への投与という二つの場合、耐性ウイルス発生のリスクが高まると指摘。28例のうち12例が予防投与、6例が重度の免疫障害がある患者だったと説明した。対策として、抗ウイルス薬の予防投与は行わず、注意深く観察を行ったうえで、感染の兆候が出てから投与することを推奨。耐性ウイルスが疑われる場合、タミフル使用を中止し、もう一つの抗ウイルス薬リレンザに切り替えるよう求めている。(2009年9月26日19時32分 読売新聞)

この記事はWHO のサイトにある記事を、
要約して記事にしたもので、
それ自体には特に間違いはありません。
ただ、この記事だけを読むと、
タミフルの効かないウイルスが、
流行しつつあるようなニュアンスが感じられます。
また、国や感染症学会の、
なるべくタミフルを早期に使用するべき、
との考えに真っ向から反対し、
なるべくタミフルは使用しないのが望ましい、
という主張をWHO がしているのではないか、
と読む人が誤解するように、
仕組まれて書かれている、という印象があります。

勿論実際にはそうではなく、
原文をお読み頂くと、
新型インフルエンザの感染が強く疑われ、
重症化のリスクがある時には、
早期のタミフルの使用を躊躇うべきではない、
とはっきり書かれているのです。
タミフルの予防的投与全体を、
一律に否定するような内容でもありません。

タミフルの耐性ウイルスは、
日本でも報告が見られ、その報道もされています。

少し古いものですが、
代表的な報道をちょっと引用します。

新型インフルエンザが全国的に拡大する中、鹿児島県と兵庫県で29日、感染患者2人が死亡した。新型感染の疑い例を含めた死者は、国内で7人目となった。また滋賀県は同日、県内の新型インフルエンザの感染が確認された男児(5)から、抗ウイルス薬「タミフル」が効かない耐性ウイルスが見つかったと発表した。国内での確認は5例目だが、耐性ウイルスが各地で発生している可能性もでてきた。タミフル耐性ウイルスについて、滋賀県は「ウイルスが体内で突然変異した可能性が高い」とし、感染力が弱く広がる恐れはないとしている。男児はタミフルの投与を受けていたが、高熱がなかなか下がらないなどの症状が続いたため、入院した。現在は回復しているという。(8月29日のニュースより)

皆さんはこれらの記事を読んで、
どうお感じになるでしょうか?

タミフルをじゃんじゃん使っているので、
タミフルが効かないウイルスが増えていて、
タミフルなんてもう飲んでも意味がないんじゃないか、
と思われた方もいるかと思います。

確かに今後そうした事態もないとは言い切れません。
ただ、今の時点でのこれらの記事のニュアンスは、
それとはちょっと違うのです。

その点を、今日はご説明したいと思います。

タミフル(オセルタミビル)は、
ノイラミニダーゼ阻害剤、という種類の薬です。
粘膜の細胞に侵入し、その中で増殖したウイルスは、
その細胞から外に出る時に、
ノイラミニダーゼという酵素によって、
細胞から切り離されます。
この時、タミフルがそのノイラミニダーゼにくっついてしまうと、
その効力が低下して、
ウイルスは細胞の表面から離れることが出来ずに、
そこで死滅してしまうのです。

この薬は通常5日間使用しますが、
その場合、頻度は少ないのですが、
通常の季節性インフルエンザでも、
ある一定の確率で、耐性ウイルスが出現します。
その比率は、成人で1パーセント程度、
子供で5パーセント程度と報告されています。

要するに、100人にタミフルを使えば、
必ずそのうち1人くらいは、
薬を飲んでいるうちに、
耐性のないウイルスが耐性ウイルスに変化するのです。

これはウイルスが増殖する時に、
そのアミノ酸が変異するためと言われています。
ある1つのアミノ酸が変異するだけで、
タミフルの効果は100分の1以下になってしまいます。

耐性のウイルスは、概ねタミフル使用後、
4日後から認められ、
ウイルスの排泄が長く続くほど、
すなわち身体がウイルスを排除するのに、
時間が掛かれば掛かるほど、
耐性のウイルスが検出される比率は高くなります。

一般にお子さんの方がウイルスの排泄時間が長く、
免疫のない新しいウイルスほど、
排泄に時間が掛かるので、
お子さんで耐性ウイルスの検出される確率は、
遥かに高くなるのです。

ある統計では、新型のインフルエンザに感染した乳幼児では、
実に2割で耐性ウイルスが検出されると言われています。
(この新型インフルエンザというのは、
そのお子さんが免疫を持っていないウイルスという意味で、
今回の新型インフルエンザのことではありません)

従って、2番目の記事のように、
5歳のお子さんで耐性ウイルスが検出されるのは、
その検出の日時が、タミフル使用後4日以降であるとすれば、
季節性インフルエンザでも起こり得ることであり、
別にびっくりするような事態ではないのです。

よろしいでしょうか?

問題は耐性ウイルスの性質がどうか、
という点にあります。

イタチを用いた実験などによれば、
耐性ウイルスは確かにタミフルは効かなくなるのですが、
そのノイラミニダーゼ自体の機能も低下し、
感染力は100分の1になり、
増殖力も10000分の1になった、
とされています。
要するにウイルスとしては出来損ないになってしまうのです。
従って、このウイルスは毒性は乏しく、
感染を拡大するような力はない、と考えられます。

この実験結果を裏付けるのは、
実際にウイルスが耐性化した患者さんの経過を診ても、
その経過が特に長引いたとか、
重症化したとかといった事例はなかった、
という事実です。

ただ、楽観出来ないのは、昨年度のAソ連型のウイルスが、
その90パーセント以上が耐性ウイルスであった、
という衝撃的な報告があるからです。
つまり、このウイルスに関しては、
タミフルに耐性を獲得しながら、
立派にウイルスとしての感染力も保っているのです。
最近発表されたデータでは、
その症状の経過は、
耐性でないウイルスと変わりはなかった、
とのことです。
この事実は、耐性ウイルスの全てが、
感染力が100分の1になる訳ではない、
ということを証明している点で、
衝撃的なものであったのです。

今回の新型インフルエンザウイルスに関しては、
現時点でそうした意味での「タミフル耐性ウイルス」
の出現は確認されていません。

上の2番目の記事で「体内で突然変異した可能性が高い」
というのは、そうした意味合いなのです。

WHO のレポートでも、
人から人への耐性ウイルスの感染は、
現時点では極めて限定的であり、
通常は耐性ウイルスは速やかに消失し、
特に病状の変化もなかった、と記載されています。
(そうした部分は決して翻訳しないのが、
上の新聞記事の嫌らしいところです)

従って、現時点ではタミフルを新型インフルエンザに使用することは、
耐性ウイルスという観点では、特に問題はないのです。
(勿論安易な予防投与を慎むべきであるのは当然です)
しかし、今後もし、感染力を持った耐性ウイルスが出現すれば、
その様相は一変することになる訳です。

また、この冬に同時に季節性インフルエンザが流行すれば、
Aソ連型のタミフル耐性ウイルスには、
タミフルは無効と考えられるので、
現場の臨床では混乱する事態が予想されるのです。
季節性インフルエンザも重症化はする訳で、
季節性インフルエンザをワクチンで予防することの重要性も、
この辺りにある訳です。

この問題は結構奥が深いのです。

情報を注視し、今後の成り行きを見守りたいと思います。

今日はやや誤解されている方が多いと思う、
タミフル耐性ウイルスの話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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