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レビー小体型認知症と幻視の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はレビー小体型認知症と、
その特徴的な症状の1つと言われる、
「幻視」の話です。

レビー小体型認知症は、
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症に次いで、
多いタイプの認知症とされ、
その意味合いで第3の認知症とも呼ばれています。
見逃されたり、誤診されたりし易いタイプの認知症として、
しばしばテレビなどでも最近は取り上げられています。
レビー小体型認知症の総説は、
一度以前取り上げましたので、
お読みでない方はまずこちらをご覧下さい。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-11-28

簡単におさらいをすれば、
レビー小体型認知症の症状は、
変動の大きな意識障害と、認知障害、
そしてパーキンソン症候群と幻視です。
パーキンソン症候群は少し後から出現することが多く、
初期には変動する意識障害と幻視のみが認められるため、
統合失調症やうつ病と誤診されることが多いとされています。

診療所で経験した、
比較的典型的な事例をまずご紹介しましょう。

患者さんはBさん。80代の女性です。
軽い高血圧があり、
診療所に定期的に受診をされていました。
少し物忘れはありましたが、
日常生活に支障はありませんでした。
1人暮らしでしたが、近くに住む息子さんご夫婦が、
定期的に訪問をされていました。
ある時から、息子さんはBさんが、
時々上の空のような状態になることに気付きます。
それから少しして、ある日の夜中に急に電話を掛けて来て、
「今悪い人が家に押し入って来た」
と興奮気味に言うので、
息子さんは慌ててBさんの家に向かいます。
すると、Bさんは半裸の状態で部屋の隅で震えていて、
「何であの柱はあんなに曲がっているのだろう」
とか、
「あそこにいる大きな白い蛇は何処から来たんだろうね」
などと訳の分からないことを言います。
その日は朝までご家族が泊まり、
翌日Bさんは診療所にお見えになりました。
受診時は興奮したご様子で、
診察室にいても、そこが何処なのかは、
まるで分からないような状況でした。

同日総合病院の神経内科に紹介すると共に、
当座の処方として、
リスパダール(一般名リスペリドン)
という抗精神病薬を少量処方しました。

神経内科と精神科の専門医が診察に当たり、
取り敢えず頭のCTの検査で、
大きな異常の有無をチェックしました。
結果は脳に年齢相応の萎縮が認められる他は、
大きな問題はありませんでした。
それから予約をして、MRIとPETの検査が予定されましたが、
Bさんの拒否が強く、結局は試行出来ませんでした。
従って、診断は確定とは言えないのですが、
比較的典型的なレビー小体型認知症の事例といって、
間違いはないと思います。

しばらくはBさんは息子さんの家に引き取られ、
経過を診てゆく方針としました。
場所や時間の混乱は、数日で改善しました。
ただ、そこが息子さんの家であるということは、
理解出来る時と出来ない時があります。
最初リスパダールは1日2mgまで増量しましたが、
1週間程度で減量し、
その後は0.5mgを寝る前に使用するだけで、
ほぼ安定した状態となりました。

酷い不眠はありませんが、
睡眠はやや不安定で、
夜中に起き出すことがしばしばあります。
また、寝たままぶつぶつと言葉を話しますが、
内容は要領を得ず、
そのまま動き廻ることもありますが、
実際には眠ったままなのです。
要するに夢遊病のような症状がある訳です。
これもレビー小体型認知症の特徴ですね。

Bさんの場合、パーキンソン症状はあまりありませんでした。
ただ、これは最初には揃わないことが多いので、
必須ではありません。

1つのポイントは幻視です。
Bさんの例のように、
動物や知らない人が、
何故か不意に視界に現われ、
じっとしているかと思うと、
不意に消えてしまいます。
動物や人間は単調な動きを繰り返すことはありますが、
それほど複雑な場面は演じません。
ディズニーランドの「カリブの海賊」や「ジャングルクルーズ」の、
個々の場面に登場する機械仕掛けのキャラくらいの動きと言えば、
ほぼお分かり頂けるでしょうか。
何故か不思議と動物は蛇が多いですね。
何らかの象徴的な意味があるのかも知れません。
座敷わらしという妖怪がいますが、
あの知らない子供が座敷の暗がりでじっとしている、
というのは、おそらくこの病気の幻視に、
非常に典型的なイメージの1つです。

レビー小体型認知症は、
脳の組織で「レビー小体」と言われる、
特徴的な所見が得られれば確定します。
しかし、その所見は通常患者さんの亡くなった後で、
その脳を解剖しなければ見ることは出来ません。

従って、生前の診断は、
あくまで推測であることを、
心に留めておかなければいけません。
SPECTやPETといった脳の血流や代謝を見る検査で、
後頭葉の血流が低下していることが、
1つの特徴と言われていますが、
これも決定的なものではありません。

治療は現時点で決定的なものはありません。
患者さんの生活に支障のある症状に合わせて、
対症療法を組み合わせてゆくしかないのが実情です。
認知障害に対してはアリセプトがある程度有効とされていますが、
幻視や混乱を助長することもあります。
幻視や興奮に対しては、
Bさんの例のように少量の抗精神病薬が効果がありますが、
副作用のパーキンソン症候群が出易いのが難点です。
逆にパーキンソン症状が出る場合にパーキンソンの薬を使うと、
これも簡単に副作用のせん妄が出現します。
つまり、どの薬も少量で慎重に投与せざるを得ないのです。
今後の治療の進歩が待たれるところです。

さて、レビー小体型認知症は、
見逃され易い認知症だと言われます。
そして、それは確かに事実ではあると思います。
ただ、最近ではむしろ過剰診断の傾向があるのでは、
という疑問を僕は持っています。
ちょっと長くなりましたので、
その点については明日お話したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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