ピロリ菌の除菌でめまいがなくなったのは何故か？

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は診療所で経験した、
1つの事例をご紹介します。

患者さんはSさん。30代の女性です。

20代の前半に、朝仕事に出掛けようとしたところで、
急に激しいめまいが起こります。
天井がグルグル廻るような感じの症状で、
酷い吐き気を伴いました。

その日の午後、少し症状が落ち着いたので、
近所の耳鼻科に出掛け、
「メニエール症候群」との診断を受けます。
めまい止めの注射をして、
飲み薬を4日分出されます。
それを飲み終わる頃には、
めまいも軽く感じる程度になりました。

2日間仕事を休み、Sさんは復帰しました。

ところが、それからどうも調子がすっきりと戻りません。

肩が酷く張り、凝りも酷く、
時々電気の走るような痛みもあります。
そうした痛みの後には、
決まって吐き気とめまいが起こり、
時にはズキズキするような頭痛が襲います。

めまいを訴えて医者に行くと、
「メニエール病」と言われます。

肩の凝りや痛みが酷い時に医者に行くと、
「首の骨がまっすぐになっているでしょ。これが原因ですよ」
と言われます。

頭痛と吐き気の酷い時に医者に行くと、
今度は「片頭痛」ですね、と言われます。

しかし、そう言われてめまい止めの注射をしても、
その効果は一時的ですし、
首を伸ばす器具を使うと、
却って首の痛みが増してしまいます。
片頭痛の薬も効果はありましたが、
それも一時的で、他の症状には効きません。

ある時にはめまいと共に、
身体の右半身が痺れて動かし難いような状態になりました。
これは「脳梗塞」の症状だと思ったSさんは、
脳神経外科を受診してMRIの検査を受けましたが、
結果は異常はありませんでした。

しかし、右半身の痺れは、
その後も何度もSさんを襲います。

一体何が原因で、こんなことが起こるのでしょうか？

Sさんは、これといったストレスはないつもりでした。
しかし、友人に自分の症状の話をすると、
「それはストレスよ」と即答されます。
「あなたは真面目だから、きっと知らないうちにストレスを溜めて、
プチうつみたいな状態になっているのよ。
心療内科に行ってご覧なさい」
と言われます。

そう言われてみると、
そんな気がしないでもありません。

それでSさんは友人に勧められた心療内科を受診しました。
すると、今度はその医者は、
「気分が落ち込むことが2週間以上続いていますか？」
みたいな質問の並んだテストを幾つかやらせ、
木の絵を描かせたりした上で、
その結果だけで、「典型的うつですね」と言いました。
診察室で、殆どSさんと目を合わせることもなく、
「薬を出しますね」でそれでおしまいです。

もらった薬を飲むと、
更に酷いめまいと吐き気に襲われ、
1回で止めてしまいました。
薬局でもらった紙には、
「気分を明るくする薬」と書かれています。
Sさんは何か騙されたように感じました。

さて、その後Sさんは僕の診療所を訪れました。

僕はSさんが「うつ病」とは思いませんでした。
勿論これだけ沢山の症状に悩まされているのですから、
気分は幾らか落ち込んで当然です。
しかし、仮面うつ病で身体の症状が起こっているのではなく、
本質的な部分は身体の症状にこそあると感じました。

より正確に言えば、
脳の一部分が興奮した抑制したりすることによる、
ある種の神経症状です。

以前記事にしたように、
「片頭痛」とは一時的な脳炎のことです。
その時には頭痛以外に、
多彩な神経症状の見られることが知られています。

その中には前兆としての「肩の凝り」や「めまい」。
頭痛と共に起こる「吐き気」も含まれます。

それと同時に、皮質拡延性抑制（CSK）と言って、
脳の皮質の興奮が波のように脳を広がってゆく、
独特の現象の起こることが知られています。
左脳を主体にその現象が起これば、
当然右半身の痺れや違和感が生じるのです。

つまり、一見無関係に思えるSさんの一連の症状は、
CSKという特殊な現象による、
脳の一部の興奮症状ではないか、
という仮説が成り立つのです。

僕は今、ちょっと勝手にこれを「CSK症候群」と呼んでいます。

さて、Sさんのご同意を得て血液検査をしてみると、
ピロリ菌の抗体が陽性である、との結果が出ました。

幾ら無理矢理診断をしてみても、
Sさんの症状が良くならなければ意味はありません。

片頭痛の原因も不明ですが、
ピロリ菌の除菌をすることにより、
片頭痛の改善した事例が報告されています。

Sさんの症状を、単純な片頭痛と同一に考えることは出来ませんが、
除菌により、「CSK症候群」が改善する可能性は、
絶対ないとは言い切れません。

それでSさんによく事情をお話してご同意を得た上で、
ピロリ菌の除菌治療を行ないました。

すると…

その結果は極めて劇的なもので、
除菌の1週間後から、
強いめまいや吐き気は出現しなくなり、
肩凝りも徐々に消失しました。
勿論右半身の痺れるようなこともなく、
その後半年以上が経過しています。

「CSK症候群」の原因は、
勿論ピロリ菌のみということはないのだと思います。
しかし、その一部にピロリ菌の関与するケースがあることは間違いなく、
時にその除菌治療が劇的な効果を示すことがあるのです。
これは僕の仮説ですが、
ピロリ菌という抗原の刺激が、
特殊な免疫反応を引き起こし、
一種の免疫過敏状態が生じます。
自己免疫に関わる炎症、という言い方をしてもいいかも知れません。
その変化が脳神経からのCGRPのような炎症物質の遊離を惹起し、
一見「ストレス」と一括りにされがちな、
脳の興奮症状を引き起こす訳です。

これは多分他で報告されたことのないものだと思います。

今後こうしたケースを集め、
もう少し整理した形で、
皆さんにご報告したいと思います。

今日は僕が経験した非常に印象的な事例のご紹介でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

コメント 11

はじめまして。
なかなか文章を読まない私が食いついて読んでしまいました。

この私の主人もｓさんより軽い症状ですが
よく似ています。
なんどもめまいが起きています。頭痛もあります。
耳鼻科にいけばメニエール症候群と何度も言われ薬をもらい
すぐには治まらないですが、徐々に消えていきました。

しかし
仕事が忙しく夢でも追い込まれてくるようになると
めまいが起きます。
１度ＱＱ車でも運ばれたことがあります。

このｓさんのをよんで
１度ピロリ菌の検査をさせてみたいと思いました。
が、病院でどのように言うと検査してくれるのでしょうか？

よければお返事お願いします
by kai (2009-11-14 23:04) 

kai さんへ
コメントありがとうございます。
ピロリ菌が色々な病気と関係があることを知り、
心配になったので、調べて欲しい、
と言われれば、大抵は大丈夫ではないかと思います。
大きな病院で偏屈な医者だと、
病気の疑いがないと調べられない、
と言われるかも知れません。
厳密に健康保険の適応という点で言うと、
胃潰瘍の場合以外は、
検査出来ないことになっているからです。
小さい病院やクリニックであれば、
そこまでうるさいことは言われないと思います。
by fujiki (2009-11-15 10:18) 

51才、女性です。私も肩こり首の痛みめまいが酷く、頭痛が酷い時は鎮痛剤を飲んでいます。気分が悪くて横になる事もあります。健康診断でも異常はありません。年齢的に更年期と諦めていたのですが、此処にたどり着きピロリ菌が関係しているのかと思い書かせて頂きました。今年の９月にDEMECALという機関でピロリ菌検査をしましたところ、測定値が４８．９でした。医療機関で相談されることをお勧めします。と書かれているのですが、子供が受験を控えているのと胃の調子は悪くないので、まだ医療機関には行っておりません。自分ではピロリ菌にLG21が良いと言われているので毎日飲んでいます。やはり医療機関に言って相談した方が良いのでしょうか？御助言お願いいたします。
by junko (2009-11-24 23:08) 

junko さんへ
コメントありがとうございます。
LG21はピロリ菌を減少はさせますが、
除菌は出来ないと思います。
junnko さんの症状が、ピロリ菌の除菌で改善するかどうかは、
何とも言えませんが、
出来れば胃カメラ検査で胃の粘膜の状態をチェックした上で、
除菌をされることをお勧めします。
by fujiki (2009-11-26 20:40) 

はじめまして。
ヨーロッパに住んでおります。
一ヶ月以上、右半身の痛みとしびれ、めまいに悩まされていて、
こちらにたどり着きました。
ある朝めざめると、腰痛と同時に胃液がもどるのを感じ、徐々に右半身の痛みや痺れを感じて病院へ行きました。
血液検査・内臓のエコー検査をしても異常はなく、胸部の痛みもありましたので婦人科でマンモグラフィーもうけましたが、以上ありませんでした。
MRIで脳の検査もしましたが異常なく、時間がたつうち、めまいがひどくなってきました。
形成外科でレントゲンをとりましたが、骨には異常がなく、筋肉の痛みだろうということでマッサージを受けていますが、すこし楽になれば、また元通りという状態です。
耳鼻科でめまいの検査もしましたが、異常なしでした。
おそらくピロリ菌のせいではないかというのが、お医者様の見解で
そんなことが全身に影響するのかと半信半疑でしたが、胃にも不快感があったので、胃カメラ検査の結果をうけました。
逆流性食道炎が確認され、胃の細胞もとって、詳しく検査してもらっています。明日、結果がでます。
痛みやめまいが1ヶ月以上続いていて、疲れてしまっていたので、
こちらのページを拝見し、希望が持てました。
ピロリ菌の除去、信じてやってみようと思います。
ありがとうございました。


by shiori (2011-08-18 04:52) 

shiori さんへ
コメントありがとうございます。
経過を読ませて頂く範囲では、
比較的典型的な気がするので、
効果のある可能性はあるのではないかと思います。
ピロリ菌以外でも、
慢性の細菌感染による自分の身体の免疫のバランスの乱れが、
そうして症状の原因となっていることは意外に多く、
除菌治療に効果のあるのは、
そのせいもあるのかも知れません。
でも、ヨーロッパのドクターがそうした見解と聞き、
興味深く感じました。
症状の改善をお祈りしています。
by fujiki (2011-08-18 08:14) 

30代男ですが、こちらのSさんと症状が似ており、腹部の痛みなど一年半ほど苦しい思いをしました。
内科、耳鼻咽喉科→総合診療内科→神経精神科→消化器科
と受診しても改善せず、
最近受けた胃腸科でピロリ菌の陽性がわかり、除菌治療で体調が改善しました。
十二指腸潰瘍だったことがわかりましたが、めまい、頭痛、咽頭痛、吐き気、動悸、手足の痺れや著しい体力の低下などが続いていました。

当初、ピロリ菌でこれほど苦しむものかと思っていましたが、
なんとなく納得です。
by Caz (2013-02-14 21:35) 

Caz さんへ
貴重なコメントありがとうございます。
除菌で症状が改善して良かったですね。
こうした事例は実際には多くあるような気がします。
by fujiki (2013-02-15 08:32) 

このHPを拝見する以前、といっても４日前のことですが、ピロリ菌のことが気になり近医で検査、陽性で現在除菌中です。なッなんと１日目で、朝の胃の不快感は軽快し体は軽く起床できました。それだけではなく、めまいで１５年間コンスタン4錠/日を内服していましたが、のまなくてもめまいは起らず今は１錠、もしくは飲まなくても落ち着いています。不思議に思いインターネットで検索していると、このHPに出会いました。え～～～～！！！やっぱり！です。同じ症状の方がいることに驚くと同時に、もっといろいろな方に知らせたい思いでいっぱいです。これからの生活が楽しみになりました。このHPに巡り合えたこと・・・よかった～ありがとうございました。
by ひろこ (2013-07-23 07:55) 

ひろこさんへ
コメントありがとうございます。
貴重な事例をご報告頂き、
大変参考になります。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-07-25 08:03) 

こんにちは！30代女性です。
私もSさんと似た症状があり、車の運転時や強めのストレスを感じると、胃のあたりがキューっとなってめまいでフラフラすることが多々ありました。
母もピロリ箘陽性だったこともあり、検査を受けると、私も陽性だったので除菌をしました。
それ以降、同じシュチュエーションがあっても、めまいも胃の痛みも感じることがなくなりました。
医師の先生は関係がないとおっしゃってましたが、どうも気になっていたので、このサイトを見て、なるほどと感じます。
ありがとうございました！
by もくもく (2016-06-24 13:25)