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片頭痛の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は片頭痛の話題を幾つか取り上げます。

片頭痛は非常にポピュラーな病気です。

ある日本の調査によると、
人口の6パーセントに発症すると言われ、
特に20代から40代の女性に起こり易いのが特徴です。
このことから、生理周期を始めとする女性のホルモン系に、
何らかの関連があるのでは、という推測が成り立ちます。

典型的な片頭痛は頭の片側の、
ズキズキするような痛みで、
一度始まると数時間から数日続くことがあります。
強い痛みの起こる前に、
特徴的な前兆の起こることがあります。

目の前に光が走るような幻視や、
視野の一部が見えなくなったり、
吐き気や嘔吐、首や肩の凝りや手足の痺れや痛み。
また、頭痛の起こる場所に近い皮膚が、
痛みに敏感になるアロディニア(allodynia )という特殊な症状も、
時に認められます。
光や音などの刺激に、
時に非常に敏感になることも知られています。

こうした前兆は、言ってみれば、
神経の症状です。
脳や脊髄の神経に、頭痛の始まる前から、
ある種の異常な興奮や、逆に異常な抑制が、
見られている訳です。

これは何らかの神経の血流の異常か、
神経の興奮の仕方の異常が、
片頭痛の原因となっていることを想定させます。

片頭痛の原因は、基本的には不明です。

「血管説」という考え方があって、
今でも一部でそうした説明が、
事実であるかのように書かれていますが、
これは今ではほぼ否定されている考え方です。

これはどういうものかと言うと、
何らかの原因によって、
脳の血管の中の血小板から、
セロトニンがどばっと出て、
それが脳の血管を収縮させ、
セロトニンが枯渇すると、
今度は急激に血管が広がるので、
その広がる時に痛みが出るのだ、
という説明です。

ただ、実際には血管の広がる前から頭痛が生じていて、
セロトニンの増加も証明されていないなど、
この説の旗色は相当悪くなっているのです。

それに代わって現在主流の考え方は、
片頭痛とは脳の一種の炎症である、
という考え方です。
顔面の知覚や脳の血流をコントロールしているのは、
脳神経の三叉神経です。
この神経が異常に興奮すると、
三叉神経痛という激しい顔の痛みが起こりますが、
この三叉神経痛と片頭痛とはかなり結び付きが深いのです。
この三叉神経が興奮すると、
その末端からCGRP と呼ばれる、一種の炎症物質が放出され、
脳は炎症を起こして、血管が広がります。
これが片頭痛の主な原因だと言うのです。

その一方で、片頭痛の前兆の時期には、
脳の血流の低下と神経細胞の興奮が、
一種の波のように脳の後ろから前へと広がってゆきます。
これをCSD (皮質拡延性抑制)と呼んでいます。
この事実は、脳の画像を撮る実験の最中に、
たまたま片頭痛が起こったために発見されました。
脳の後ろというのは、
視覚に関わる部分です。
つまりこれこそが、
片頭痛の前兆として、
光が走るような幻視や、
視野の障害が見られる原因だと考えられるのです。

CSD という現象を重視する立場の研究者は、
この現象が片頭痛のそもそもの発端であり、
それが三叉神経の興奮の原因になるのだ、
という考え方です。

ただ、片頭痛にはかなりの頻度で、
前兆が存在しないか、はっきりしないものもあるので、
この点は、全ての片頭痛はCSD が原因である、
との説の旗色を少し悪くしています。

また、疲労やストレスは、
片頭痛を誘発し易いことが知れれていますが、
何故こうした場合にCSD のような現象が起こるのか、
何故三叉神経が興奮するのか、
そうした点について明確な説明は何もありません。

要するに、CGRP という物質の三叉神経からの遊離が、
片頭痛のきっかけとなることは間違いがないのですが、
その前段階は何か、という点については、
まだ不明だというのが実状なのだと思います。

片頭痛というのは、要するに、
原因不明の一過性の脳炎なのです。

従って、炎症を抑える作用を持つ、
解熱鎮痛剤が、効果があるのは当然のことです。

ただ、現時点で最も多く使われている片頭痛の薬は、
「トリプタン製剤」と呼ばれる薬剤です。
これは商品名ではイミグラン、マクサルト、ゾーミック、レルパックス、
そして比較的最近発売された、アマージがそうです。
この系統の薬剤は、セロトニンの1Bと1Dという種類の受容体を、
刺激するタイプの効果を示します。
これは必ずしもセロトニン自体が、
片頭痛の原因だ、という意味ではなく、
セロトニンが1Bと1Dの受容体を介して、
脳の炎症を抑える効果があるからだとされています。
これらの薬は全て同じ作用かと言うと、
必ずしもそうではなく、
1種類の薬剤が無効であっても、
他の薬が効くというケースにはしばしば遭遇します。
アマージはそれ以外の薬とは、
効きの持続が格段に長い特徴があり、
長時間型の薬です。
海外では、短時間型のイミグランとの、
合剤が実用化されています。

トリプタン製剤は、それまでの片頭痛の薬と比べれば、
格段に効果の高い薬です。
ただ、値段の高さもかなりのもので、
1錠1000円くらいする高価な薬でもあります。
また、1ヶ月に10回以上の使用は、
一種の薬物依存を形成して、
却って頭痛を難治性にする場合があるので、
注意が必要です。

片頭痛は幾つかの病気と合併し易いことが知られています。
その代表はアレルギー性鼻炎とピロリ菌の感染症です。
帯状疱疹のウイルスの再活性化との関係を、
指摘する報告もあります。
ピロリ菌を除菌することにより、
片頭痛が改善したという報告もあり、
興味深いところです。

脳梗塞との関係も議論の多いところです。
統計的にはある種の脳梗塞と、
片頭痛との間には、
かなりはっきりとした相関が認められるのです。
しかし、これは決して片頭痛を繰り返すと脳梗塞になり易い、
というような意味合いではなく、
むしろある種の脳の異常で片頭痛が起こる場合があり、
その脳の異常と脳梗塞との間に関係がある、
と考えるべきものだと思います。

片頭痛とは不思議な病気です。
これと言った原因が見付からないのに、
繰り返し脳に一過性の炎症が起こり、
頻発するにも関わらず、
それで脳の後遺症が起こる訳ではありません。

僕の印象は、
多分特殊な感染症の一種ではないか、
というものです。
何らかのウイルス疾患による免疫の異常が、
その背後にあるのではないでしょうか。

そのメカニズムが解明されることにより、
原因不明の多くの病気の解明にも、
同時に繋がるのではないかと僕は思います。

今日は片頭痛の総説でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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